贅沢する為の惑星なんてない!
僕はミラージュさんの頼みで宇宙列車を途中下車し、知らない惑星まで降りる事になりました。つまり、生まれて初めて星の上に行く訳です。コロニーしか知らない僕の、初めての星はどんな所なんだろう。
【 惑星エルミラージュに降下開始、各自ハーネスの確認と準備を急げ…… 】
……でも、何だか妙な船で降りるみたい。だって、ミラージュさんの警備隊の皆さんがガッチリ脇を固めてるし、僕も見た事のない防御スーツ着せられてるし。
【 降下シーケンス、3……2……1……降下開始 】
「いやああぁーーっ!!? 死んじゃう死んじゃうぅーーっ!! なんで反重力とか使えないのぉーーっ!?」
「黙りなさいエリィ!! あんた惑星降下の度にうるさ過ぎんのよっ!! それに反重力装置なんて積んだら降下船に人が乗るスペース無くなるわよ!」
僕の保護者役のおねえさん、そしてそのおねえさんのお姉さんのミラージュさんが一緒なんだけど、二人はやっぱりこんな感じ。
【 ……逆噴射開始、自由落下状態から緩慢降下に移行……降下抑制翼展開……異常無し…… 】
「フワッとしたぁ!! 今フワッてしたよねっ!? 絶対大丈夫だよねっ!?」
「あーホントうるさい!」
降下中はずーっとおねえさんが騒いでて、でもそんなおねえさんが珍しくて僕はちょっとニヨニヨしてる。
「……僕ちゃん、私もうダメ……君とあんな事やこんな事をもっといっぱいしとけば良かった……きゅうぅ……」
「ほんっと、相変わらず降下だけは苦手なんだから……」
「おねえさんって、昔からこうなんですか」
「そーよ? 当時は銀河竜帝最強の一角、なんて持ち上げられてたけどね」
「……銀河竜帝……?」
「あら、知らなかったの? ずーっと統治してる現行の皇帝って、人間じゃなくて竜だって事」
失神してる(義体化した人が失神するのは変だけど)おねえさんを余所に、ミラージュさんは僕の知らない事を教えてくれた。
「……昔はね、人間が自分こそ銀河皇帝に相応しいって殺し合いまでして帝の座を奪い合ってたけど、皇竜のアクラビュートがしれっとその玉座に収まっちゃったのよ」
「銀河皇帝って、ものすごく偉い人だと思ってたけど、竜だったんだ……」
「そうよ? だって寿命は半端無いし、私達には真似出来ない魔導とかおとぎ話の世界みたいな技を使えるし……だから千年もの間ずーっと皇位を維持してるわ」
「えっ、一千年も!?」
ミラージュさんの話を僕は信じられなかったけれど、コロニーに掲げてあった銀河皇帝の肖像画は綺麗な女の人で、その背景に大きな竜が描いてあった。言われてみれば、どうして竜なんてって見た時は思ったけれど、ミラージュさんの話を聞いたらそういう理由なんだって判った気がする。
【 ……着陸完了、無事に到着しました。ミラージュ様、僅かな時で御座いますがお楽しみ頂けるよう、最善を尽くします 】
「ありがとう、我が守護者達」
降下が終わったみたいで、警備隊の人達が先に出て行く背中にミラージュさんが声を掛けると、みんな一斉に敬礼して降りて行った。そういう感じのやり取りが、すごくカッコいいよね。
「うぅうぅ、まぁだ頭がフラフラする……」
「おねえさん、大丈夫?」
「うんっ!? 僕ちゃん優しいわぁ……じゃ、結婚しましょ!」
「いえ、しません」
ちょっと撫でただけで直ぐ元に戻るおねえさんだけど、それにしても……
「……ミラージュさん、この場所ってほかに何も無いんですか」
「ん~? 無いわよ?」
「そうなんですか、うん……」
僕とミラージュさん、それとおねえさんはホントに何もない砂浜に居た。どの位無いかというと、真っ青な空と三日月形の白い砂浜、それ以外は視界全部が青い海しかなくて、乗ってきた降下船しか人間の持ち込んだ物は見当たらないんだ。そんな誰もいない場所に三人だけポツンと居るんだけど、ここで何するんだろうって思ってると……
「さぁ~てっと! 早速水着に着替えましょ~かねぇ♪」
「えっ、ちょっと待ってください!?」
ミラージュさんがそう言っていきなり服を脱ぎ始めちゃうから、僕は防御スーツをパージしようとしてた手を止めて……
「何慌ててるの、ハジメちゃん?」
「だ、だってミラージュさんが服脱ぎだしちゃうから僕……っ!?」
そう言って近付いて来たおねえさんがフラフラ状態から元に戻ってたのはいいけど、とても布地の少ない水着だけの格好で目の前に立ってるから、僕はどっちに向いてていいか判らなくなっちゃう。
「やぁ~んっ♪ 僕ちゃんったら私のカラダに興味有るのねぇ~! いいわよ、何しても構わないから……ね?」
「わっ、判りません!!」
「じゃ~おねえさんが……お・し・え・て・あ・げ・るぅ♪」
「要りませんからっ!!」
グイグイッて身体を押し付けながら、おねえさんが僕に迫ってくる。でも、防御スーツのせいで身体が直接当たらないのはいいんだけど……
「照れちゃって、ホント可愛いんだからぁ~♪」
ニヤニヤしながら僕の前に立って身体を捩るおねえさん……わざと、わざと僕の視界に入ってくるぅ!!
「んんんぅ~! もう我慢出来ないぃ~! いただきまぁ~……」
「……させるかいっ!!」
「へぶぅんっ!?」
うん、ミラージュさんの真下から突き上げるような鋭い回し蹴りがおねえさんの胸に直撃して、ボヨンと揺れたと思ったら砂浜の端まで飛んでいっちゃった。
「……全く、無抵抗のショ……じゃなくてハジメくんに何してんのよ……」
手に付いた砂をパンパンと払いながらミラージュさんはそう呟くと、僕の防御スーツの外部パネルを操作して除装してくれた。
「ぺっぺっ、口の中に砂があぁ……もーっ、ミィ姉ったら! まーた新しい補助電脳を増設したでしょ~? そーゆーのは反則じゃないのっ!?」
「あ~ら~ぁ? お互いイーブンにしようと思ったらその位はいいでしょ~! 元武官の貴女と違って私は政治担当なんだからぁ~」
髪の毛を叩いて砂を落としながらおねえさんが叫ぶと、同じ位に布地の少ない水着姿のミラージュさんが口元を手で隠しながらそう言って、楽しそうににっこり笑った。
「……でも、折角ハジメくんが居るんだし、バカンスに来てまでエリィと格闘訓練するのもバカらしいのよね~」
「あ、それもそうかも……じゃあ、今日は一時休戦って事にしましょ!」
って言いながらおねえさんとミラージュさんは拳を当て合い、くるりと僕の方に顔を向けた……
「「ねぇ? だから私と遊びましょ?」」
「……全力でお断りしますっ!!」
身の危険を感じた僕は、そう叫びながら一目散に海へ逃げたんだ。海の中に逃げ込めば、きっと助かるってそう思ったんだけど。
「あー、僕ちゃん? この海って獰猛な原生動物がゴチャゴチャ居るから気を付けてねェ!」
おねえさん、そういう事は先に言ってもらいたいなぁ。だって、海の中に入った瞬間に足首にヌルリとした何かが絡み付いてきたんだから……。