休みは貰うんじゃなくて作るらしいです!
「僕ちゃん、またお勉強?」
「うん、知識が無いと他のコロニーに行って困るから」
おねえさんは遊んでくれないって拗ねるけど、ミラージュさんに会って勉強は大事だって良く判った。だって、ミラージュさんは銀河元老院の偉い人だって教わっても、僕は銀河元老院が何だか知らなかった。もし、すごく立場を気にする人で僕が失礼な事をしたら、警護隊に撃たれてたかもしれないんだ。
【銀河元老院】って、銀河系に三種類ある集まりの中で、一番権力のある所なんだって。その次が【星団管理院】で、それ以外は【惑星自治体】か【コロニー管理団】。銀河元老院で決まった事は星団管理院がそうするように惑星やコロニーに伝えて、決まった事を守っていればそれでおしまい。でも、もし惑星やコロニーで「そんな事は守れない!」っていう人達が勝手に決まりを作ると、星団管理院から修正する為に人が沢山やって来る。
「……僕の居たコロニーは、ホントに貧しかったんだなぁ……」
携帯端末から眼を離して車窓の星を眺めながら、僕はそう呟く。だって、住んでる人が生きていられなくなる程、食料が足りなくなる事が起きるコロニーは、星団管理院に解体されちゃうんだ。僕の居たコロニーの食料配給率は低かったから、自分達で何かを作って売ったり買ったりする事は禁じられてた。住んでる人がそれをし始めると、必ず食料の買い占めが起きて配給率が更に悪くなるんだって。
「ねぇ、おねえさん」
「なぁに?」
「……コロニーが解体されちゃうと、住んでた人はどうなるの」
「うわぁ、また重たい勉強してんのねぇ……」
おねえさんは呆れながら客席のテーブルに肘をついて、色々事例はあるけどと前置きしてから話し始めた。
「そうねぇ、自給率が限界値を割ったコロニーは、人的資源を分散させて様子を見るか、思い切ってコロニー自体を閉鎖して解体かしら……」
「人的資源?」
「そうよ、どれだけ貧しくて飢えてても、何もない場所で人間を育てるより効率的に人口を増やせるもの。だから、閉鎖したコロニーの住人は人的資源として、植民惑星や新しいコロニーに移住させるのよ」
僕はたまたまおねえさんと出会って旅に出たけれど、もしあのコロニーに居続けたら……きっと星団管理院が決めた新しい場所に移住させられたかもしれない。そうしたら病気だったアンヌは、治療して貰えなかったかも……。
「まー、近頃の銀河系はそこまでガツガツしてないから、昔みたいに空っぽのコロニーや資源ゼロの惑星に住めなんて無茶は言わないけどね……」
「そんな無茶振りしてた時期もあるの?」
「そうねぇ……初期のテラフォーミング事業は相当ヤバかったみたいだから、到着してから自給率が安定するまで、入植民が一割切っちゃうなんて当たり前だったらしいし……」
「そんな頃に生まれなくてよかったなぁ」
生き物の中には沢山卵を生んで、その中から生き延びた一握りの子が成長出来ればいいってのも居るらしいけど、僕達はそんな簡単に増える訳じゃない。でも、偉い人達の考えが、それに近い時代もあったんだな。
「……ミラージュさんも、そういう事を考えたりする立場なの?」
「ミィ姉は違うわよ? どちらかっていうと、星団管理院から上がってきたそーゆー案にダメ出しする方が多いんじゃない?」
「ふーん、そうなんだ……」
僕はおねえさんの答えを聞いて、ミラージュさんが悪い人じゃないんだって安心した。もし、そんな事を無理矢理にさせようとしてる人だったら、おねえさんと口喧嘩してうっぷんを晴らすなんて事はしないよね?
【 ……エリトリア様っ!! 急速接近してくる確認済み航宙艦が現れましたっ!! ローゼン・ガーデンですっ!! 】
「……はぁ、またかぁ……僕ちゃんがそんな事聞くからミィ姉が来ちゃったじゃない……」
パルマさんの報告におねえさんが溜め息を吐くと、列車がビリビリと震えながら急速停止する。
「きゃ~っ!! 進路妨害ぃ~っ!?」
おねえさんが叫びながら派手に引っくり返ると、見慣れた警備隊の人達が手ぶらのまま客車に入ってくる。もう慣れちゃったからか銃なんて持ってこないし、ミラージュさんが来るまで携帯端末眺めてる人も居るよ?
「きゃ~っ、ハジメちゃ~んっ♪」
「こんにちは、ミラージュさん」
警備隊の人が携帯端末を仕舞った瞬間、ミラージュさんが僕の名前を叫びながら走ってくる。元老院の偉い人なんだよね、ミラージュさんって。でも、ちょっと信じられなくなってきてるけど。
「あのねあのね、エルミラージュ頑張ってお仕事片付けてきて一日お休み貰えたの! だからイイコイイコしてっ!!」
「はいはい、ミラージュさん偉い偉い」
「きゅ~んっ♪」
……銀河元老院の偉い人って、みんなこんなにフレンドリーなんだろうか、って思っちゃうけど、きっと違うんだろうなぁ。
「……ミィ姉、ちょっと派手に食い付きすぎじゃない?」
「えぇ~っ? だってこの前来た時からずーっと管轄区域の管理統治だの入植調整だの紛争鎮圧派遣だのって激務だったんだも~ん!」
「だも~ん、っていうような内容じゃないでしょ……」
流石におねえさんも呆れてるけど、ミラージュさんは難しい仕事をこなせる能力があって、僕の何倍も働いてるから仕方ないと思うな。
「あと、列車に移動チューブを接続するなら予め連絡して貰いたいわ……あんまり航宙艦に接近されちゃうと軌道レールがズレちゃうんだもの」
「判ったわよ~、今度来る時は気を付けるわ……でもでも、早くハジメちゃんに会いたかったから艦体ごと亜空間転移(※航宙艦同士の戦闘時の常套手段)させちゃった~♪」
「うわっ、そんなえげつない方法使って来たの? ……引くわぁ~」
おねえさんがそう言うとミラージュさんはテヘヘと照れ笑いするけど、詳しくない僕でも非常識なんだって何となく判る。
「……で、そんなに急いで何しに来たのよ」
「ふっふぅ~ん♪ そりゃ決まってるでしょ? バカンスよバカンスっ!!」
「……バカンスぅ? まーた時代錯誤な事を……」
やたらテンション高めなミラージュさんがそう言うと、おねえさんは心底イヤそうな顔でそう応じてる。で、バカンスって何?