王都防衛戦 ⑼痛いところをつかれた男
東の城門が開いた。
開くと同時に群衆が呻き声を上げながら次々と雪崩れ込んで来て、全ての者が倒れ込んだ。
ロキはそれを見て素早く指示を出す。
「戦士は倒れた人達をすぐに広場へ運んでくれ!生き返っても次の群衆に押し潰されて死ぬぞ!」
「わかりました!」
不死の軍勢が雪崩れ込んで来ると緊張していた兵団は我に返り、鎧を脱ぎ捨て山となりつつある群衆に駆け寄った。
ロキは、次元の書を開いた。
「生物の居ない氷河期の世界……このあたりか」
そう呟いて魔法陣をいくつか出し、更に呼びかける。
「即死してしまった者、もう助からない者はこの魔法陣に入れろ。後で取り出して埋葬する。……おい、そいつはまだ助かる。広場に運べ!」
アイーシャは人々を広い場所に移しながら状態を確認し次々と指示を出している。
「この方は助かりますから広場に!この方は……残念ですが魔法陣へ!」
群衆の中には当然ながら各地で戦っていた兵士の姿もあった。その内、明らかに他の兵士とは異なる兵装の戦士や魔法士がいた。
「勇者様だ!他の方々もいるぞ!」
兵士が叫んだ。ロキはそこに近づいた。
「彼らにはこの修羅場を助ける力がある」
そう言って、勇者パーティの面々に手を添えて自らの魔力を送り込んだ。
「おい、起きろ寝ている場合じゃないぞ?」
ロキは勇者の頬を叩いて無理やり目を醒させた。
「う……うぅ……あれ、ここは……」
「此処は王都だ、見ろズール城だ」
ロキは指差しながら答えた。
「生きていたのか、僕は」
勇者は城を見て茫然としながら呟いた。
「いやいや、完全に死んでたよ。屍になりながら王都を襲っていたな」
「襲っ……そ、そんな馬鹿な!僕はさっきまで魔王と戦っていたんだぞ?あっ!ロキ殿……」
勇者は、目の前の人物が魔王城まで戦いを共にし、魔族に対し無双していたロキである事に気づいた。
「うん、お疲れ、魔王城ぶり。……なんか、説明面倒くさいな……おーい誰か、こいつに経緯を説明してやってくれ!」
ロキは黒龍に乗ろうと立ち上がったが、勇者に呼び止められた。
「ロキ殿!魔王は死んでいません!あの後、首を取ろうと近づいた我々は何者かの力で身体が動かなくなり、気づいた時には魔王は復活していました。前とは違う真っ黒な身体に赤く光る目、そして金色の呪文が全身刻まれている不気味な姿で……」
「ふーん、あっそう。やっぱり第四形態あったのね。普通第三で終わりじゃない?くどいラスボスって嫌だねー」
「ふーんって……僕らは全滅したんですよ?感想はあ、そうだけなんですか?」
「だったら勝てば良かったでしょ?戦う、負ける、死ぬ。当たり前の事じゃないか。瀕死の相手に止めさせずに反転攻勢されて今ココ、だよ」
「確かに、僕らは弱かった……でも……でも……ロキ殿、あんただって……途中で帰ったじゃないかぁー!!」
「うっ……だぁーかぁーらぁー!今、こうして頑張っているんでしょうが!!ぐずぐず言わねぇで説明聞いて人命救助に全力尽くしやがれ!」
ロキは珍しくプンスカしながら黒龍の元へ歩いていく。
「ふん、なんだアイツは!魔力を流して元気にしてやったのに逆ギレしやがって……アイちゃん、此処は任せて俺たちは次行くぞ!」
「はい!ロキ様、今行きます!」
アイーシャが走って来るとそれを追い越す様に勇者が駆け寄ってくる。
「ロキ殿、先程はカッとしてしまい申し訳ありませんでした。ところで、僕はまだ名を告げていませんでした」
「え、あぁ、うん……どうぞ」
ロキはまたルイードの様な長ったらしい名前を覚悟した。
「僕はルイです。勇者やってます!」
満面の笑みで勇者は名乗った。
「ルイ、それだけ?ルイ君、いいねぇ……」
ルイは人命救助に尽力すべく走って戻って行った。
「ロキ様、珍しくプンプンしてましたね?」
アイーシャは不思議そうにロキの顔を覗きながら言った。
いつも飄々然としているロキは怒る事はあっても、大抵は謁見の間の時の様に挑発の為の演技だった。
「城門から雪崩れ込んで来た人を見てな……俺があの時終わらせておけば、彼らも怖くて痛い思いせずに済んだのかなってな……」
ロキはその時の自分に思いを馳せながら呟いた。
あの瞬間、トドメを刺すのを躊躇ったのは本当に飽きただけだったのか……。
「あのロキ様が……自主的に反省してる……私の教育は間違って無かったんですね……」
ロキの様子に、アイーシャは少しからかう様に言う。
それにロキは冗談で返した。
「お母さんみたいに言わないで!」