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妹のアンヌはそんなじゃないっ!




 僕はシャワーで身体を洗い、ローションまみれになってるおねえさんを置いてシャワー室から出た。全く、困ったもんだと思ってたら……。


 「きゃーっ! シャワーが壊れた!! 僕ちゃん何とかしてぇーっ!!」


 わざわざそう叫びながら、おねえさんはバスタオル一枚だけ身体に巻き付けながら扉を開け、客車で窓の外を眺めてた僕の方に走ってくる。


 「そういうのは車掌さんとかに言ってください、僕はこの列車の整備係じゃありません」

 「んもぅ、僕ちゃんったら冷たいんだからぁ~!」


 おねえさんはそう言ってわざと濡れたままの身体を僕に押し付け、困る僕の反応を確かめてる。


 「すいません、僕まで濡れちゃうんで身体を乾かしてから来てください」

 「まぁ、私の知ってる僕ちゃんと違う反応っ!? 今夜はお赤飯とお稲荷さんね!」

 「お稲荷さんが何故出てくるか全然判りません」


 まだ髪の毛がびしょびしょなおねえさんを放置して、僕は車窓から眼を離して手元の情報端末を見る。


 「僕ちゃん? お勉強も大切だけど……違うお勉強も、してみない?」

 「いえ、必要無いですから」

 「ああっ、冷たい反応!? でもそれも逆にすごくいいのっ!!」


 相変わらずバスタオル一枚のまま、おねえさんはマイペースだ。僕が恥ずかしがっても、冷たくあしらっても余り気にしてないみたいだ。


 「……おねえさん、この乗り物はどうして列車の形状を模してるんですか」

 「それはね、懐古主義と微妙な選択の末に決まった妥協的な安全策よ、だからあんまり深く追及しちゃダ~メ♪」

 「だったら、バスとか船でも良くない?」

 「それはね、列車の方が移動する時が楽だからよ?」

 「移動する? ……あー、成る程(察し)」

 「僕ちゃん、裏側の事情をチラ見しながら納得した振りするのも上手ねぇ~♪」


 おねえさんは僕を褒めてくれたけど、面倒だから深掘りするのは止めた。




 僕が住んでたコロニーから離れて、どれ位の時間が過ぎたんだろう。置いてきてしまった妹のアンヌは無事に保護されて、病気も治療されている筈だ。それはおねえさんと僕が交わした約束だし、それが守られている筈だから、僕はこの列車に乗っている。


 「おにいちゃーん♪ あたまナデナデしてぇ!」

 「アンヌはそんなに大きくないし、いきなり抱きついてグリグリしたりしません」

 「えぇ~? おにーちゃんつめたーい!」


 おねえさんがツンッツンに丈の短い真っ赤なワンピース姿でタックルしてきて、ガシッと僕の身体をホールドしながら迫ってくる。アンヌより二倍の身長で二倍の体格はあるおねえさんだから、アンヌが着られるような丈のワンピースだとお腹から下は丸出しになっちゃってる。ただスカートを穿き忘れてるだけにしか見えない……


 「おにーちゃん、アンヌの服ちっちゃくなっちゃったよ~?」

 「いえ違います、おねえさんが無理して幼女用衣服を着てるからです」

 「ふみゅ~、おにーちゃんちべたいよぅ!」

 「ギャップ有り過ぎて、ホント気持ち悪い……」

 「きゅ~~んっ♪」


 おねえさんは奇妙な声を出しながら僕から離れ、ピクピクと身体を震わせながら席の下に落っこちた。きっと義体の制御プログラムがおかしくなったんだ。


 「はあぁ、おねえさんはどうして僕に絡むんですか」

 「それが私の存在理由レーゾンデールだから!」

 「厄介が意思を持って動く事自体、厄介です」

 「いやぁん、厄介モノ扱いされたぁ~♪」


 おねえさんはどちらに振ってもこうして喜ぶから、僕はすごく困る。そっとして欲しい時は、誰にでもあると思うんだ。


 「……じゃあ、本物の妹ちゃんが見たい?」

 「本物……?」

 「そうよ、本物の」


 おねえさんはそう言って僕が触っていた端末に手を伸ばし、幾つかキーを叩くと画面が切り替わる。


 「……誰、この子」

 「アンヌちゃんよ?」


 僕が画面に映る見覚えの無い女の子を見ながら聞くと、おねえさんは当然だとばかりに答える。アンヌはまだ僕より小さかったのに、画面の女の子は僕と同じ位の年に見える……もしかして……


 「……難しくて判らないかもしれないけど、相対性理論って知ってる?」

 「詳しくは知りませんが、確か光より速く動く物は時間の経過が遅くなる……って」


 僕は、すっかり大きくなったアンヌの姿を見て、それが妹だと気付けなかった。


 「……私達は光より速く移動する方法は手に入れたわ、でも……時間の作用に抗う方法は見つけられていないの」

 「じゃあ、僕が旅を止めて帰っても、アンヌは僕の事を忘れているかもしれないって事?」

 「それは判らないわ、もしかしたら僕ちゃんの事は忘れていないかもしれないし、あなたが望むなら、以前と同じように記憶を書き換えられるかもしれないわよ」

 「……それは、いいよ」


 僕が画面の中で勉強してるアンヌを見ながらその提案を断ると、おねえさんは僕の髪の毛をくしゃくしゃにしながら撫で回した。


 「本当にそれでいいの?」

 「うん、アンヌが元気ならいいよ」

 「僕ちゃんってそーゆー所が偉いなぁ~」


 おねえさんは褒めてくれるけど、僕はアンヌが簡単には治らない病気だって知ってた。だから、元気になってくれただけで嬉しい。もし、今こうして見てるアンヌが偽ものだったとしても、僕はそれを確かめる方法も無いんだから……。





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― 新着の感想 ―
[良い点] 面白いです。 妹萌えする性質ですが……偽アンヌちゃんも好きですねー、ボクぁ。 某宇宙客車に同乗する女性とはまた違う良さが。
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