オンライン首脳会議
ウィガニスの通達から30分後、名目GDP上位50カ国が招待され、大規模なオンラインによる首脳会議が開かれた。ウィンドウは50枠であるが、オフラインの窓がいくつか見られる。
超大国U国大統領がイラついた様子で言う。
「C国とR国はどうした?」
大統領補佐官が耳打ちする。
「クソッ、アイツらトップを2度交代させる為に忙しくて参加できないそうだ」
ウィガニスからの要求は、各国の政治指導者か、もし辞任した場合は辞任した当人と次期指導者の出頭である。指導者の力が絶大である場合、当該人物を守る為に身代わりを2人立てるくらいはやってのけるだろう。
「なるほど、そんな手があったか……」
「誰だ、今発言した卑怯者は!? いいか、こんな要求してくる奴らだ。今現在のトップが誰で、実質的な影響力が誰にあるかなど、とっくに調べがついている。形だけの身代わりなんぞ何の意味がある! 下手すりゃ奴らを怒らせて国そのものが破壊されかねんぞ」
「えーー大統領、ひとつお尋ねいたしますが」
N国総理大臣が話し始める。
「彼らに対抗する手段は、本当に無いのでしょうか? 例えば、コンピューターウィルスを当該宇宙戦艦に侵入させて……」
総理大臣はいつか見た映画を参考に提案してみたが、U国大統領を怒らせ、叱責される結果となった。
「どうやって? これは映画じゃないんだ! そんな事が技術的に可能だと言うならお前の所でやれ!」
「いや、大統領。我々の軍事力では到底無理な話でありますが、噂では貴国は既に地球外生命体との交流が……」
「この際だから言おう。確かに我が国には保護していた地球外の知的生命体がいた。しかし、船影を見てそれがウィガンの宇宙戦艦ウィガニスだと知るや、恐れをなしてさっさと逃げやがったのだ」
次の瞬間、プツンッと画面がブラックアウトした。
画面にテキストが映し出される。
『のんびりと首脳会議している最中に失礼します。今、話の出た知的生命体の母船は既に撃墜しました。また、政治指導者を2度交代させ、保身を画策する反乱国には48時間後、当該国全体を更地にする決定をしました。』
画面が戻った。各国首脳はそれぞれのウィンドウ内で関係者と慌てた様子で話し合っている。
U国大統領が覚悟を決めたように話始める。
「各国、聞いてくれ。今、我々に出来るのは指定された場所に呼ばれた全ての国の首脳が顔を揃え、地球人類の生命の保証を懇願する事だけだ。速やかな移動手段が無ければ我が軍が輸送機を手配しよう。遠慮なく言ってくれ」
オンライン首脳会議を終えたN国総理大臣は大きな溜息をついた。
「良いアイデアだと思ったんだがなぁ、2段階首相交代……」
「総理、あれは絶対的な権力者じゃないと無理な荒技です。あなたでは無理でしょう。私ならぜーーったいに断りますから」
首脳会議を聞いていた官房長官が言う。彼は以前、首相候補の1人だったが、総裁選に敗れた。負けて本当に良かったと胸を撫で下ろしている。
「はっきり言うね。ま、そんな事したら国が更地になるらしいからね。地獄で国民から袋叩きになるわいな」
総理大臣は力なく言う。
その言葉を無視して官房長官。
「政府専用機の準備は出来ています。U国の当該空軍基地とも着陸許可が取れています。すぐに出発しましょう、私は国の混乱を全力で収めますから」
「ええっ、あんたは、行かないの?」
「はい、呼ばれているのは政治指導者だけですし、総理の外遊中に国内を治めるのは、私の責務ですから」
確かに、国内はひどいパニック状態で戦時下の様相であったが。
「外遊って……私だけってわけじゃないよね? 誰か付けてくれないと。私、英語カタコトなんだから……」
「外務省の事情を知らない下っ端役人を1人付けますからご安心を。それでは、なんというか……行ってらっしゃいませ!」
死地に向かう総理大臣の彼の事を哀れに思った官房長官は、形ばかりの敬礼をした。
各国、差はあるものの、大体このような感じで大統領や首相は出発したのである。