最後に教えてやる
宇宙戦艦ウィガニス、ブリッジ。
『4980円、やっす〜〜い』
AIグライネが移住区の戦いを見ながら鼻声で呟いた。通販番組の女性アシスタントのようだ。
「安いって、わかるの? グライネさん」
カイゼルはロキが何を言っているのか、さっぱりだったのに、AIグライネが反応したことに驚いた。
『はい、ギャラクシーサーチで調べました。あの大きさで5000円を切ってくるとは驚きです』
「う、うん。値段なんてロキが適当に言ってるだけだと思うけど……」
『知っています、ちょっとノリを合わせただけです。ところで……カイゼルさんにお尋ねしますが』
「うん、なに?」
『あのウィガンを子供扱いするロキという侵入者、もしや、次元の管理者のロキですか?』
ロックが話に割って入る。
「ああ、そうだ。管理者というより次元の遊び人って感じだけどな。この艦にもいただろう? 殺されたグライネとか、あとローズマリーって性悪女はまだいるんじゃないのか?」
『ローズマリーはウィガンに見限られて既にこの艦を去りましたが……。そうですか、あれがロキ……』
◇
移住区。
真空パックされたまま仁王立ちのウィガン。挙げた両手の指と歪んだ顔面を僅かに動かしているが、ロキの冗談のような術で作られた圧縮袋は強力で破るには至らない。
「ロキ様、これ何待ち?」
黒龍ノアの背に乗るアイーシャが聞く。
「流石にこれで終わりってことはないでしょ? 宇宙最強なんだから」
「いやいや、そういう余裕いらないから! さっさとトドメ刺して!」
「そう? トドメなんか刺さないでも待ってりゃ窒息して死ぬよ?」
「おい、やれ」
アイーシャの目が再び座った。
「はい」
素直に従うロキがウィガンに近づいた。自らの右手を眺めてトドメをどう刺すか考える。剣で首を刎ねるか、槍で心臓を貫くか、迷ったが素手で心臓を引き抜くことに決めた。
「せっかく布団圧縮袋を繰り出したのに、結局はこれか。もう少し楽しめるかと思ったけど地球のこと考えりゃそうも言ってられないか……」
言いながらウィガンの胸元に手で触れて心臓の位置を確認し、左胸に手を突き立てる。
「最後に教えてやる。お前が殺したと思ってるグライネ、生きてるよ」
苦しんでいたウィガンの両眼がカッと見開かれた。
◇◇◇
同じ頃、エルフの里アルファイン。
里長ティアナの館では、オヤマダと勅使河原舞子を囲んで食事が振舞われていた。
館の正面玄関をノックする音が聞こえ、エラが対応に向かう。
何やら話し声が聞こえ、戻って来て言った。
「ティアナ様、グライネ様がいらっしゃいましたよ!」