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妙な人が乗り込んできた!



 この列車にはおねえさんと僕、それと車掌さんとパルマさん、あとメールバッハさんが乗っている。他に誰か乗っているかもしれないけど、僕には判らない。


 「あ~、今日も僕ちゃんは可愛いわねぇ~♪」

 「はいはい、ありがとうございます」


 いつものようにおねえさんが僕にそう言うけど、ホントは格好良くなりたいから言われても嬉しくない。でもだからって「格好良くなりたいから可愛いって言わないで」なんて言ったら、きっと新しいカギを見つけたみたいにおねえさんは大喜びするだろうなぁ。


 「……おねえさん、あれは何?」

 「……あれ? うぅ~ん、ちょっと良く見えないなぁ」


 窓の外を見ていた僕は、星とは違う動く光を見つけておねえさんに聞いてみる。すると、眼をこらして光を眺めていたおねえさんは、


 「あー、パルマちゃん? あの光ってるのは何か判る?」


 喉元を指で抑えながらそう尋ねると、車内放送用のスピーカーから声が返ってくる。


 【 ……エリトリア様っ、あれは認可済み航宙艦のローゼン・ガーデン、ミラージュ御姉様の旗艦で御座いますっ! 】

 「うげっ!? ミィ姉なの!!」

 「……ミィねぇ?」


 ぐんぐんと大きくなりながらこっちに向かってくるそれが、初めて見る航宙艦だと聞いた僕はドキドキした。だって、宇宙を渡って好きな所に自由に行き来出来る航宙艦は、男の子なら誰だって一度は憧れる乗り物じゃないか! しかも、おねえさんの知り合いが乗っているみたいだし、もしかしたら乗れるかもしれない!


 「あぁ~! もう!! 一体何の用なのかしら!!」

 「……おねえさん、どうしたの?」

 「あのねぇ、ミィ姉はね……何の当ても無く私の所に来た事なんて一度も無いの!」

 「ふ~ん、そうなんだ」

 「うん、僕ちゃんは知らないからそんな反応だろうけど、ミィ姉の二つ名は【宇宙海賊(スペースパイレーツ)令嬢(レディ)】なのよ!」


 頭を抱えながらジタバタと悶えてるおねえさんを尻目に、そのローゼン・ガーデンって航宙艦はぐんぐんと大きくなり、列車の直ぐ近くまで近寄ってくる。うん、ものすごく大きいんだなぁ……だって、近くにいるだけで引力に引っ張られて列車がギシギシと軋んじゃうんだから。


 【 ……あーあー、声通ってる? ……うぇっへんっ! エリトリアぁ!! そこに居んのは判ってんのよ!! 覚悟決めて出てきなさいっ!! 】


 いきなりスピーカーから女の人の声が大ボリュームで響き渡り、その声がミラージュって人の声だと直ぐに判った。だって、


 「いひぃっ!? パルマちゃん!! 全兵装全開でローゼン・ガーデンを撃ち落として!」


 なんて、おねえさんがパニックになりながら叫んでるんだもん……。


 【 エリトリア様っ! 無理ですっ!! ローゼン・ガーデンから電子干渉を受けて全兵装沈黙してますっ!! 】

 「きぃいいいーーっ! こうなったら宇宙刺突爆雷(※ 反物質の何かを付けた危ない棒)で玉砕覚悟よっ!! ……僕ちゃん、短い間だったけど楽しかったわぁ……」

 「……船外スーツ着て何言ってるんですか」

 「だって、ミィ姉が来たらここは戦場になるもの……あ、そっか! だったら僕ちゃんと最後のヒトトキを過ごさなきゃ!!」

 「切り替え早いですね」

 「うぇいっ!? スーツのジッパーが外れないっ!!」


 一人でジタバタしてるおねえさんを眺めてると、客車の扉がガラリと音を立てて開き、航宙艦所属のワッペンを着けたアサルトスーツ姿の人達が、艶消し黒の艦内携行機銃を抱えながら滑るような足取りで僕達の前に走ってくる。


 「……ミラージュ様の御前です、不粋な行いはお控えくださいませ……」


 その一人の縦ラインの入ったヘルメットの人がそう言うと、おねえさんはピタリと動きを止めた。


 「……相変わらずね、エリトリア。全く、こんな所で仕事も放り出して遊んでるんだから、気楽なものじゃない」

 「……ミィ姉も、相変わらず趣味が悪いわよ? こんなゴツいゴリラ共と一緒じゃないと、妹の私の顔も見られないんだから……」

 「良く言うわね! あんたが私に政務を丸投げしちゃって逃げたからじゃない!」

 「おーおー、仰有いますねぇ? だったらミィ姉もさっさと隠居して銀河元老院を引退すれば宜しくてよ?」

 「きいぃーーっ!? 誰が銀河元老院の最長老よっ!!」

 「誰もそんな事言ってないわよ!」

 「うっさいわ! このでくのぼう!」

 「チビ!!」

 「きいいいぃーーっ!! こいつ撃ち殺して!!」

 「やれるもんならやりなさいよ!! 老眼鏡が無いから自分で撃てないんでしょ!?」


 ……ん? 何だかすごく子供っぽいケンカが始まったなぁ。


 「……あの、ちょっといいですか?」

 「……我々はミラージュ様の私設警護隊です、余計な事は一切喋りません……」

 「ミラージュ様って、おねえさんのお姉さん?」

 「……一応、そうなっております」


 護衛の隊長さんと僕はそんな感じで、おねえさんとミラージュさんの口喧嘩が収まるまでお話をした。それで判ったのは、ミラージュって人がやっぱりおねえさんのお姉さんで、銀河元老院って凄く偉い人の集まりの、凄く偉い人らしい。でも、退屈だからたまにこうやって口実を作って抜け出して、おねえさんの所に逃げてくるみたいだ。



 「……へえぇ、それでビスケットの取り合いになったの?」

 「ええ、その時は我々も駆り出されてエリトリア様を追跡しまして……最後は進路を妨害する為に航宙艦をぶつけて停めました。まだ自分が駆け出しの頃の話ですがねぇ……」


 小さな頃からああやってケンカしながら、でもお互いに寄り添って色々してるみたい。それにしても、ビスケット一枚で航宙艦同士をぶつけたりするのはダメだと思うな。


 「……頑張りますね」

 「はい、顔を合わせれば、毎回ああやって口喧嘩しています」


 ギャイギャイとおねえさんとミラージュさんは互いを罵り合ってるけど、隊長さんと他の隊員さん達は止めるつもりはないみたい。


 「くあぁあああっ!! このユーレイ長髪女っ!!」

 「へあっ!! チンチクリンのドリルヘアーっ!!」

 「黙れ棒人間っ!!」

 「うっさいトコジラミっ!!」


 「……幼稚な言い合いですね」

 「まあ、無害なストレス発散です。それに航宙艦を私的に運用する事は褒められませんが、ミラージュ様の場合は全て私財を使っていますから問題無いでしょう」


 そう言いながら隊長さんはパルマさんの淹れたお茶を飲み、時計をちらりと見て記録更新ですな、と言ってる。それにしても、航宙艦を動かしたり列車を飛ばしたりってとんでもない人達だな、おねえさんとミラージュさんは。


 「すごいお金持ちなんですね」

 「まあ、銀河元老院で長く務められていらっしゃいますから……星間連絡列車を繋げる位はどうという事はありません」

 「えっ? ミラージュさんがこの列車を走らせてるの!?」

 「はい、正確には敷設パトロンの一人です。立案されたエリトリア様が元老院の行楽用にと持ちかけ、ミラージュ様が後押しされましたから」


 「あー、うん。つまり姉妹で娯楽用の列車を敷いて、おねえさんが独り占めしてるからミラージュさんが怒ったって事かな?」

 「……ご慧眼(けいがん)に御座います」


 隊長さんはそう返答して、お茶をまた一口飲んだ。結局、お茶を何回か淹れ直した頃に二人の口喧嘩は終わったけど、おねえさんとミラージュさんはクタクタになりながら【やりきった!】って顔だった。






 

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