いい湯だな、アハハン
アイーシャは露天風呂に浸かって身体を癒している。
目の前の夜空は満点の星が煌めき、喩えようもなく美しいが、彼女の表情は心ここに在らずと言った様子だ。
ロキ様はこれからどうするのかな……。
あの青髪の男、ロキ様の事を知っている様子だったし、もし、記憶を取り戻したら私の前から突然居なくなってしまう気がする……
ふと、アイーシャの瞳から涙が流れ始めた。
あれ……涙が出てきちゃった……
思わず湯に顔をつけ涙を止めようとするが、余計に嗚咽が漏れて湯船を波立たせた。
はぁ、駄目だ、やっぱりお風呂は余計な事を考えてしまう場所なんだ。もう出よう、ロキ様も早く入りたいだろうし。
そこへ、夜空を散歩でもしていたのか、黒龍が露天風呂にやってきた。
「黒龍も来たのね、身体、洗ってあげましょうね」
黒龍が甘えた様に小さく咆哮した。
アイーシャは一糸纏わぬ姿で湯船から出て、黒龍用のブラシを手にした。
トレーニングフロアを出たロキは階段を降り、下の浴場に向かった。
更衣室の扉を確認し、アイちゃんマークのドアプレートが無いのを確認した。
ロキが入浴中はロキちゃんマーク、アイーシャが入浴中はアイちゃんマークのドアプレートを掛けておくのが二人のルールとなっている。
だから、ロキは完全に油断していた。
室内の浴場で身体を洗い、サッと湯船に浸かり、露天風呂へと向かった。
遠目に黒龍が見えた。
「おっ黒龍も風呂かぁ、今日は大活躍だったからなぁ、疲れたろ……ん?」
湯気の向こうに、黒龍の身体を洗う、一糸纏わぬ色白の後ろ姿があった。
黒龍がロキに気付いて物凄い咆哮と共に火球を三連打した!
ロキはそれを結界で防御して慌てて言った。
「黒龍、待て!風呂で攻撃すな!そうゆうのじゃない!出る!出るから!」
「あれ、ロキ様?なんで入って来ちゃったんです?」
ロキは衝立に隠れながら
「何でって、アイちゃんプレートかかって無かったから!」
「あ、忘れてました。えへへ……」
「えへへじゃないよ、どってんすたべな!」
「まーた津軽弁ってやつ」
「とりあえず一回出るから、終わったら教えてよ」
「いえ、私ももう出ますから、向こう向いてて下さい」
ロキはアイーシャを見ないように反対を向いた。
パシャパシャと水音を立ててアイーシャが近づいて来るのがわかる。
ロキが柄にも無くドキドキしていると……
後ろからアイーシャが抱きついた。
黒龍は空気を読んだか、夜空に飛び立った。
「ロキ様、一つお願いがあります」
「な、なんでしょ?」
「私に黙って居なくなるのは禁止です……」
「わかってるよ」
「あと……」
「二つ目……」
「あと!この世界から離れる時は必ず私を連れて行って下さい……」
「アイちゃん……」
ロキは振り向こうとした。
「駄目、こっち向かないで。恥ずかしいでしょ」
「お、おぅ……二つ目もわかった。約束しよう」
「わかったら、温泉にゆっくり浸かって下さーーい!」
アイーシャは力任せにロキを湯船に突き飛ばした!
ロキが湯船から顔を出した時、もうアイーシャは居なかった。
「はぁぁぁあ、いい湯だなぁ……アハハン」




