グライネはエルフの里にいた
「ティアナ様、グライネ様がいらっしゃいましたよ!」
正面玄関に出たエラがダイニングに顔を出して里長ティアナに伝える。
「オヤマダさん、私の友人もご一緒して宜しいかしら?」
「我々はご厄介になっている身ですから、どうぞどうぞ!逆に我々こそ宜しいので?」
「それはもちろん。エラ、案内してあげて」
やがて、エラに案内されてグライネがダイニングに姿を見せた。
「こんにちは〜」
気軽な感じで挨拶するグライネだが、その姿は神秘的な輝きに満ちている。腰まである翡翠色の髪を揺らし、金の髪飾りが王冠のように頭に乗っている。髪色と同じ翡翠色の瞳は優しさと深い知性を感じさせる。雪のような白い肌の素顔はうっすらと赤く染まって少し恥じらっているようにも見えた。
グライネは真っ直ぐにオヤマダに向かって歩いてくる。
しかし、オヤマダは口を半開きで完全に惚けている。世界中を飛び回るオヤマダが、今まで出会ったどんな存在より美しいその姿に完全に言葉を失っていた。
「社長! オヤマダ社長!」
秘書の勅使河原舞子に肩を揺さぶられてやっと我に返って立ち上がり、挨拶した。
「お、お、小山田き、金次でっす! はじめまして!」
「私、オヤマダ社長の秘書の勅使河原舞子です。社長、珍しく緊張しているみたいですいません」
(こんなに緊張してる社長、初めてだなぁ。有名な国家元首でも軽妙洒脱に……は言い過ぎだけど、リラックスして冗談言いながら話せるのに。ウケるかは別として)舞子は内心驚いていた。
グライネは微笑んで右手を差し出して挨拶した。
「私、ここアルファインでレストランを営んでいるグライネと申します。宜しくお願いしますオヤマダさん、勅使河原さん」
ウィガンの元恋人グライネ。次元の書封じの術をウィガンに授けた張本人である。ウィガニスの攻撃により、愛する惑星ロンデニウムと共に消滅したはずであったが……。
オヤマダは差し出された右手を僅かに触れて、上に挙げながら拝むように深々と頭を下げた。
「森の外からのお客様なんて珍しいわね? ティアナ」
挨拶を終え、グライネが席に着きながら尋ねた。テーブルの端に座ったホストのティアナを挟むように座ったオヤマダとグライネ。経緯を説明しようとしたオヤマダだがグライネを前にしどろもどろになってしまい上手く話せない。隣の舞子が代わりに説明した。
「そうですか、ウィガンに地球が……。これは私の責任です、申し訳ありません」
鎮痛な表情で謝罪するグライネ。
同一人物だ!グライネの反応に舞子はやっと確信が持てた。
しかし、オヤマダは、
「いえいえ、元はと言えばウィガンに次元の書封じを教えた人が悪いんですよ。グライネさん、奇遇にも同じお名前ですね…………ま、まさか!?」
(ま、まさか、じゃねぇだろ、気付くの遅いわ、小山田金次……)舞子はフルネームで突っ込んだ。
舞子はグライネに訴える。
「グライネさん、なぜ亡くなったはずのあなたがここにいるかとか、危険な術をウィガンに教えたことを責めたりしません。お願いです、私達の故郷の地球を救って欲しいのです。今、ロキ様達が次元の書無しでウィガンと戦っているはずなんです!」
舞子は地球に残された家族や友人を想い、感極まって自然と涙が溢れた。
舞子の必死な様子に、グライネは静かに話し始めた。
「実は、ロキが聖大樹様経由でここに来た時、私に気付いて話をしたのです。本当に久しぶりの再会でしたが、次元の書封じの術解除についてはその時に伝えました。すると、彼はいつもの調子で、何だそんなことかと言ったのです」
「では……」
「はい、使えなくなった時間を逆算すれば、そろそろ解除出来るはずです」