姫友が出来たよ
ロキ邸、キッチンルーム。
アイランド型の広いステンレス製システムキッチンの作業台には様々な食材が所狭しと並べられている。
「で、女王陛下が共も連れずにキッチンで何しているんだ?」
「見れば分かろう?料理をしているのだ」
ジルは野菜を洗いながら答える。腕まくりをし、か細い手で慣れない様子だ。
「ん?女王が料理などする必要ないだろう?テーブルに座ってりゃ勝手に料理が運ばれてくる」
王室には当然、専用の料理長を筆頭とした10人以上の料理人を抱えている。王族は紅茶を入れる位の心得はあっても、一生包丁など持たない者が殆どである。
「違うのだぁ!作ってあげるの、料理を……」
顔を赤らめ、照れながらジルは言った。
「ほほう、ふむふむ、いよいよか?相手は誰だ」
ロキは顎に手をやり、ジルにいよいよ想い人が出来たかと、少し揶揄う様に言う。
ゴトリ、っとアイーシャが手にしていた包丁を置いた。
「ロキ様?ちょっとデリカシー方面が不足している様ですから補充してあげましょうか?」
ゲンコツを口に当て、はぁ〜と息を吹きかける。
「た、確かに〜!すまんすまん、いつまでも幼いジルじゃなかったな!そ、それで、アイちゃんに教わっているのかなぁ?」
ロキはまるで親戚の叔父さんの様な気持ちで揶揄ってしまい、失敗した。しかし、やはりロキにはジルがどうしても可愛い姪っ子の様に見えてしまうのだ。
「侍女達が相手の男を射止めるならまず胃袋を掴むのよって話しているのを聞いてな、王室の料理長に言って教わろうと思ったのだが、そんな必要は御座いませんと言って断られたのだ……」
「ん〜……だろうな。胃袋がどうのってのは庶民の話だから。第一、王族の付き合いで料理を振舞う機会なんてあるのか?」
「ロキ様?ジル様は今日、私を尋ねてきたのです。なんか、もう本当にうるさいのでシアタールーム辺りでぐーたらしていて下さい!昼食出来たら呼びますから」
恋愛に疎いアイーシャも、ジルの仄かな恋心に気付いている。このまま話していたらそのうちロキがジルを傷付ける様な事を言いかねない。
「お〜怖っ!アイちゃんが怒ったぞ〜逃っげろ〜!」
怒られる前の子供の様に逃げ去るロキ。
「全く……すいませんねぇ、ジル様」
「お主らは本当に仲が良いのう……」
「今のやり取りに仲良しな所、ありました?あ、その鍋のアク取りお願いします、汁はなるべく捨てない様に」
「あんな風に言いたい事を言えるのは仲が良い証拠ではないか?妾には周りが気を遣って憎まれ口を叩く者もおらんし、逆に妾が怒ったフリをすれば相手の首が飛びかねん……」
オタマでアク取りしながら話すジル。
「物騒ですね……でも、私達になら言っても大丈夫ですよ?憎まれ口。ロキ様はあんな人ですし、これでも私、一応エルフの里アルファインの姫なんで、気持ちは少し分かるんです……」
「そうじゃ、我らは姫同士。姫友じゃった!」
パッと表情が明るくなってアイーシャを見るジル。
「姫友……うふふ、そうですね。友達、みたいな感じで接してくれて構いませんし、何でも相談して下さい」
ジルをちらっと見ただけで、照れたのか目線を落とし野菜の皮を剥きながらアイーシャは言った。
「では、アイお姉様と呼んで良いか?妾の事はジルちゃんで良い!」
ひとりっ子のジル、初めて出来た対等な姉の様な友達に嬉しくてたまらない様子だ。
「ジルちゃん……2人きりの時なら、ね。じゃあ、ジルちゃん、そこのお皿取ってくれる?」
「うん!はい、お姉様!」
ジルは満面の笑みで、お皿をアイーシャに渡した。




