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これが強者か


 宇宙戦艦ウィガニス、ウィガン寝室。


 天井のスピーカーからウィガンに通信が入る。

 『ウィガン様、上空の巨龍2頭は墜しましたが、非常防衛モードの砲台は全てダウンしました。また、地上の怪物は現在消息不明です』


「黒龍!」

 通信を聞いてアイーシャが悲痛な叫びをあげる。自分がいないところで黒龍に訪れた危機にどうすれば良いのかわからない。


「ロキ様、どうしよう……黒龍たちが落ちちゃった!って……何処から?」

 混乱のあまり、よくわからない質問をしてしまうアイーシャ。


 ロキは苦笑いして、アイーシャの肩に手を置いてやり、冷静に答える。

「……上からだろ? ユーベ、移住区に龍が2人倒れてるらしい、まだ息はあるが……治せるか?」


「まぁ、容易いが……ロキ、龍は2頭って数えるんだぞ?」

 この際、数え方などどうでも良いが、ユーベには細かいところがあるらしい。


「アイツらはもう家族みたいなもんだ。黒龍のカミさんの白龍もな。俺は仲間や家族を頭とは数えないよ」


「ロキ様……」

 ロキの発言にうるうる感動するアイーシャ。普段照れくさがってこんなことは言わないロキ。


「ロキ、俺はどうだ? 俺は人か、それとも頭か?」

 仲間という言葉に反応したレイス。自分がモンスターだとでも思っているのだろうか?


「レイス、お前のことは最初から人で数えてるっつぅの……」


「ロキ……」

 ロキの当たり前の発言になぜか感慨深く呟くレイス。この魔王、少し抜けていて憎めないかも、横でそう感じるアイーシャだった。


「……まぁ、いいや。場所は聖大樹の加護で手に取るようにわかる。ちょっくら行ってくるわ」

 この宇宙空間でも、聖大樹の加護者は緑のオーラに包まれている。驚嘆すべき加護の影響範囲である。


「させるか!」

 プシュンッ


 ウィガンがユーベの腹に向けてレーザーを発射した。が、ユーベはそれを身体に空間を作って避けた。


「ではな、色男……」

 ユーベは揶揄うようにウィガンにウィンクし、身体を元に戻すと移住区へと転移した。


「ちっ、化け物が」

 ウィガンが吐き捨てる。その表情には明らかな焦燥が浮かんでいる。


「アイツ、身体に穴開けたぞ? キモいな」


「ロキ様も出来ますよね? 同族なんだから」


「出来ない出来ない、あんな変態チックな芸当」

 嘘だ。なんならもっと気持ち悪い避け方も出来る。例えば、受け止めた攻撃を身体をゴムのように後ろに引き伸ばし跳ね返す等、アイーシャがドン引きしそうだからやらないだけである。


「ローズ、何を愚図愚図している、ここにお前がいても役に立たん。さっさと移住区に行ってあのジジイを仕留めてこい」

 ウィガンは自分の前で繰り広げられるふざけた雑談のようなやり取りにずっとイラついている。


 目前の敵には恐怖というものを一切感じられない。今までの敵が自分に見せたあの怯えた表情。ウィガンというだけで死を覚悟したあの態度。ロキは、そんなものはおくびにも出さない。

 

(ちっ、これが強者、これが最強か……)


 ウィガンはロキが現れてから、彼に攻撃をしていない。なぜか? 出来ないのである。軽薄そうにチャラチャラと雑談しているが、その身体から、黄金色に光を放ちながら洪水のごとく溢れ出る圧倒的な魔力の総量は、まるで口の中に銃口を入れられ、攻撃しようものなら瞬時に命を失う、そんなプレッシャーをウィガンに与え続けていた。


 イラつくウィガンにローズマリーが怯えながら更に火に油を注ぐ発言をする。

「ウ、ウィガン。私は戦闘タイプじゃないからユーベには勝てないよ。魅了もあのジジイには効かないし、殺されちまうじゃないか……」

 私が死ぬような愚策は取らないだろう? 言外にローズマリーは求めている。


「そうか……では、どこへなりとも去ね。お前の醜い企み面はもう沢山だ。その豚のように肥えた身体もだ」

 ウィガンの頭に浮かぶグライネの面影……。こやつでは駄目だ、彼女の代わりにはならぬ。

 

「なっ!」

 ローズマリーに去来する思いは罵倒された怒りか、それとも解放された安堵だろうか。


「アイツ酷くね? アイちゃん。ついさっきまでチョメチョメしてた相手に……」

 ロキがウィガンに聞こえるようにアイーシャに囁く。


「ロキ様、黙って! 今、シリアスだから」

 ジロッと睨んでアイーシャはたしなめる。


 それでも構わずロキは言ってはいけない名前を出した。

「でもさぁ、グライネもこんなヤツ、嫌になるよね。別れ方がクズだもん」


 その発言に場が凍る。

室内の空気が、ピタリと止まった。

艦内に響くエンジン音も、それぞれの呼吸も、すべてが遠くに消える。


 ウィガンの眉が、ほんの僅かに動いた。


 ブッチンッ!!


 そこにいる誰もが何かが切れる音を聞いた。

 

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