ビンタされる男と恋する男
魔王城の高い天井。
現れた魔法陣から、徐々に姿を見せたのはロキだった。
ロキは既にトールハンマーを振りかぶっている。
ターゲットは当然真下にいる青髪の男である。
魔力を込めたハンマーをその脳天に向けて振り下ろす。
「よっこい……しょーいちっ!」
その破壊的な一撃は青髪の男の防御結界に止められる。
「だよね」
ロキは予想していた様ににやりと笑った。
「でも、ちょっとだけ傷が入った。ってことはその内壊れるって事だ!」
ロキはハンマーを恐るべきスピードで連続して撃ち下ろす!
「サー〜アー〜〜サーアータシタガー〜ヨイヤー〜♪」
何故か、津軽小原節を歌い上げながら……。
パリンッと防御結界が割れた。
「何だんずー、冒頭すか歌えねがったべなぁ」
津軽弁で残念がるロキ。
「や、やぁ、驚いたじゃないか……僕の事……わかる?」
青髪の男がロキの記憶を確かめる。
ロキが男を見る、直感で見覚えがあると感じたが。
「さぁ……知ら……ん……ううっ」
記憶の奥底、その男の事に手が届く直前で強烈な頭痛に見舞われる。
流石のロキも頭が割れそうな痛みに耐え切れず、しゃがみ込んだ。
「おぉ、レイス。これはチャンスってやつだよ?今なら殺せるかも」
魔王レイスは躊躇した。自分の攻撃でもなく弱っている仇を倒してこの屈辱が晴れるのか?
「言っておくけど、首刎ねて、脳と心臓を潰して地獄の業火で焼いて灰にしないと復活するからね」
それを聞いてレイスは覚悟を決めた。
そう、相手は化け物だ。卑怯だプライドだのにこだわっていて倒せる相手ではない。
レイスはロキに近寄りながら、両手を黒く禍々しい大剣に変形させた。
両手を大きく振りかぶり、ロキの首根と胴体に放った!
しかし、ロキの首と胴体に大剣が届く寸前。
「どっせい!!」
アイーシャであった!
彼女は王城から魔法陣に飛び込んだロキを追いかけて来たのだ。
レイスの大剣と化した両手がアイーシャに両断され地面に転がっている。
「き、貴様はエルフの従者」
「うるっさい!」
アイーシャは魔王レイスの片足を魔剣で払った。
レイスは間一髪で飛び退いた。
「ロキ様、立ってください」
アイーシャはロキの胸ぐら掴んで無理矢理に立たせる。
「何で……一人で……黙って……行くんですかぁー!」
強烈なビンタをロキに放った!
頭痛を忘れる程のビンタにロキは目の前の相手が憤怒するアイーシャだとわかった。
「怒って……ます?」
「おこですよ、激おこピュンピュン丸です!」
「ピュンピュン……古く、そして可愛い……」
「いいですか?ロキ様は強いです。人外、化け物、怪物君と言って良いくらいです。でも!従者然と振る舞ってますけど、私の中では常にパートナーだと思っているんです!」
「人生のパートナ……」
「違います!旅の!冒険の!」
アイーシャは赤面しながら否定した。
青髪の男はそのやり取りを口に両手を当てて聞いている。
「え、ちょっと待って無理……なにこれ、尊いんですけど?この場面でエルフの美女が助けに入って、しかも強くて?更にビンタからの説教?……」
青髪の男はよろよろと自分の魔法陣へと向かった。
「実際に初めて見たけど、めちゃくちゃ美人だし……何でロキなの?何で僕じゃないの?嗚呼、恋する気持ちと嫉妬で狂いそうだ……」
「おい、何処へいく!」
レイスは男を呼び止める。
「ちょっと無理、これ以上そのイチャイチャを見ていられない……一旦帰る……」
青髪の男は頭を抱えながら自らの魔法陣から消えた。
「……」
魔王レイスは再び危機を迎えた事を悟った。
「さてと……頬がまだジンジンしてるけど、真犯人には逃げられたし、どうしようか魔王」
ロキはレイスを真っ直ぐに見据えて言った。
「どうしようかも何も戦いしかあるまい。先程、お前が一人で王都を守るのを見た。この前、俺との戦いで見せた戦いに飽きたお前とは別人の様に楽しんで戦っていたな」
「別に一人で戦ったわけじゃない。このアイちゃんもいたし、黒龍って仲間もいた、呼び出したアパッチ軍団やアリも頑張ってくれた」
「そうか、この俺が貴様をどこまで楽しませる事が出来るかわからんが、精一杯……」
魔王レイスは魔力をその身体に込めてこれから始まる戦いに備えたが、その言葉はロキに遮られた。
「和平だ。和平しようぜ」
ロキは片手を上げて気軽に言った。




