メインAI
宇宙戦艦ウィガニス。
ブリッジへの直通エレベーターが到着し、扉がゆっくりと開く。
ウィーーーーン
ロック一行は、エレベーターの両脇に身を潜めてブリッジからの攻撃に備える。
「…………」
しかし、反応が無い。ロックは慎重にブリッジの様子を伺う。
「おいおい、誰も居ないじゃないか……」
ロックがブリッジに足を踏み入れ、カイゼル達もそれに続く。
ブリッジに人影はなく、並んでいるはずのコンソール類も見当たらない。広い半円状の部屋、それを囲む様に大きなはめ殺しの窓、中央に唯一設置されているのは高さ1.5mの円筒形の台座のみである。
「これじゃまるで展望台だな」
ロックは台座をポンポンと叩いて窓際に進む。
ウルが窓に駆け寄り、外を見て叫ぶ。
「すっげぇ! カイゼル見てみろ。なんかどデカい綺麗なタマがあるぞ!」
カイゼルも窓の外を見る。
「綺麗なタマ? そんなもの…………ホンマや!」
「アレは地球だ、ウル。もちろんお前らの住む地球とも、俺がいた次元の地球とも別物だが、まぁ似た様なものだ」
窓の外には巨大な地球が見える。青い海、緑の大地、白い雲が混ざり合い、ウル達がマーブル状の美しい玉に見えたのも納得の美しさであった。
「アレが地球かぁ、あんな綺麗なところにアタシらは住んでるんだなぁ……っておいっ、さりげなく肩を組むなロック!」
ウルが肩に回された腕を外そうと身体をよじるが、それに構わずロックはある疑問を口にした。
「しかし、おかしいな。この船は太陽を狙ってたんじゃないのか? なんだって目の前に地球がある」
その疑問を受けてカイゼル、
「確かに、真っ直ぐ地球に向かってるように見えるね」
『その通りです』
突然、彼らの背後から女性の冷たい声が聞こえた。
「誰だ!? ……ん、ホログラム?」
部屋の中央の何も無かった台座に、今はホログラムで投影された、無表情の女性の頭が浮かんでいる。
『私は、この戦艦ウィガニスを運航、管理しているメインAI。現在、この艦の目的は恒星破壊から惑星侵略プロトコルに切り替わり、自動的に進行中です』
ロックは、相手に攻撃の意思がないと見て腹の探り合いを始める。
「ふーん、得体の知れない侵入者に随分と親切に教えてくれるね?」
『構いません。教えたところであなた方に何が出来ますか?』
「確かにな、船長さんでもいりゃ別だが、相手がAIじゃ力ずくってわけにもいかねぇ。どうせ本体はここには無いだろうしな。だがよ、太陽の破壊をやめてくれて助かったぜ。因みに、その惑星侵略の方はどうすりゃ止まるんだ?」
ロックは、意外と口の軽いこのAIがすんなり情報を漏らすのではないかと、さり気なく核心をついた。
『惑星侵略プロトコルを停止するには、権限者のウィガンの命令。もしくはウィガン死亡の場合は、新しい権限者の命令が必要です』
どういうつもりか、メインAIはすんなり情報を与えた。
「んじゃ、さっさとウィガン討伐に合流するかぁ。ロキのことだ、もう倒してたりしてな」
そう言ってロックはエレベーターに戻りかけた。
しかし、メインAIが冷たく言い放つ。
『それは不可能です。あなた方の唯一の出入り口である、エレベーターの運行を停止しました』
「あれま……」
と、カイゼル。
「クククッ、バロスのダンナ、上がって来れないねぇ」
お気楽なセレナは楽しそうに笑った。
こうして、バロスを除くロック達一行はブリッジに閉じ込められることになった。