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異世界に転生する話。  作者: 加藤凛羽/潮もずく
第0章 転生、そして寺院編(前世から5歳まで)
3/5

決意とイタズラ。

 3


 吐息が白く曇り始める頃、私は5歳になっていた。

 寺院での勉強は22歳の精神を持つ私には簡単だったおかげか、半年のうちにほぼ全ての座学を修了し、今ではもっぱら実技の訓練に移行していた。


「ふむ、魔力操作も安定してきたねぇ。

 この分なら、奨学金は楽勝かもしれんな」


 寺院に訪れた怪我人の治療を(はた)から見守るフィレンツェの厳しい視線が和らぐのに、ほっと息を吐く。


「ありがとうございます、先生」

「昔から賢いとは思っていたが……鷹を産んだなぁ、あの娘は」


 しわの増えた顔を崩しながら、頭をわしわしと撫でてくる……が、正直罪悪感の方が勝って、うまく笑えている自信がない。


 なぜならこの知能は、前世の記憶を持っているが故のレアケースだからだ。

 以前から賢い子供を見かければ人生何周目なんだろう、なんて疑問を頭に浮かべていたことが懐かしい。


 まさか、それが自分になるなんて。


 妙な感慨深さを覚えながら治療を終え、2、3お礼の言葉をやりとりする。


「リューちゃんすごいねぇ、わたしはまださせてもらえないのに……」


 見学に来ていた天翼族の少女レヴィアが、頬杖をつきながら愚痴をつく。


「お前がやるとかえって怪我が悪化するからねぇ。

 まずは、ちゃんと水球を作れるようになりな」

「ちぇー」


 ぐでぇ、と机の上に崩れるレヴィ。

 流れるふわふわの金髪が白いシャツの上を流れて、彼女のことを見ていると本当に天使のようだと見惚れてしまう。


 ちょっと羨ましい。


(私も髪伸ばそうかな……)


 肩口の銀髪を指先でくるくると弄ぶが、髪が長ければそれだけで手入れにお金がかかる。

 今日まで文明レベルを観察して、あれがないこれがないだの、あれなら作れるこれは作れないだのを考えて、今後の金策に思いを馳せてきたが……今はまだ、着手するには色々条件が足りていなかった。


 前世の知識でチートするなら、まずは商売の常識を知ってからじゃないと危険だしね。

 利権問題とか、特許とか諸々……。

 昔は特許なんて考えがなかったせいで、アイデアを盗まれてそこまで稼げなかった、なんて事例もあったらしいし……。


 それに、そもそもの問題として私に商人が向いていないという問題もある。

 営業なんてごめんだ。

 私は前世の頃から根っこはクリエイターで、好きなことにしかほとんど興味がない。

 しかも三日坊主で気移りしやすいし、今が楽しければ何でもいい快楽主義のせいで貯金もままならず、浪費癖のせいで投資に成功した試しもない。


 となると、私が商売で成功するには、それらを代わりにやってくれる従業員が必要になってくるわけで。


 眉根を寄せ、思考の海に浸る……が、結局今考えたところで行き詰まった状況を解消できるわけでもない、とすぐに頭を切り替える。


 まぁ、それができたら前の世界で就活に敗れて死ぬなんてことはなかったんだけどさ。


 実技訓練である治療実習を終えると給食の時間がやってくる。

 外遊びから帰ってくる子供達を、尼さんたちが浄化の魔法で身綺麗にしていくのを手伝い、給食をよそう丁稚を手伝って、食事をお膳の上に並べていく。


 この国の料理は和食に近い。

 主食は米だし、海が近いおかげか肉よりも魚の方がよく食べられる。

 漬物の文化も日本と似ていて、味は前世のものと比べて甘味が強いが、味噌汁に近いスープまで並べられている。


 そしておまけに、床に腰を下ろしてお膳のようなものに食事を並べるスタイルときた。


(この奇妙なチグハグ感……絶対日本の転生者が関わってるよね……)


 とはいえ、それを知る手がかりは今のところない。

 もしかすると私が日本出身で、西洋と東洋の文化的な区別がついてしまうがためにそう感じているだけなのかもしれないが。


「頂きます」

「「いただきます」」


 ……いや、やっぱり絶対関与してるよねこれ?


 ***


 この国──グレシャティア皇国では、6歳になると何かしらの学校に通うことが義務付けられている。

 正確には男児に限定した法律で、これにより国の少年たちは国立の初等学校に入学するか、冒険者学校に入学するかの選択を迫られるので、あいにく女児である私には法的な義務はない。


「おれ、冒険者になって旅に出るんだ!」


 そう意気揚々と宣言するのは、同じ院に通う少年、ルカだった。


「いーなー。

 ぼくも冒険者になりたいよ」

「お前んとこは母ちゃん許してくれないんだっけ?」

「うん、危険なことはしてほしくないって……」


 対するは大きな丸メガネが特徴的な、いかにも気弱そうな少年、テオ。


 最近の彼らの話を盗み聞きする感じだと、どうやら冒険者になりたいという主張は、往々にして却下されやすい傾向にあるようだ。


 しかし、これが女児になると話が変わってくる。


「いいよなぁ、リューシャは。

 女だからって、形だけは冒険者になれるんだからさ」

「うん、おまけに魔法も上手だし……将来はきっと、宮廷魔術師になるのかも」


 この国には平民向けの女学校というものがない。

 初等学校は基本的に男子校なので、女児が通うことはできないため、どうしても教養を与えたい親が、誰でも分け隔てなく門戸を開く冒険者学校に入れるのである。


 そのため、近年の冒険者学校は女子の比率が異様に高くなる傾向にあるのだとか。


 とはいえ、女が冒険者になるのも大変な話だ。

 何せ冒険者は体力仕事。

 フィレンツェによれば、男性に比べて力が弱い女性には荷が重い、というのが一般的な言説らしい。


 ……それにしても宮廷魔術師か。

 前世ではちょっと憧れた役職だったけど……歴史上実在したらしい宮廷魔術師がどんなだったか、っていうのを鑑みるとあまり私に向いている職とは言い難い。


 やはり冒険者が今のところ安牌なのだろう。


 力とかは……支援魔法を覚えれば何とかなるでしょ。

 なかったとしても、前世では女性の自衛隊員とかもいたし、何かやりようはあるはずだ。


(生理は浄化魔法があれば、とりあえず血の心配はしなくて済むし…….問題は月経痛かな)


 前世では比較的軽い方だったが、今世ではどうなるか考えるとちょっと怖い。

 治癒魔法を学ぶ過程である程度の解剖学の知識はあるから知っているが、獣人でも普通の人間と内臓はほぼ変わらない。

 猫みたいに子宮がいくつもある、とかじゃなかったのは救いだった。


 ***


「お母さん、私冒険者学校に通いたい」


 寺院からの帰り際。

 フィレンツェが見送りをする中、とうとう思い切って自分の意思を口にした。


 奨学金が出るとはいえ、受験費と入学費は避けようがなく必要になってくる。

 ただでさえ今の生活を守るための仕事で手一杯の彼女に、これ以上辛い思いをさせるのが申し訳なくて、今まで声に出せなかったのだ。


 しかし、自分から踏み出さなければ何も変わらないのだ。

 前世で何もせずに無駄にしたモラトリアムが教えてくれた、唯一の教訓を、無駄にしてはいけない。


 心臓が早鐘を打ち、鳩尾のあたりが気持ち悪くなって、緊張で吐きそうになるのを無理やり飲み込んで、矢継ぎ早に言葉を紡ぐ。


「魔法も読み書きも、寺院でたくさん勉強したの。

 今なら奨学金もほぼ確実に取れるって、フィレンツェ先生からのお墨付きももらった。

 ……お母さんには、しんどい思いをさせるかもしれないけど……私、頑張って冒険者になって、たくさん仕送りとかするから!」


 どれくらいお金が必要かはわからない。

 決して安い金額ではないはずだ。

 それを、今の苦しい家計にさらに上乗せして要求するのである。


 断られることは覚悟の上。

 その上で、借金の返済の目処諸々の提案。


 私のまっすぐな視線に、やや気圧されたように目を見張る母アリューシャ。

 しかし、それもほんの一瞬で、彼女は再び元のにこやかな表情を浮かべると、一言『いいわよ』と首肯した。


「もともと、こうなるかもってことはフィレンツェ先生からも聞いていたし、それに、あなたのしたいことをできるように、これでも少しずつ貯金してたのよ?」


 驚いて、私は思わずイタズラっぽい笑みを浮かべる尼僧の表情を見上げた。


「いい親じゃないか、リューちゃん。

 お前のために休み返上で働いてたなんてさ」

「!?」

「うふふ、黙っててごめんね、リューちゃん。

 実はそういうことだったのよ」


 してやられた、とその場にうずくまる。


 これまでの行いは、全部自分の学費のためだったのだ。

 そうとも知らないで私は……。


 こうしてその日、私の冒険者学校への進学が決まった。



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