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ロキは最強に飽きている  作者: 月極典


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黒龍はエルフの姫を求めるなり


 里長の居館は他の住居より立派だが、華美な装飾は無い思ったよりもシンプルな外観であった。

 

 応接間に通される間も富を誇る様な絵画や彫刻の類いも飾られていない。

 この部屋も長テーブルに白いクロスをかけ、蝋燭が灯された燭台があるのみである。

 

「お迎えに上がらず、申し訳ない。ロキ殿」

 

 扉を開けて現れたのはアイーシャとそう歳が変わらない様に見える同じく銀髪の美しいエルフだ。

 金糸の装飾が施されたシンプルなドレスが似合っている。

 

「普段来客など殆どない故、礼儀に失するかもしれないが、そこはご容赦願いたい」

 

 彼女はそう言いながらロキに近づき自己紹介した。

「私はエルフの里アルファインの里長ティアナです。そこのアイーシャの母親でもあります」

 

「ロキと申します。この度はご迷惑かけたにも関わらず私の様な余所者をお招き頂き有難うございます」

 

「ふむ、アイーシャからは変わった御仁と聞いていたので少々不安でしたが、礼儀正しい方で安心しましたよ」

 

 お互いの自己紹介をしている間に食事が運ばれている。運んでいるのはアイーシャや先程出会ったエラやサラだ。どうやらメイドの様なものを雇う文化は無いらしい。

 

「さぁ食事にしましょう、晩餐と言えるものではありません。どうか、知り合いの家に食事に来たくらいのつもりで気楽になさって下さい」

 

 里長ティアナは話好きらしく、エルフの文化や風習について面白おかしく話をしてくれた。アイーシャも緊張を解いて会話を楽しんだ。

 

 食事が終わり、里の果実酒を飲み交わしながらティアナは本題を切り出した。

 

「聖大樹様の結界ですが……ロキ殿がおっしゃるとおり弱まっているのは事実です」

 

「数千年の間、維持されてきた結界が弱まっているとは何か理由があるので?」

 

「はい、実は月が満ちる夜毎、黒龍がどこともなく飛来して結界に向けて火球を落とし、時には結界の上で何かを呼ぶ様に咆哮し、里の者を恐れさせているのです」

 

「今夜は満月ですね?では今日も黒龍は現れると」

 

「はい、暫くすれば……不躾なお願いですが、聖大樹様の結界の上から更にロキ殿が結界を張って頂けるのであれば……」

 

 ロキは少し思案して言った。

「それは容易いのですが……結局は先送りにするだけで黒龍の脅威は無くならず、里の皆さんの恐怖は続く事になるのではないですか?」

 

 ロキが言い終わると、遠くで落雷の様な轟音が聞こえた。

 

「来ました、黒龍です!」

 

 ロキは表に出て頭上を確認した。丁度聖大樹の上に巨大な黒龍の影が見える。

 

「どデカい……想像の倍……いや三倍だわ」

 

 アイーシャが隣で不安そうに見上げている。

「あと何回月が満ちたら壊れてしまうのでしょうか……」

 

「まぁ黒龍は本来知的な生物だよ。そこいらの魔物の様に破壊を楽しむ様な性質は無いさ」

 

 ロキはアイーシャの手を握ると

「じゃあ行こうか」

「え?私も?」

「だって俺だけじゃ結界抜けられないでしょうが」

 

 ロキが飛翔するとアイーシャも仕方なく追従した。

二人が結界を出ると黒龍の姿がはっきりと目視出来た。

 

「良いなぁ!初めて見たぜ、こんな立派な黒龍!どんな魔物もこの威容には平伏するだろうよ!」

 

「何を感心しているんですか!ちょっともう手を離して!」

 アイーシャは黒龍を実際に見てその恐ろしさに気を失いそうだった。

 

 黒龍が動き回る二人を見た瞬間、金属音が混じる様な猛烈な咆哮を発し、口から火球を恐ろしい速さで連発してきた。

 

 ロキはそれを飛翔でかわし、後ろに回り込む。

回り込まれた黒龍もその巨大な翼を羽ばたいて飛翔し、背後を取らせまいとした。

 

 ロキは黒龍の背後に回り込むのに十分な速さを持っていたが、自ら攻撃する事は無く攻撃をかわす事に徹していた。

 

 何回かアイーシャの手を離し単独で飛翔してみたが、攻撃はロキに集中した。まるでアイーシャは見えていないかの様だ。

 

 (なんか、怒ってるな。多分、俺に……)

 

「アイーシャ、ちょっと怖いかもしれんがお前をアイツの背中に乗せるからなんとかしがみついといてくれるか?」

 

「私を貢ぎ物にする気ですか!?そんなのあり得ない!このエルフ殺し!」

 

 何回か攻撃をかわした後、ロキはアイーシャを連れたまま後ろに回り込み、黒龍の背に彼女を乗せ手を離した!


「ちょっと!どこ行くの!落ちる、落ちるってー!」

 と思ったが黒龍は暴れ狂うのやめて首をなるべく水平に保つ様に飛び始めた様に見えた。

 

「やっぱり、そうか」

 

 ロキは黒龍の額に手を当てて

「見せてくれ黒龍、お前の記憶を」

 

 黒龍が見せたのは二頭の幼龍の内、身体の小さかった方が親龍から捨てられる場面、捨てられた傷だらけの幼龍を介抱する一人のエルフの子供。

 

 その子供こそがアイーシャだったのだ。

 

 ロキは黒龍の背にしがみつくアイーシャにその記憶を話した。

 

「あの時の子が、こんな立派になったのですね。あの咆哮は私を呼んでいただけだったなんて……」

 

「龍の恩返しってやつだな、聞いた事ないがね」

 

「そう思って見ると、どことなく面影があって可愛らしい……」アイーシャが精一杯手を広げて龍を抱きしめた。

 

「全く調子が良いぜ、さっきまで死ぬだの落ちるだのエルフ殺しだの大騒ぎしてたくせに……」

 

 (これからは私に会いたければいつでも来ると良いわ、もう里の結界を壊そうとしてはいけませんよ)

 アイーシャはそう心の内で呟いて、黒龍の背を撫でた。黒龍はそれに反応する様に小さく咆哮した。


 二人を背に乗せた黒龍は里の上空迄戻って来ると、なんとそのまま里の結界を通り抜けて聖大樹のある広場に降り立った!

 

 里のエルフ達は遂に結界が破られたと大騒ぎで蜘蛛の子を散らす様に逃げ惑った。

 

「みんな落ち着け!あれを見よ!」

 凛とした声でティアナが指差す先にロキとアイーシャの姿があった。


 二人は手を繋いだまま黒龍の背中から降りてティアナの元に向かう。

 

 向かう途中で手を繋いだままな事に気づいたアイーシャが顔を赤らめながらそれを振り解く微笑ましい姿も見られた。

 

「アイツはもう大丈夫です、ティアナ様」

 ロキは黒龍が里に来ていた理由を説明した。

 

「これからは、里に危険があればアイツが助けに来てくれるみたいです、新たな里の守護者の誕生です」

 

「おぉ……何という事だ、それなのに私達は長い間この黒龍を恐れ憎んでさえいたとは……勇気を出して対峙していれば分かり合えたかも知れぬのに、申し訳無く思う」

 

「まぁ仕方ない事です。見た目がこれですから」

 黒龍は広場に何とか収まっているが長い尾は流石に入りきらず、広場から伸びる中央の通りにまで至っている。

 

 やがて黒龍は聖大樹を首を伸ばして見上げると、何やら会話している様に見えた。その後、首をまた下げたかと思うと、そのまま地に伏せた。

 

 次の瞬間、聖大樹全体が緑色に光出した。

「おぉ……聖大樹さまの加護の儀式が始まる……」

 

 ティアナ、アイーシャを含め周りのエルフが一斉に片膝をついた。

 

 緑色の美しい光は輝きを増すとその輝きで黒龍と、立ちすくむロキまでも包み込んだ!

 

「なんか……凄い事……起きた……」

 ロキは呆気にとられてそう呟くのが精一杯だった。

 

 ティアナは立ち上がるとロキに言った。

「聖大樹様がエルフ以外の種族に加護を与えるとは……」

 

「加護を与えられたらどうなるのかな?」

 

「この里への出入りが可能となるのは勿論の事、果てしの無い長寿を得て、さらに魔力も増大する事でしょう。もっとも、ロキ殿は底知れぬ魔力をお持ちの様なので実感出来る程か分かりませんが」

 

「長寿……もしかして……あなた方の様に千年生きても老けない……?あ、いてっ」

 アイーシャがロキに膝蹴りを入れた。

 

「女性に対して見た目の話は失礼ですよ」

「まぁまぁアイーシャ、許してあげなさい。でもねロキ殿、エルフに年齢と見た目の話は禁句なんですよ?ふふふ」ティアナは笑っているが、しっかり釘を刺した。

 

 ロキは誤魔化す様に黒龍の顔に近付いて言った。

「おい黒龍、良かったな!珍しいらしいぞ聖大樹様の加護を受けるなんて。俺たちはこれから里に何かあったら駆けつける仲間だなぁ!」

 

 黒龍は横目でジロリとロキを睨んでバフー!と鼻息を鳴らした。

「なんかまだ凄い距離を感じるけど、これからよろしくな!」

 

「ロキ殿は明日、ここを旅立たれるそうですが」

 

「まぁ、行く宛も無い自分探しの旅みたいなものなんで急いでも無いんですけどね」

 

 ティアナは少し思案していたが

「ロキ殿、御礼という訳ではありませんが、その旅にアイーシャを共としてお連れ願えないでしょうか?」

 

「ちょっと、お母様、突然何を言い出すんですか!」

 

「アイーシャ、私も貴女位の時に大陸を数百年旅して回りました。これは里長に繋がる者の試練なのです。勿論外の世界には危険が嫌という程ありますが、それを乗り越えて里に戻った時、貴女は里長たる器となるのです」

 

「でも、お母様は一人で巡ったのですよね?なぜ私はロキ殿と一緒なのですか?困ります、そんな……」

 

「いえ、私も道中様々な出会いがありました。時には二人、時には二十数名の大所帯で冒険した事もありました。その出来事の一つ一つ、仲間達一人一人と紡いだ思い出が今の私を里長たらしめているのです」

 

「俺には願ったり叶ったりの申し出ですが、どうする?アイーシャ、俺は一緒に来てもらえたら嬉しいんだが」

 

「……わかりました……仕方ありません……お母様のお言い付けですので……」

 顔を真っ赤にしながらアイーシャはロキの旅に同行することを認めた。

 

「それではティアナ様、明日の朝、アイーシャを迎えに上がります」


 と言うわけで、私はロキ様と旅に出る事になりました。が、翌朝ロキ様が昼まで起きて来ず、私が見張り小屋へ迎えに行ったのは言うまでもありません……。

 

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