この列車は誰かが整備してる!
乗客は僕とおねえさんだけ、後は車掌さんと……あと誰だっけ、ナントカさんが乗っていた気がする。あ、パルコさんだっけ。
「お食事の準備が整いましたっ!」
車両の扉を開けて、パルコさんが僕に声を掛けてくれる。おねえさんと違ってキチンとした人だから、僕はこの人は苦手じゃない。
「ありがとう、パルコさん」
「うえっ!? わ、私はパルマでパルコじゃないんですがっ!?」
えっ? 僕、間違えて名前呼んじゃってた?
「ごめんなさい、名前を間違えるなんて……」
「いえっ、気にしないでください! ちゃんと名前を覚えてもらえない自分が悪いんですから!」
そう言って僕に頭を下げるパル……マさん? 合ってるよな? 意識するとまた間違えちゃいそうだ……。
「それよりもお食事です! 冷めないうちにお召し上がりください!」
「あ、そうだった、ありがとう」
「いえ! こちらへどうぞ!!」
僕はお礼を言ってからパルマさんの後ろについて客車を移動して、食堂車に行く。
「……あ、こっちこっち! 早くここに座って!」
あー、うん。やっぱりおねえさんが先に来てて席に座って待ってた。窓の景色は星空だから夜か昼か判らないけれど、寝て起きたばかりだから朝ごはんなんだろう。
「おねえさんは寝てないんですか」
「ん~? そんな事はないわよ? 僕ちゃんが寝た後、色々してるけど睡眠はキチンと取ってるから!」
席に着いた僕がそう聞くと、おねえさんは当然のように答える。別におねえさんが寝ていても起きていても、僕はそれを確かめられない。
「……ねえ、おねえさん」
「なぁに? 結婚する?」
「しません」
「んあぁっ!? 一刀両断っ!」
「それより義体化すると、何か変わりますか」
「切り替え早いわぁっ! ……義体化? ついに僕ちゃん決心した!?」
「……そうじゃないけど、ちょっとだけ興味があるから」
おねえさんは僕の質問に、ちょっと考えてから答えてくれる。
「……そうねぇ、まず身体の衰えは無くなるかな。年を取って運動出来なくなったり、物忘れが酷くなったりはしないわね……あ、勿論オトナの関係も永遠に出来るしぃ~♪」
「おねえさんは、ヨボヨボになった僕とでも今みたいにお話出来る?」
「おじーちゃんになった君と? うーん、それは難しいなぁ……でも、そうねぇ……」
おねえさんはそう言うと、暫く僕の顔を眺めてから、
「義体化すると年は取らなくなるから、百年経っても二百年経っても、僕ちゃんは同じ見た目のまんまなのよね……でも、中身は百年後、二百年後の僕ちゃんだから……あ、じゃあ結局同じよね!? 義体化しましょ!!」
「うん、そう言うと思った。でも、僕は大人になって、自然に年を取りたいんだ」
「そうなの? ずーっと、そのままはダメ?」
おねえさんは残念そうにそう言うけど、僕はコロニーに残してきた妹のアンヌが大きくなってたのを見ちゃったから、やっぱり自然に成長したいんだ。僕だけ、子供のままは……
「……うん、判ったわ。今はまだ義体化は早いかな?」
「……ごめんなさい、おねえさん」
「う~ん、いいのよ! だから気にしないで! ほら、折角パルマが作ってくれたご飯が冷めちゃうから、早く頂きましょう!」
おねえさんはそう言って僕にパンをちぎってくれる。そうだ、義体化したらこういうご飯は……
「……ん? ぼくひゃんほうひたほぉ?」
……パンをまむまむと食べながら、おねえさんが聞いてくる。何だ、普通に食べられるじゃん……。
食事を終えた僕は、おねえさんに絡まれながら客車に戻ろうとしたけど、知らない人が来て前を塞がれてしまう。
「おや、こりゃ失礼……エリトリア様のお連れさんかなぇ?」
「あっ、初めまして」
僕が挨拶すると、その人は行く手を譲りながら頭を下げてくれる。
「いやいや、こちらこそ挨拶が遅れましたなぃ。自分は機関士のメールバッハといいますわぃ」
メールバッハと名乗ったその人は僕に手を差し出し、握り返すと丁寧に話し始める。
「この列車はねぇ、エリトリア様のご希望で特別区間を運行しとりますから、気兼ね無く旅をお楽しみくださいなぃ」
メールバッハさんは妙な語尾でそう話すけど、それ以外は普通の人みたいだ。それにしても……男の人も乗ってたんだ、この列車。
「あぁ、そうでしたわぃ。客車に足りなかった娯楽車と展望車を接続したりましたゎ。時間のある時に是非寄ったってくだされぃ」
「娯楽車ですか、いいですね」
「はい、是非にぃ……あ、それじゃまたぁ」
メールバッハさんはそう言い残すとまたお辞儀して、ゆさゆさと身体を揺らしながら食堂車から出ていった。それにしても、ああした機関士とか他の人は、一体何処に乗ってるんだろう。
「娯楽車かぁ、何があるんだろ」
「えーっと、当運行路線の娯楽車は確かビリヤードやダーツ、あとカジノコーナーとかが有りますっ!」
「うん、ちょっとレトロチックだね」
メールバッハさんの背中を見送りながら僕が呟くと、パルマさんがそう教えてくれる。娯楽車って大人の人が時間潰しに行く所みたいだけど、僕は行ってもいいんだろうかな。
「はぁ~い! 僕ちゃん楽しんでイッてぇねェ♪」
「朝ごはんの後から姿が見えないと思ったら……何してるんですか」
僕とパルマさんが娯楽車に行ってみると、バニーガールの衣装を着たおねえさんがトランプをシャカシャカしながら待ってた。
「見て判るでしょー? お客様に楽しんで貰うサービス精神旺盛な、バニーちゃんでーすっ!」
「……ビリヤードします?」
「うえっ!? わ、私とですかっ!?」
「ふえぁっ! 完全スルーはちょっと辛いにゃ……」
「えっ、エリトリア様も折角スタンバイしてくださってますから、同卓しませんかっ?」
「はぁ、仕方ないなぁ」
「ああぁんっ! 一旦突き放してから引き戻すとか大人よ僕ちゃん!!」
「いいからカード配ってください」
おねえさんが少しだけ可哀想だったから、僕は付き合ってあげる事にした。
「ああぁんっ! また負けたぁ~!?」
「わ、私も全然ですっ!!」
「……何だかごめんなさい」
僕とおねえさんとパルマさんの三人でトランプゲームをしたけど、何をやっても僕が勝った。もしかしたら、二人はわざと負けてくれてたのかもしれないなぁ……じゃあ、今度は運頼みなゲームにしよう。
……あ、あれ? 結構楽しいのかも……?