拳を発射する男
ウィガニス移住区上空。
ユーベが飛翔している。
「おう、凄い数の砲台だわ。こんなのに片っ端から撃たれたら堪らん……さてと、黒龍と白龍はどこかな?」
遠目に緑色のオーラが見える。黒龍は聖大樹の加護を受けている為、オーラを纏っている。
「あれか、それにしても聖大樹も黒龍に加護を与えるとは珍しいの。加護持ちの巨龍が暴れたら厄介この上無いではないか」
上空から見た黒龍ノアは白龍エルザをその翼で抱き守る形で地上に横たわっている。そこへユーベが着地した。
「おい、黒龍。目を覚さんかい!」
ユーベは巨龍を恐れることなく声をかける。
黒龍ノアが目を覚ます。目の前に見知らぬ男。
しかし、その身に纏う自分と同じ聖大樹の加護に敵ではないと判断した。横たわりながらだるそうに尋ねる。
「お前は……誰だ?」
「ほう、人語を解すか。名はユーベ、ロキの知り合いだ。オヤマダという人間に化けて代わりにこの艦で人質になっておった」
「そうか……よくわからんが、オヤマダが世話になったのなら礼を言う」
驚いたことにノアはオヤマダを助けてくれたことをユーベに感謝した。
「なんと、龍が人間のあやつと絆があるか!」
ユーベの常識では、龍が人間と交流するなどあり得ない。ましてやオヤマダは異界の普通の人間である。
「絆はよくわからんが、あいつは……まぁ、気のいい面白い男、人間の中では邪念の無い珍しいタイプだ。あの一緒に居る女も負けずに面白い」
2人に対するノアの行動からもわかるが、オヤマダと舞子を仲間として気に入り、認めているようだ。
「確かに、愉快な男であったわ。おっと、こうしちゃおれん、お前は加護の力で既に回復しつつあるが、カミさんの方は瀕死だ」
「俺は回復が使えない。出来るか?」
「その為に来たわい。さぁ、そのデカい身体を退かせ」
ユーベはエルザの巨体を調べる。翼、胴体、脚、あらゆる箇所が強力なレーザーで貫かれている。
「おい、治せるか?」
ノアが巨体を揺らして覗き込み、エルザの身を案じる。
「デカい身体で覗くな、陰になって見えん。少し集中するからあっちに行ってろ」
ユーベはエルザの巨体を青いオーラで包み込み、生体構造を解析する。小さく頷きながら、患部に手を当てて丁寧に再生していった。
◇
一方、ウィガン寝室。
「ロケットパンチ」
ロキはウィガンに向けて両手を伸ばし、とんでもない技名を呟いていた。
ブシュゥゥゥゥゥ!……ズドンッ!!
ロキの両手首から炎が吹き出したかと思うと、両拳を高速で発射した!
ウィガンは迫り来るロキの両拳を両手で何とか掴む。フラつきながらもさすがの反応速度であったが。
「ロケットパンチ」
再度両手をウィガンに向けるロキ。その両拳は既に再生されていた。
ブシュゥゥゥゥゥ!……ズドンッ!!
両手を塞がれたウィガン。掴んだロキの拳を投げ捨てたが、間に合わない。両手で頭を守るが、ロケットパンチは意志があるように向きを変え、ウィガンのボディを直撃した!
「ロケットパンチ連射」
ブシュゥゥゥゥゥ!……ズドンッ!!
ブシュゥゥゥゥゥ!……ズドンッ!!
ブシュゥゥゥゥゥ!……ズドンッ!!
ブシュゥゥゥゥゥ!……ズドンッ!!
ロケットパンチが発射するとすぐさま両拳が再生され発射する。計8発のパンチがウィガンに文字通り四方八方から襲いかかった。
ウィガンはしたたかに連打を喰らい再びヨロヨロと後退り、やがて尻餅をついてうなだれた。
「ふぇぇ、初めてやったけど、ちょっと熱かったわ。ロケットパンチ……」
そう言ってちょっと心配そうに、ゆっくりと振り返るロキ、そこには顔を歪めて完全にドン引きしているアイーシャとレイスがいた。
「伸びるのはよいけど、飛び出すのはちょっと……」
ウィガンは、なおもうなだれながら怒りに震えて言った。
「この俺を相手にふざけた戦い方しやがって……」
「ああん? ロケットパンチのどこがふざけてんだ。永井先生に謝れや!」
ロキはウィガンが知るはずもない名前を出して謝罪を求めた。相変わらず、この男はどうかしている。
「誰だそりゃあ!? ウガァァァァァァァァ!」
ウィガンは雄叫びと共に、ただでさえ大きな身体を巨大化していく。
「あーーやっぱりあるよね第二形態。でもここでの巨大化はマズいんだわ!」
この寝室が艦の縁にあるのは窓ガラスがあることでも分かる。この部屋が破壊されるほど巨大化すれば、アイーシャもレイスも宇宙空間に投げ出され、即死とまではいかないが、命の危険に直結する。
ロキはウィガンの足元に巨大な転移魔法陣を張って、アイーシャとレイスに叫ぶ。
「広い所にこいつごと転移するぞ! 飛び込めーー!」