列車は進むよ何処までも!
「ねぇあなた。何をしてるの?」
日課の廃棄物資漁りをしてると、いきなり後ろから声をかけられた。僕が振り返ると見た事の無いおねえさんが立っていて、じっと僕の事を見ながら聞いてきた。他に誰も居ないから、僕に聞いているんだろう。
「……食べ物がないか、さがしてるんだ」
「食べ物が無い……でしたら配給所で貰えば良いのでは?」
首を傾けながら、おねえさんがまた聞いてくる。
「配給所に行けるのは、コロニーに市民登録してる子だけだよ。ぼくは市民登録してないから、ダメなんだ」
「あら、そうでしたの? では、市民登録なされば良いのでは?」
またおねえさんが言ってくるから、僕は廃棄物用コンベアからこぼれ落ちて山になってる所から離れて、おねえさんの方に行ってみる。
「あのね、おねえさんは知らないの? 市民登録は生まれて直ぐにしないと、すごく大変なんだ……血を取って、色々調べたりして……」
「それは大変ね……でしたら、私と一緒に市民登録の必要無いコロニーに行きません?」
おねえさんは被っていた変な形の帽子を脱ぎ、長い髪をなびかせながら僕にそう言った。
( ♪前奏♪ 汽車は~闇を抜~けて~星々の中へ~ )
タイトルどーんっ!! プラットホームにでっかい列車がどどーんっ!! 降りてくる車掌さんがばーんっ!!
「いえ、行きません」
「……えっ?」
「だから、行きませんって」
「えっ? はいっ? この流れで?」
戸惑うおねえさんには悪いけど、僕は行きたくない。だって怪しいんだもん。
「おねえさん、こんなこ汚ない格好してる僕だよ? あんな立派で高そうな列車に乗るの? 無理ですよ」
「大丈夫大丈夫! 服は着替えれば済むし何なら一緒にお着替えしましょ!」
「イヤです、何か怖い」
「怖くないわっ! ほらちゃんと着替えも用意してあるし試着室も完備してあるわよ!」
「おねえさん息あらくて怖い」
「はぁ、はぁ……大丈夫ですよ、全然怖くないから……」
「おねえさん、ヨダレ」
「……はっ!?」
おねえさんはじゅるりと流れてたヨダレを袖で拭いてから、また僕を誘ってくる。
「……でも、ご飯も食べられない環境なんでしょ? あなた、とても細くて男の子らしくないんですもの……(でもそれが凄く良いの……そそられちゃう!!)」
「……ご心配していただいて悪いけど、でもそれも個性の一つじゃないですか、だからいいんです。それじゃ」
「……あっ!」
おねえさんにそう言って、僕はその場から逃げ出した。あんまり騒ぎが大きくなったらコロニー管理局が聞きつけて来そうだし、おねえさんが僕につきまとう理由も判らないし。
僕は何回も振り向いて誰も居ないのを確認して、右や左に何回も曲がり角をわざと曲がってから、僕の家に帰った。
狭い路地の更に奥に、沢山集まってるパイプの隙間があって、その間を四つんばいになって進んだ先に、僕の妹のアンヌと二人だけの家がある。狭くてコロニー管理局の人は来られないから、何とか僕達は居られる家。でも、アンヌは病気で起き上がれないから、僕が面倒をみないとダメなんだけど……
「……あら、おかえりなさい!」
なんでだろう、アンヌじゃなくておねえさんが居る。
「おにいちゃん、はやくアンヌをたべて~♪」
「おねえさん、アンヌはどこですか……」
「おねえさんじゃないよ、アンヌだよ~?」
どう見ても、あのおねえさんにしか見えないそれが、アンヌが横になってた場所に居てごろごろと寝返りしながらウソを言ってくる。
「じゃあ、アンヌの誕生日は」
「太陽暦3752年の192日目で自然分娩でした!」
「うわ、すごくキモいぃ……」
僕が正直にそう言うと、おねえさんは少しだけガッカリした後、何だか急にニヤニヤして気持ち悪い。
「……で、アンヌはどこですか」
「……あっハイ。妹のアンヌちゃんはコロニー管理局の難民保護施設に身元不明児童として保護対象になるよう手配してありますから!」
僕がちょっときつめに尋ねると、おねえさんはすらすらと言いながらちょっとづつ僕の枕に這い寄ってスンスンしてる。キモい。
「……じゃあ、アンヌは……再処理処分されたりしないんですよねって何してます?」
「はぁはぁ、ショタのかほり~♪ ……はい?」
「聞いてます?」
「あっハイ。妹ちゃんは絶対そんな目に合わせないわ! だって……」
おねえさんはそう言いかけてから、少しだけ申し訳なさそうな顔になる。
「……いえ、何でもありませんわ。とにかく妹ちゃんは無事ですのよ!」
本当に信用出来るか判らないけど、そう言いながら何回も首を縦に振るおねえさんを、僕はちょっとだけ信用してみて良いかもと思った。だって、ウソまでついてアンヌを連れ去るなら、わざわざ自分がアンヌの代わりに待つ事ないと思うし、何より……
「そんなに心配なら、たまに会いに行けば良いと思います。それを君が望むなら……」
そう言ってくれたおねえさんが、少しだけ母さんに似て見えた気がするから……。
「で、この服とこの服とこの服のどれにする?」
「それは服じゃないしそれは傷用パッチだしそれは何なんですか」
「えー? これは逆バニーでこれは絆創膏でこれは越中ふんどしですよ? 知らないんですか?」
「僕が世間知らずだから仕方ないと諦めさせたいなら無駄ですよ、このコロニーのネットワーク情報開示度は平均水準以上なんですから」
「それは素晴らしい事ね」
僕の家から出たおねえさんは僕に新しい服だと言って、手袋とタイツだけや傷用パッチや紐付き布を手渡そうとしてくる。全部お断りすると仕方なくキチンとした服を出してくる、あるなら最初から出して欲しい……って、ちょっと待て。
「あのー、この服……スカートとタンクトップだけなんですが」
「あー、間違えた間違えちゃったー、君が凄く愛らしいからー、女の子と間違えちゃったなぁー(棒読み)」
「チェンジしてください」
「……ちぇっ」
更に恥ずかしい格好にさせようとするおねえさんに、さっさと出さないと行かないぞと念押しする。油断も隙も……あれ?
……ガタタンっ、ゴトトンっ、プァンプァーーンっ!!(※車内のスピーカーから流れる効果音)
「……あれ?」
「どうかなさいましたか?」
「いや、ちょっと待って。どうして僕は列車に乗ってるの!?」
い、いつの間にか僕、あの訳の判らない理屈で空を飛ぶ無駄だらけの宇宙列車に乗せられてる!!
「何を今さら……君が自分から乗るって言ったでしょう?」
「ウ、ウソだーーっ!!?」
「嘘じゃありませんよ、本当の事ですよ……さ、早速お着替えしましょうねぇ♪」
「イヤだぁーーっ!!」
「大丈夫、大丈夫……逆バニーとバンソーコーとふんどしは全部着ければ、恥ずかしい所は全部隠せますから」
「逆に恥ずかしいぃーーっ!!」
「ふひひっ、ショタ捕獲……完了♪」
「誰かーーっ!! 車掌さんでもいいから、助けてぇーーっ!!」
僕が大声で叫ぶと、車両の扉がほんの少しだけ開いて向こう側から誰かが覗き込む。
「た、助けてっ! テゴメにされるぅっ!!」
「……お客様、この車両は全席貸し切りですので……ごゆっくり……お過ごしくださいませ……(笑)」
「車掌っ!! お前もグルかっ!!?」
僕が血走った眼でそいつを睨むと、被ってた帽子をチョンと脱いで抱えながら律儀にお辞儀して、黙って逃げてった……お前、絶対に、許さないぞ……