魔王、仲間と和平を話し合う
魔王城では腹心が大陸北側の制圧をほぼ完了させ、和平提案の検討に入ろうとしていた。
「ハッシュ!聞いてるだろう?まずは先のズール包囲戦の映像を見せてくれ」
レイスがハッシュを呼ぶと少し間があってハッシュが魔法陣から現れた。バスタオル一枚を腰に巻き、裸足の姿である。髪も身体も濡れていてシャワー上がりの様だ。
「お待たせ!今、別の次元の女の子とデート中でさ。で、映像だけ出せば良いの?」
ハッシュは次元の書を開き、玉座横の空中に大画面のモニターを開き、映像を再生した。
「じゃあ、僕は忙しいからまたね!」
ハッシュはそう言って、魔法陣から姿を消した。
「ちっ、相変わらずムカつく野郎だ」
魔女狼ウルが悪態をつく。
再生された映像にはズールの王都を取り囲む魔族の群れが映し出された。
「落城寸前ではないか?本当にここから負けたと言うのか」
炎鉄のバロスが手に持った頭を首に戻しながら言った。
「あっつ!ちょっとバロス、鎧が熱いんだよ、もうちょい僕から離れて見てよ!」
魔人カイゼルがバロスのチンチンに熱せられた鎧に耐えられない様子で文句を言った。
「これはすまない、カイゼル」
バロスはガシャンガシャンと音を立てながら横へ移動した。
「バロスさん、あまりこっちへ来ないで下さいまし。熱くて蒸発しそうですわ」
セレナにも嫌がられて行き場が無くなったバロスはかなり後ろへと遠ざかった。
「おい、真面目に見ろ」
レイスに一喝されて、一同は映像に目を向ける。
「あっ黒龍!……何度見ても恐ろしい。私は幽体なのにあの熱線の直撃で蒸発して死んだのですわ」
セレナが殺された場面を思い出して身体を震わせた。
「うんうん、怖かったよね黒龍。デカい、硬い、速い、そして凶暴。僕なんかセレナが殺されたの見て隠れたもん」
「カイゼル坊や、普通は敵討ちだ!って立ち向かうものよ?」
「冗談でしょ、僕はそんな馬鹿正直じゃないよ。ま、結局逃げ回ってる内にエルフの綺麗なお姉さんに一刀で真っ二つにされたんだけどね、あはは……ホント、綺麗な人だった」
殺された相手を思い浮かべながら、カイゼルはうっとりした。
映像では戦闘ヘリのアパッチ軍団と黒龍の編隊が龍の大群を攻撃している。
「兄上、この映像は凝ってるね?音楽付きだ」
「いや、カイゼル。これは戦場に流れている音楽だ。あの空飛ぶ鉄の乗り物から発生しているらしい」
「ふぇ……カッコいい。僕も今後戦闘する時は楽隊を編成しよう!」
映像は自軍側に巨大な象が3頭現れるのを捉えた。
「でかっ!!あれ、幻影魔法……だよね?」
「いや、実体だ。あれもハッシュが異次元から呼び寄せている」
「あの青髪の御仁、ただ軽いだけの優男じゃないんですねぇ」
セレナが感心して言った。
「あぁ、セレナ。私は一度攻撃をした事があるけど、悔しい事に手も足も出なかったよ」
ウルは玉座の間にハッシュが現れた際、攻撃を仕掛けながら身体を硬直させられて、あしらわれていた。
「あれはあれで化け物なんだねぇ……」
「見よ!象が黒く染まっていくぞ!」
遠くからバロスが映像を指差して叫んだ。
カイゼルが映像に目を凝らす。
「何だあれ?アリじゃないか?大量のアリが象に群がってる!」
「おぉ!極小が極大を斃そうとしておる!素晴らしい戦いだ!」
バロスが鎧から炎を吹き出しながら感動する。
魔法陣からハッシュが顔だけ出して言った。
「うんうん、そこ凄いよねー何回観ても鳥肌立つよー!って、あっごめんごめん!」
しかし、誰かに引っ張られてすぐに顔を引っ込めた。
レイスが咳払いして一同に問う。
「この後、体長100mの黄金の三頭龍が出るが、見たいか?」
「見たい見たい!」
と、カイゼル。
バロスが続く。
「魔王様、是非に」
暫く経って……映像が終わった。しかし、一同は、言葉を失っていた。
魔王レイスが口を開く。
「どうだ?カイゼル。これが我らが相手していた敵の実力だ」
「うーん、なんかさぁ。僕たち、神か何かの戦いに巻き込まれてない?だって今の映像、魔族対人間の戦いじゃなくて、ハッシュ対ロキ、観客が魔族と人間じゃない」
「他の者は?」
「私は再び生を受けた以上、闘いの中に身を置きたいと願いますが、魔王様の決断に従います」
バロスが頭を下げながら言った。
セレナが続ける。
「私は……そうですねぇ、折角の勝者からの和平ですから、受けるがよろしいかと。と言うか……あの黒龍と再び戦うなんて真っ平御免ですわ」
ウルは一同を見渡して、和平の空気に抗うように言った。
「魔王様は!強く……なられたのですよね?」
「あぁ、以前と比べ何倍もな」
「であれば!」
「まだ、雑魚らしい。ハッシュに言われたわ」
「あやつ!」
「まぁ怒るなウル、恐らく事実だ。ハッシュとやり合っても片手でやられるらしい。ロキに至ってはハッシュが直接戦うのを避けるほど強いそうだ。まぁ実際、一度死にかけたからそれは分かる」
「……」
一同は、思わぬ魔王の独白に黙って聞く他無かった。
「幸い、ロキと話した限りでは自分たちの戦いにこの大陸を巻き込んでいる自覚はあるらしい。だから、彼らに踊らされて自滅する愚を避ける為にもこの和平を受けようと思う。お前らは我が腹心、理解してくれたのであれば、今、ロキに和平受諾の連絡をしようと思う、よいか?ウル」
「仰せのままに……」
魔王レイスはスマホでロキに電話した。
「もしもしロキ?ま、魔王のレイスだけど?」




