戦況
ここで、戦況と各地の状況を確認しよう。
◾️宇宙戦艦ウィガニス
太陽から地球侵略の為、間もなく目標軌道高度に到着。その高度とは、地球上からの攻撃手段が皆無であると判断し、国際宇宙ステーションなどが地球を周回する低軌道(LEO)である。
早い話が、迎撃手段を持たない地球文明は完全に舐められているということになる。
しかも、既に中軌道(MEO)を通過する中、数多くの衛星が攻撃を受けるまでもなく、ウィガニスを守るエネルギー防御壁に衝突、破壊されスペースデブリ(宇宙ゴミ)と化していた。
◾️ウィガニス艦内
[移住区]
住居用高層ビルは地下へ格納され、代わりに出現した超高硬度の巨大砲台は、ゴーズとミニゴーレム達の活躍により、無力化。砲台の直撃を受けた白龍エルザを、黒龍ノアが見守る中ユーベが回復を施している。
ちなみに、地殻喰らいのゴーズは地下で高層ビルを上の方からガジガジ食べている。
「ゴッキュ?」
[格納庫]
異界の魔王ロック、カイゼル、ウル、バロス、セレナがブリッジを目指す中、ウィガニス兵の一団をなんとか退け、ブリッジに繋がる巨大なエレベーターの前にいる。
目標はブリッジを制圧し、太陽への攻撃を中止させることだ。ウィガニスの目標は地球侵略へと変化していることを一行はまだ知らされていない。
「セレナ、エレベーターで毒霧やめろよ?」
[ウィガン寝室]
ロキによるふざけたロケットパンチの攻撃や、グライネの名を出した挑発により、ウィガンは第二形態に変化し巨大化しようとした。寝室を破壊され船外に放り出されてはたまらないと、ロキは巨大な魔法陣でアイーシャ、レイス諸共転移させた。
残されたのはウィガンから愛想を尽かされたローズマリーだけである。
「さて、どうしようか……ロキとウィガン、どちらが勝ってもってやつだ。地球に戻って好きなラーメンでも食べるかねぇ、ライス付きでさぁ」
◾️地球
接近する物体が地球外からの巨大宇宙戦艦であることが確定し、超大国、ヨーロッパ主要各国、アジア主要各国がオンラインで緊急会談。SETIプロトコル(地球外生命体との接触ガイドライン)に基づいた対応を行うことが決定され、各国政府から正式に各国民に対し、情報公開が行われた。
それは概ね次のような内容である。
『当該宇宙船の接近の目的は、現在不明。主要国の政府及び宇宙関連機関が平和的に通信を試みている。国民においてはパニックになることなく、政府からの正式な続報があるまで平時同様の生活を保つこと』
無理な話である。あらゆる企業活動が停止し、インフラの供給にも影響が出始める。しかし、皮肉なことに世界の紛争の大半も停止、一時的に平和が訪れる。
だが、各国政府には昼夜を問わず、次第に膨大な数の国民が集結しつつあり、パニックによる暴動も各地で起き始めていた。
[超大国大統領執務室]
頼みの綱である放浪の地球外生命体イリウス・グッデンハイム(仮名)から敵の正体を聞いた唯一の地球人である大統領は頭を抱えていた。
支配層の処刑……。それを他の主要国の首脳には伝えられずにいた。ズケズケとものを言う男だが、今は巨大なグリズリーの前に裸で立たされているような気分だ。
(このまま、何もせず、何も決定せず、行方をくらまし、ゴルフでもやって最後の日を迎えたい……どうせ終わりなのだ、何もかも。こう見えて私は老人なんだ、映画の主人公のようにはなれない)
地球の支配者が絶望に打ちひしがれる中、宇宙戦艦ウィガニスでは、異界の者たちが、この星を守ろうと戦っている。