王都防衛戦 ⑾それは海上から現れた
狂った奴らを呼び出すと言ったロキはキャノピーを閉めると立ち上がり、次元の書を取り出し、開く。
金色に輝きながらページがめくられていく。
「んー、この数だ、ちょっと手を加えよう」
「イーミン……トゥ……ナラ……フィ」
ロキが唱えると、次元の書から無数の光が西の海に向かって飛んでいく。
ロキはキャノピーを開けて、シートに座った。
「アイちゃん、来るよ」
「え、なにが?」
「狂った奴らさ」
その時、魔獣で埋め尽くされた大地と空の咆哮と雄叫びで騒然としている一帯を異質な音が響き渡る。
海上から何か聞こえる。
それはスピーカーから流れる大音量の進軍ラッパだった。
アイーシャが西の空を見ると、空を飛ぶいくつもの黒い影がこちらに向かっていた。
「あれは、機影……あれって……」
「コッポラ先生、ごめんなさいってやつだ」
次に聞こえて来たのはこの地におよそ相応しくない、オーケストラの爆音だった。
「これは、ワーグナーのライド……オブザ……バルキリーズ……」
アイーシャは以前ロキと一緒に観たオヤマダの世界で過去にあった戦争を描いた映画を思い出した。
(アイちゃん、何故英語……)
やがて、大量の機影が近づいて姿がはっきりとした。
それは数百もの攻撃ヘリの大軍であった。
コクピットに通信が入る。
「ロキ、あの海は良い波が立ってるな?」
「やあ中佐、サーフィンは戦争が終わるまでお預けだ。最新のヘリにしといた、乗り心地はどうだい?」
「最高だ、兵士がタマをやられないで済む」
「それじゃあ、中佐。ダンスの時間だぜ!」
「ハッ!お前が言うな、ロキ!」
大音量のリヒャルト・ワーグナー「ワルキューレの騎行」と共に上陸した攻撃ヘリ「AH-64アパッチ」が猛威を振う。
地上の魔獣には対戦車ミサイルヘルファイアが火を噴く。龍の大群には空対空ミサイルが追尾する。
黒龍は管弦と金管が織りなす勇壮な音楽が気に入ったのか、アパッチの軍団と華麗な連携を見せた。
まるでダンスを楽しむ様に咆哮しながら、攻撃ヘリと時に編隊を組んで攻撃し、時には後ろから迫る火球を迎撃した。
「おいロキ!その乗り物はデカくて高級だな!製造メーカーは何処だ?」
ロキは黒龍を隊長機に誘導し、中佐に向けて、すれ違いに敬礼した。
「ロキ!西側のウネウネ動いてる森を焼かないとサーフィンが出来ないぞ?」
「だが中佐、ナパームは駄目だ。ここはまだガソリンが開発されてないし土地が汚れる、爆撃だけにしてくれよ?」
「あの匂いを嗅げないのは残念だが、ロキが言うなら仕方ない爆撃要請する」
やがて、海上の空高く、恐ろしく巨大な3つの機影が迫って来た。
「ロキ様!あれは?黒龍くらいありますよ!」
アイーシャはその大きさに驚いている。
「あれはB-52、巨大な爆撃機だ」
全幅で50mを超える爆撃機と比肩し、しかも高速移動する黒龍も大概だが、B-52もストラトフォートレス(成層圏の要塞)に違わぬ威容だ。
B-52は西側、海岸線に沿いながら湧くトレントの群れに向けて絨毯爆撃を行う。
トレントの群れは爆弾の直撃を受け、甲高い悲鳴を上げながらバラバラになりながら燃えていく。
B-52は爆撃しながら遠ざかっていった。
しかし、その内の1機が地上から攻撃が直撃し、煙を上げながら墜落した!
「ありゃ、落とされた」
「ロキ様、あそこからの攻撃です!遠くにめちゃくちゃ大きいゾウさんがいます!」
「ゾウさん……アイちゃん、それは可愛いのかな?」
「ぜんっぜん、可愛くないです!」