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さあ、宇宙列車に乗ろう!!



 惑星って、恒星の引力に吸い寄せられながら一定の周期で回り、良い具合に温められた場合はその星に水が満ちて、生き物が住める環境になるんだって。だから、恒星から離れた場所を回る星は冷たくて生き物が住めないし、逆に近過ぎると熱くて水は蒸発しちゃう。だから、このエルミラージュって星も恒星から丁度良い距離にあってグルグル回ってるから、昼と夜の時間差は生き物が住める星ならみんな同じなんだ。



 「……まあまあの味だったわね、エリィのチョイスにしては……」

 「よーく言うわね、ミィ姉……でも、こんなに食べたのも久し振りだぁ……」


 すっかり日が暮れたエルミラージュ星の砂浜で、おねえさんとミラージュさんがちょっと膨らんだお腹を気にしながら、折り畳み椅子に寝そべってる。結局、子牛の丸焼きってのは出さなかったけど、それでもかなりの量を三人と警備隊の皆さんで食べたんだ。


 「……あーあ、楽しかったバカンスも終わりねぇ。まーた明日からギガンテストードの白いお腹みたいにパンパンになった収支報告書と、にらめっこしなきゃ……」

 「……でも、そんな事言いながら、合間を縫ってエルミラージュ星の天然資源を流通網に流してたんでしょ?」

 「あのねぇ、エリィみたいに私は真っ正直じゃないのよ? 文官らしくチマチマと小細工を重ねて副収入を得てんの!」


 僕はうつらうつらと半分寝たまま、二人のちょっと興味が引かれるけど深入りしたら良くなさそうな話を聞いていた。


 「……ねぇ、エリィ……銀河竜帝(アクラビュート)もそろそろ戻って来ないかって言ってたわよ?」

 「いーやーよ、また荒っぽくて危なっかしい仕事になんて、私は絶対戻らないから……」

 「そっか、まぁ仕方ないか……あれだけの……」

 「ミィ姉、昔の事は蒸し返さないで……もう、エリトリア特級武官は引退して、只のおねえさんになったんだから……」


 銀河竜帝に……特級武官? 二人は何時の何の話をしてるんだろう。気になって寝返りする振りしながら二人の方を向き、薄目を開けて様子を見てみる。


 「……本気でそう思ってるなら、今は構わないけど……でも、いつか必ず復帰しろって言われるわよ?」


 長椅子の上で身体を起こしながら、ミラージュさんは手に持ったグラスを回してから中身を一口飲んで、ほっと息を吐いた。


 「……今は断るわ、だって……僕ちゃんの面倒を見なきゃダメから……」

 「体の良い口実ね、でもその方がエリィらしいかな……」


 同じ物を飲みながら、おねえさんは沈んでく夕陽を眺めてる。二人とも、僕の知らない所で、すごく大変な事をしてきたみたいだ。


 「……もう、あなた以外の特級武官は一人も居ないわ。みんな、引退して母星の土の下に還ったか、あるいは復帰して戦地の土に埋められたか……そのどちらかだわ」

 「昔の偉い人が言ってたなぁ、走れなくなった軍馬は、決して畑仕事する馬に戻れないって。私達武官はね、引退してもまた戦地の土を踏んだら、二度と元には戻れないのよ……」

 「……クロノス、アークテスト、バラノア……ウピテルに……エリトリア。五人も居た特級武官も、あなた以外は全員……」

 「……仕方ないわよ、そういう目的で設計されたんだから……私達はね」


 ……ミラージュさんが並べた名前って確か、銀河有史の長い間に、必ず出てくる激戦地の名前だった気がする。クロノス星団戦争、アークテスト星雲攻略戦、バラノア惑星要塞戦に、ウピテル星団制圧戦、そして……エリトリア旧帝国殲滅戦……そうだ、エリトリア旧帝国って、銀河を二分して最期まで徹底抗戦した星団の名前じゃないか!


 「……結局、誰かが矢面に立って指揮しない限り、兵隊は動かないし戦争も終わらないのよ」

 「知らないわ、そんな事……それに、銀河帝国に抗う星系なんてもう存在しないでしょ!」

 「まあ、そうね……でも、昔と違って帝国に反旗を翻す星系は無いけど、内側で虎視眈々と狙ってる国はまだあるから……」

 「……やっぱり、平和だっていっても頭を抑え付けられてたら不平も溜まるかぁ……で、何処の大馬鹿者なの?」


 さっきまで余裕だったおねえさんがいきなり真顔になり、ミラージュさんに詰め寄ると、意外な答えが返ってきた。


 「そうね……あるとしたらこのエルミラージュ星の所属星団か、後は……」

 「ち、ちょっと待ってよ! ここも反帝国分子の攻撃目標になるって事よね!?」

 「そーよ? だから私はエリィが神経尖らせてるって思ってたから、気兼ね無くバカンス出来るかなぁ~って、安心してたんだけど~?」

 「ミィ姉のお馬鹿っ!! そーゆー事はもっと早く教えて……」


 信じられないって感じで怒るおねえさんだったけど、そんな最中に僕にも聞こえる位の音量で、二人の間に置かれてた携帯端末からパルマさんの声が鳴り響いたんだ。


 【 ……エリトリア様っ!! 軌道上の監視衛星から受信っ!! 所属不明航宙艦の複数反応有りっ!! 至急帰還なさってくださいっ!! 】

 「うげえっ!? ミィ姉っ!! ローゼン・ガーデンの所在ポイントはっ!?」

 「そーねぇ、今はたぶん教科書通りに恒星照面の反対側で待機(※対航宙艦戦での教科書的対応・惑星を盾にしながら待ちの構え)してるかなぁ~?」

 「ああぁ~っ!? これだから私設警備隊の航宙艦は即応態勢じゃなくて困るのよ!!」


 そう叫びながらおねえさんは長椅子から飛び上がり、海上に待機してた降下船に向かって信じられない速さで走り出した。そして、波打ち際まで辿り着くと喉元を抑えながら大きな声で叫んだんだ!


 「……エルミラージュ第一級文官専用警備隊に告ぐっ!! 元特級武官権限で貴下部隊は一時接収します!」

 【 警備隊、了解しました! 只今から我々はエルミラージュ様の命令系統から離れ、エリトリア様の一時預かりで行動致します! 】

 「……焼け石に水だけど、エルミラージュの護衛として全員待機して! 降下船は悪いけど借りるわよっ!!」

 【 ……了解しました、出来る事なら壊さんでください 】

 「そんな事は約束出来ないな! だって、相手次第だもの!」

 【 ……ごもっとも。では、御武運を!! 】


 携帯端末からそんな遣り取りが聞こえた後、警備隊のみんなを降ろした降下船がフワリと浮き上がり、少しの間だけ宙に止まった後、いきなりフル加速しながら天に向かって上昇して、すっかり暗くなった夜空の中に消えちゃったんだ……。





 【 ……エリトリア様、おかえりなさいっ!! 】

 【 パルマちゃん、前置きはいいわ! 現状報告しながら亜空間転換で擬装列車と()()()を入れ替えて!! 】

 【 了解しましたっ! 直ぐ開始して擬装列車を亜空間に収納後、エリトリア様専用航宙艦グリモアール・エリソン(黒魔術の針鼠)を召喚しますっ!! 】


 「……あ~あ、ミィ姉じゃないけど……バカンスってあっという間に終わっちゃうんだなぁ……」




 こうして、おねえさんことエリトリア元特級武官は否応無く対航宙艦戦に入り、非公式ながら反銀河帝国分子の航宙艦を一隻大破し、三隻を中破させた。無論、この記録は宇宙史に記載されず闇の中へと埋もれている。


 ……やがて僕が俺に変わり、そして自分へと一人称が変わっても、相変わらずおねえさんはやっぱりおねえさんと呼べと言い、そして自分が艦首飾り像(フィギュア・ヘッド)に就任したグリモアール・エリソンは、今日も派手に銀河を飛び回っているんだ。本人は相変わらず、艦長じゃなくておねえさんと呼べと言いながらね。



 この作品は、ショタが怪しいおねえさんに機械の身体にしてやるから宇宙列車に乗ろうと誘ってきて凄く困る話として書きました。後悔は全くしてませんし、反省もしてません。しかし、中編として終わらせようと執筆した結果、過去に書いた未発表作品の【超時空戦艦のフィギュアヘッドとして怪しいおねえさんにヘッドハンティングされました】に繋がりました。勿論、未発表作品なので全然書いてません。でも、ここまで書くと気になって仕方ないんです。宇宙列車に偽装(亜空間で無理矢理に併行)された元特級武官エリトリア所有の航宙艦【グリモアール・エリソン(黒魔術のハリネズミ)】と、若くしてその航宙艦のフィギュア・ヘッド(艦首飾り像)にヘッドハンティングされたショタじゃない少年のハジメくん。唯一生身の人間なのに、単艦で複数の航宙艦と対等に渡り合える唯一のグリモアール・エリソンのフィギュア・ヘッドに時給100円で採用された彼の未来は果たして薔薇色なのか? みたいな事を考えてます。ではまた。

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― 新着の感想 ―
生身で艦首飾り像なんですね、、、、ハジメ青年大丈夫かしら。 礼儀正しくてバランスの取れた頭脳の持ち主だから、なんやかや楽しくやっていけるのかもしれないですね。 おねえさんが、ハジメくんを傷つけるよう事…
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