平和な食卓
「ロキ様、お昼ご飯出来ましたよ」
アイーシャがシアタールームにロキを呼びに来た。
「何観てるんですか?」
薄暗いシアタールーム、スクリーンには暗い廃墟を懐中電灯で一人語りしながら歩いている男が映し出されている。
「これ、オヤマダのとこの動画配信サイトで、心霊スポット探索動画ってやつだよ」
「はぁ、死霊だらけの廃墟でこの人大丈夫なんですか?」
スクリーンの廃墟には死霊がうようよ蠢いている。アイーシャには死霊の群れに一人突入する男にしか見えない。
「それがこいつ、見えてないんだよ死霊。見えないのに幽霊の姿をカメラに収めるんだ!って頑張ってるわけ。死霊共がこいつを揶揄うんだけど、全然気付かないの。それが面白い」
「暇なんですねぇ」
「なぁ?暇人よ暇人」
「いや、この人じゃなくて、ロキ様が」
「……」
ロキは黙って動画を停止した。席を立ち、ダイニングに向かいながら、機嫌悪そうにアイーシャに言う。
「今日のお昼何?」
「今日は豚の角煮ですよ、ロキ様の好きな」
「良いねぇ!豚のブロックあったっけ?」
「昨日、ネットスーパーで特売してたんで買いました。大根も安かったですし」
ネットスーパーで注文した商品は、オヤマダカンパニーの秘書課に届けられ、それを舞子が社長室横の資料室の一画にある魔法陣に置く。すると、ロキ邸のキッチンに転送されるという仕組みだ。
他の秘書課の社員は独身の小山田社長が自炊の食料品を届けさせている位に思っている。
「ネットスーパー使い始めたらアイちゃん無敵やん」
「オヤマダ社長が使ってないクレジットカードで会員登録してくれたんですよ。好きに使って下さいなんて言って」
「ふーん、至れり尽くせりオジサンだな、オヤマダ」
「本当に、優しくて面白くて素敵な人ですよね」
「んん、アイちゃんもしかして……オジサン好き?」
「うふふ、どうでしょう?でも私はエルフですからね」
「え?どゆこと?エルフだから何?」
そうこうしているうちにダイニングに着いた二人、ジルの姿が見えない。
「あれ?ジルちゃん、何処行ったんだろう?さっきまで配膳手伝ってくれてたんだけど」
「ジルちゃん……」
いつからそんな仲良しになったんだ?と困惑するロキ。
「あ、いた」
ジルは扉の影からダイニングルームを覗いている。
「ジルちゃん何してるの?一緒に食べましょう」
「アイお姉様、美味しいかどうか自信がないの……」
「アイお姉様……だと?」
この短時間の間に、この二人に何があったと言うのだ!俺がしょーもない心霊動画を観ている間に!
しかし、目の前には美味そうな豚の角煮。腹が減ったロキはジルに席に着く様催促する。
「ジル、早く食べようぜ。腹が減っちまった」
「うん、ロキ、これ好きでしょ?豚の角煮」
「あぁ、大好きだ。良く角煮作る時間あったな?」
「ジルちゃん、朝から来てずっと煮込んでたんだもんね?」
「へぇ、凄いじゃん。あ、ジル、そこの練り辛子取ってくれ」
ジルはチューブに入った練り辛子をロキに手渡す。
「はい、ロキ。何なのだ?これは」
「これは、こうして器のはじに塗って、具材に付けて、食べる」
「どうじゃ?」
ジルが心配そうにロキの顔を覗き見る。
「美味い!良く味が染みててご飯が進む。おっ、この大根と揚げの味噌汁も美味いな!これもジルが作ったのか?」
ジルの表情がパッと明るくなった。
「ふふふふ〜、そうなのだぁ!姉様にほとんど手伝ってもらったけど……」
「いえいえ、私は教えただけで味付けとか調理全般はジルちゃんですよ」
「ほーん、じゃあ次は揚げ物にチャレンジだな?」
ロキは美味そうに食べ続け、箸が止まらない様子だ。
「ジルちゃん、ロキ様は基本見た目が茶色いメニューが大好きなんですよ?前にランチプレート勝負した時に、真ん中のご飯の周りに豚カツと唐揚げと豚の生姜焼きを並べたくらいだから」
「でも、美味かったろう?男にとっちゃ夢のプレートだぞ」
「美味しかったですけど、お陰で胃もたれも凄かったです!」
「あははは……ん?か、辛い!は、鼻がツーンとするぅ!」
ジルが涙目になりながら鼻を押さえた。
「ジル、辛子の付け過ぎだ、ちょっとで良いんだよ」
「先に言ったくれー!でも……美味しいな、この料理!」
三人それぞれに、穏やかな時間が流れている。
これが平和ってやつだ。とロキは二人を眺めて思った。




