此処はエルフの里アルファインなり
「見張り小屋は、あちらになります」
アイーシャは一際大きな大木の上、枝葉に隠れて設置された小屋を指差した。
「この先を行ったところに滝があり、美しい水場となっています。食事は後程、誰かに持って来させましょう」
「何から何まですまない、本当に助かったよ。一晩休ませてもらったら立ち去る事にしよう」
一晩と聞いてアイーシャは何となく寂しさを覚えた。何せ、殆ど話した事の無い里外の者との関わりであった。もう少し会話をしたいと思ったが、その糸口が彼女には見つけられなかった。
ロキは会話が続かない微妙な間を埋める様に聞いた。
「……ところで、あまりあれこれ詮索するつもりはないのだが、あの結界に守られた辺りが里なんだよね?あぁいや、何かしようって訳じゃない。ただ……」
「ただ……何でしょうか」
アイーシャは少し警戒する様な表情で尋ねた。
「いや、結界がね、どうやら綻びかけているように見えるのでね。あのままだと、仮にさっき程度の魔物でも、襲撃を受けたら破られかねない」
「そう……ですか。」
事情があり聖大樹様の結界がこのところ徐々に弱まっていくのを彼女は知っていたが、里外の者にもわかる程になっているとは……。
「もし良ければだが、俺があの結界の上から更に堅固な結界を張らせてもらうが、どうだろう?」
「それは私では判断出来ませんので、里長と相談の上、お答え致します……」
水場から戻ったロキの身体は、どうしたことかすでに傷一つなかった。
(うーむ……思い出せん。記憶を辿ろうとすると頭が取れそうなほどの激痛が走る。幸い力は使える様だし生きて行く分には問題ない。まぁ追々思い出すだろう、成るように成るさ)
ベッドに横になったロキにノックと共に声がかかる。
「ロキ殿、里長が謝意を伝えたいと、異例な事ですが里へお連れする様にとの事」
ロキは扉を少しだけ開けて答える。正直もう横になって寝たいところなのだ。
「あー、いやそんな歓待を受ける様な事してないからなぁ、逆に謝りたいくらいだし、あと……ちょっと面倒くさい」
「め、面倒くさい?」
アイーシャの俯き加減の美しい顔が瞬時に顎が上がり怒気を含んだ表情で睨みつけた。
「よ、喜んで〜!只今支度しまーす!」
「よろしい」
アイーシャは微笑んで元の美しい表情に戻った。
結界の入り口に着いたが、先はまだ森が続いてた。
「私の肩に手を置いてください。私に触れていれば結界を通れますので」
「ほう、なるほど……」
そう言うなりロキはアイーシャの手を握った。
「ちょっ!な、何をする」
突然の事にアイーシャは顔を真っ赤にして手を振り解こうとしたが、強く握られているわけでもないのに手を離すことは叶わなかった。
「良いじゃないか、肩でも手でも触れている事に変わりはないだろう?」
「全く……軽口ばかり叩いて貴方って本当に……」
「さて、行こうか御呼ばれに」
二人は共に結界を通り抜けると外からは姿が見えなくなった。