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3話 蛇と供物と看護師

時は一刻一刻と過ぎて、玲奈は犬人の村に来て7回目の朝を迎えた。

思い返せば色々なことがあった。

夜空を見に行ったあの夜、気付けば2人はその場で寝てしまった。

結果、そのまま夜風に晒されることになり、シャルは風邪を引いてしまった。

彼女の体を拭き、冷罨法用に額上に置いたタオルを変え、お粥に似た料理を作り、それはそれは大変な日々を送っていた。

おまけに、シャルは長老であるのにも関わらず側近を置いていなかった。

そのため、必要な日用品の買い出しやその他諸々の日常的な世話まで行った。

買い物の際は犬人ではないことをバレないようにする為に、変装までした。

犬人は毛色と瞳の色が統一化されており、玲奈は自身の瞳の色である焦げ茶色の尻尾と付け耳を着けるという醜態まで晒してしまった。

玲奈は羞恥心に駆られながらも多忙な毎日を乗り越え、今日まで生き抜いた。

しかし玲奈は1つ懸念していることがあった。

それは、風邪なのに完治が遅すぎることだ。

シャルは症状が良くなるどころか、逆に悪化しているような初見さえある。

通常であれば1日。遅くても2-3日で症状改善は見込めるであろう風邪がここまで拗らせているのは何か。

玲奈の頭はそれらを巡回した。


一方ケイン達はメタルボアーの浄化、供物前の下準備を済ませ、今現在、儀式前の確認に長老前にメタルボアーを持ってきた建前である。


「ケイン。ルカ。それにルナ。3名とも儀式に供える供物の浄化ご苦労であった。この毛並み、香り、全てが高水準。幾年も見なかった逸物ぞ。」


シャルはカーテンを隔たりにして3名にそう言葉を投げた。

カーテン越しに伝わる弱々しいシャルの声から何かを察した3人だが3名とも何も言わず、膝を付き頭を垂れている。


「では、明日の日の出より儀式を開始する。ケイン、最後の事前会議の為、クロウとシロウを連れ夕刻にここに参れ。以上だ。」


「「承知しました。」」


3人は長老の声を聞き直ぐ様帰宅する。


「クロウとシロウって?」


玲奈は先刻、長老が口にしたクロウとシロウなる犬人に興味を示す。

看病の時にも何度か耳にしたその人物の詳細が気になったのだ。


「あぁ。クロウとシロウは私の仲間の末裔だよ。」


玲奈の質問に対しシャルは静かにそう答えた。


「え、末裔!?」


驚く玲奈にシャルは笑う。


「はは、末裔と言っても、ひ孫に当たるのかな、彼等はね、そう。ユシロのひ孫だよ。」


その言葉を話しシャルは先程とは対照的に寂しそうな顔をしていた。


「でも、ユシロさんはーー。」


「あぁ、忌みの犬人の子孫ということで、村人達からは忌み嫌われる存在だった。でも、ユシロと一緒で剣の才に恵まれ、今ではこの村人全員が認める最強の2人として認知されているよ。」


その言葉を聞いて玲奈は思う。

シャルは仲間達について一切話をしたことがなかった。

そして、儀式前のこのタイミングで何故シロウとクロウを呼んだのか。

思考だけが玲奈の脳内を輪廻した。


「最強の2人……か。」


玲奈のポツリと零れたその言葉にシャルはニヤッと笑う。


「ケインはな、実はーー。」


「「警報!!警報!!村北側より巨大すぎる大蛇襲来!!村民全員避難!!!」」


それは唐突に訪れた。

北門前方役200mの距離に襲来した大蛇。

ーー混乱ーー

今の状況を一言で言うなればそれだろう。

鳴り響く警鐘音とどよめく空気に子供達の泣き叫ぶ声が聞こえた。

それと同時にシャルは糸の切れた人形のようにバタリと倒れた。


「え、シャル!?」


焦る玲奈に救いの手など無かった。

何度声を掛けようがシャルは動くことは愚か、目を開けること、声を発する事さえ出来ていなかった。


「想像創作!!聴診器・ペンライトを創作!!」


玲奈は焦りと不安で震える声でそう叫ぶ。

作り出したそれらで、安堵した。

シャルは死んではいない。

聴診器にて心音と呼吸音を正常に聴取。

ペンライトにて瞳孔の収縮を確認。

これにより、少なくても生命維持に関する脳の働きは確認できたからだ。


「シャル……シャル!!」


何度呼び掛けても意味は無いことは何となくだが分かっていた。

シャルがこの様になってしまったのは恐らく病的な何かー。ではなく、『呪い』のせいだからであろう。

その証拠としてシャルの刻印に似たアザが悔しくも悠々と煌めいているから。


「玲奈ァ!」


その声と共に玲奈は涙を止めることが出来なかった。

大粒の涙は玲奈の瞳に表出し、ポロリポロリと零れ落ちる。


「ケ……イン……。」


自信が最も信頼する犬人、ケインが轟々しい大剣を担ぎ2人の前に現れたからだ。


「ちっ!なんなんだこの状況は!!」


倒れるシャル、そしてその傍で泣き崩れる玲奈。

そして見たこともない大蛇の襲来にケインは苛立ちを隠せていない。


「夕刻に村長に招集されたかと思えば何だこの状況は?」


「わぁ!可愛い女の子が2人!人間の女の子と、えっと、、あれ??」


ケインの傍から2人の犬人が顔を出す。

1人は物静かな発言をした少年で、黒色のサラッとした髪の毛を顎下で綺麗に切り揃えている。

見た目からの推測年齢は14歳程度、身長は143cm程度だろうか。

漆黒の瞳と、髪色と同じ尾の毛は黒曜石を思い立たせる。

もう1人ほ活発な雰囲気を全身から漂わせている少年で、髪色は先程の少年と反対に純白でありそれでいて透明感がある。

見た目からして、2人の体格や年齢は同じであろう。


「クロ。シロ。黙れ。村長の前だぞ。」


ケインは好奇心大勢な様子の2人に牽制をする。


「だってケインさん、人間の子と、もう1人はーー。」


ーードカン!!!!ーー


「「警報!!村人全員逃げろ!!蛇が門を破ったぞ!!」」


激しい轟音と共に荒々しい警報が鳴り響いた。

一瞬の刻。

ケインと少年2人は瞬時に扉前で剣を構えた。


「話してる場合じゃないな。クロ、シロ覚悟を決めろ。」


ケインのその言葉に少年達はにぃっと口角を上げる。


「クロちゃん。ちょっと本気出そうよ。」


白色の少年がそう言った。

そこから、玲奈は白色の毛並みの少年がシロウだと認識した。


「あぁ。シロウ。」


ほんわかとした2人の目付きが一瞬にして鋭くなる。

その刹那。


「ホウ。イツシカブリニカンジルテキイ。イマイマシイノォ。」


頭の中にどす黒く低い声が響いた。


「アンズルナ。コノコエヲキケルノハオマエダケダ。ニンゲン。」


玲奈はその瞬間にはっと周りを見渡す。

そこである違和感に気付く。

皆動いていない。

それは少し間違いかもしれない。

止まった時間の中で自分自身だけが動いているかのような、そんな感じだ。

おまけに、自分の体が重く感じるほど、何かがのしかかっている気がする。


「ホウ。イッシュンニシテ、ゲンジョウノリカイヲスルカ……。オモシロイ。」


気味が悪い声は更に脳裏を過ぎった。

助けを求めケインに手を伸ばす。

しかし、ケインに触れるその寸前で見えない壁に阻まれた。


「ニンゲン。オソロシイカ?」


「怖い、怖いよ!!」


玲奈はその声に対して震えながら声を出した。

恐怖から荒々しくも繊細な声は部屋に響くだけだった。


「ヤハリ、オモシロイ。ダッテワタシハーー。」


声が途切れる。

その瞬間、ドサッとのしかかった何かが途切れた。


「はぁ……。はぁ……。」


息が切れる。

ストレスから解放された反動だろうか。


「玲奈?大丈夫か?」


そう言ってケインが歩み寄る。

その声は優しく、表情は心配が混じる穏やかな表情だ。


「う、うん。」


玲奈は思わず頷いた。


「……く……。ふぁ……。」


それと同時に後方から声が聞こえた。

声のする方に目を向けると、シャルが気だるそうに背伸びをしていた。


「シャ……シャル!?」


その様子に先程の自分のことなどとうに忘れた玲奈は無意識にシャルを抱き締めていた。


「れ……玲奈!?どうしたの!?」


シャルは頬を赤らめ照れてる様子。

それに驚愕さえ混じっているのかもしれない。


「良かった!!本当に、、良かった!!」


玲奈は思わず大粒の涙を流した。


「本当にどうしたのだ?何かあったのか?」


そう言ってシャルはケインに尋ねる。


「いや……本当に分かりません。」


そんな玲奈の様子を見てケインは困惑していた。


「なんでそんな困った顔するの!蛇でしょ!大きい!!」


玲奈のその言葉にシャルとケインはポカンとする。


「蛇?何を言っている。」


「本当にそうだよ、玲奈、疲れか?」


思いもよらぬその言葉に玲奈はさらにポカンとする。

先程聞いた断末魔。

門が突き破られる音、シャルが倒れたこと、子供達の悲鳴。

それら全てが語る厄災という言葉が似合う状況。

自身の経験が揉み消されてぐちゃぐちゃにされているかの様な感じがする。


「それに、クロウとシロウは??」


玲奈のその声にまたシャルはポカンとする。


「クロウにシロウ?玲奈、お主は何を言っている?」


「え……?」


「玲奈、風邪でも引いたのか?長老の世話がそんなに忙しかったのだな。仕方ない、少し休め。」


ケインがそう言って玲奈の肩に手を伸ばす。


「触らないで!!!!」


何だこの声は。

酷く甲高く、周囲に殺意をばら撒くかのようなこんな汚らしい声は。

あぁーー。

自分の声か。


「玲奈?」


「玲奈?」


2人が心配そうにこちらを見つめる。

その視線はとてもーー。


ーーキモチワルイーー


「想像創作!!剣!」


玲奈は剣を創作しようとした。

1度触れたケインの大剣を。

しかし、その思いは無に返る。


「創作……出来ない?」


玲奈はその武器を創作することが出来なかった。

理由はーー。分からない。


「想像創作!!メス!」


次は医療器具のメスを創作しようと試みた。

しかしーー。


「出来……ない?」


玲奈は何も創れなかった。

ならーー。


「ケイン、ごめんね。」


ケインに飛びかかる。

決して敵意がある訳では無い。

ただ欲しかった。

彼のその大剣が。


「……っ!?」


ケインに触れようとしたその瞬間、玲奈は気付く。

ケインに触れられない。

そしてシャルを見た。

理由はない。

無意識にシャルを見た。


「フハ!!フハハハハ!!」


シャルが笑う。

いつもの可憐で可愛らしい声とは対照的な、禍々しい声でーー。


「で?自害か。面白い。やはり人間お前は面白い。

この小娘が貴様を気に入り、供物にしなかった理由がよく分かる。」


「!?」


玲奈は言葉を失う。

それは必然だった。

先程までに聞いた声が、シャルの口から発せられていたからだ。


「まぁ、良い。仮初の身体などもう不要だ。

私は、蛇琉。(ジャル)貴様もよく知っておる名前だろう?」


シャルはこちらに嘲笑うかのような表情で笑いかける。


「ジャル!?私はその名前を知らない!私が知っているのはシャル・メルラ!!私の…私の大切な友達の名前を汚さないで!!」


おぞましい程の殺気が自分の体から表出されているのを感じる。

これも全てあの大蛇のせいであろうとさえ思える。

高鳴る鼓音が血液を激しく奮い立たせ、全身を熱くする。

あぁー。

これがーーーー。


「いい反応だ。供物よ。その分際でよくもまぁそこまで負を積載した。もうよい。私は十分だ。」


ジャルがそう口にする。

先刻の歪んだ表情とは打って変わっておぞましく殺意に満ちた顔をする。


「創造が出来ないなら、私の力が使えないなら、あなたを!!」


そう言って玲奈はジャルに飛び掛った。


「堕ちたな。人間よ。」


ーーグシュ。ーー


静まり返った部屋にその音が響く。


「かはっ!」


玲奈の声が後に続く。

血が吹き出し、辺りを真っ赤に染め上げる。

シャルの右手がレイナの腹部奥深くに突き刺さっていた。


「''幻夢''の理もここまでか。…っ!?」


ジャルは目を見開いた。


「な、何故…だ…。」


玲奈が取った行動は抱擁であった。

憎悪に満ちたシャルを優しく包み込むように抱擁した。


「私は……。死んでもいい……。

でも……ジャル?あなたが……不幸な……ら……シャルも……幸せになれ……ない。

はぁ……。はぁ……。

だか……ら、私の……命を……引き換え……に

……温もりを……愛を……知って……欲しい……の。」


玲奈はそれを言い残し力尽きる。

優しく抱擁した両腕はシャルの身体からダラりと落ちた。


「私は……。」


シャルはそっと玲奈の腹部から右手を引き抜く。

そして玲奈を優しく寝かせた。


「おい、シャル。居るのだろう?」


ジャルがそう言うと小さな光が物陰からふわふわと姿を現す。

そして優しく煌めきシャルの姿に具現化する。


「久しぶりだね。ジャル。あの件以来かな。」


「あぁ。勇敢な犬人の命と引き換えにこの村を守る誓いを立てたあの日以来。だな。」


「勇敢だなんて、、私達は宿命に逆らった愚かな犬人達だよ。」


「いや、意図はどうあれ結果として多くの民を救ったのだ。それは賞賛されるべき事象。誇れ。」


「ふふ、ありがとう。」


シャルはそう言って優しく微笑んだ。


「ところで、どうして私を呼び戻したの?」


シャルのその言葉にジャルは大きくため息を零した。


「解放の時だ。」


「そう。」


「お前に掛けた呪い。忌みの犬人として村へ帰り、その後永久に誰にも認められず誰からも愛されなくなる呪い。」


「そうだね。」


「解放の条件は1つ。

無償の愛を他者から満遍なくその身に受け、宿すこと。」


「うん。」


「この人間それをやりおった。もう私の呪いは項を成さない。」


「数多の生き物を犠牲にして誰からも受け入れられなくなるようにする。

それが供物の真意……だよね?」


「あぁ。供物はそのための儀。供物の儀を怠れば呪刻が蛇を生じ民を喰らい尽くす。」


「ただ、私は知っているよ。あなたは命を狩る時苦痛を与えなかった、供物もあなたが生成した仮初の命だったことを。」


ジャルはシャルのその発言を聞いて目を大きく見開いた。


「何よりも命を尊む神。ジャルは村民の命を狩らなかった。本当に優しい私の神様。」


「しかし、仮初の命であろうとも命は命。私は輪廻の理を犯しすぎた。宿としていた貴様の身体からも離れる。」


「行く宛てはあるの?」


「ある訳がなかろう。ただの思念となりこの世を浮遊し続けるだけの存在だ。もう、神でもなんでもない。」


「そう、、なんだ。」


「あぁ。そろそろ''幻夢''は終わる。我は呪刻と共に貴様の身体から消滅する。」


「そっか、、。」


「今まで世話になった。」


世界が割れる。

白の世界は空間にヒビを生じさせ少しずつ崩れていく。


「ジャル!ジャル!もし、もしあなたがまだ人の幸せを願うなら!私達の前に現れて!!玲奈はーーーー!!!」


「終わりだ。」


ジャルのその一言で世界は完全に崩れ落ちた。

それと同時にシャルは目を覚ます。


「ここ……は?」


辺りを見渡した。

木の机に、花瓶が1つ。

花瓶にはキンセンカの花が刺さっている。

ふかふかの感触と落ち着く香り。

あぁー。

自室か。


「んーー!」


シャルは身体を伸ばし徐に足を降ろす。


「いてっ」


「ん、?」


足が何かにぶつかった。

それと同時に痛いと聞こえる。

不思議に思ったシャルは足に視線を移す。


「あいたた、起きたの?シャル?」


シャルに頭部を蹴飛ばされ目を擦りながら玲奈はのそっと体を動かす。


「そっか、、」


シャルは眠そうに目を擦る玲奈の様子を見て思わず涙を浮かべた。

やっと終わったのだ。

夢が。


「え、え!?なんで泣いてるの!?どこか痛いの!?」


慌てふためく玲奈を見てシャルはクスッと笑う。


「な訳がなかろう。目を覚ませ。話したいことがある。」


シャルはそう言って玲奈を起こした。

そして全てのことを話した。

幻夢での出来事。

自身の呪いはジャルをその身に宿すこと。

そして、その呪いが他人からの愛を遮断していたことと呪いの解除方法。


「ってことはシャルと一定距離内で一緒に寝ることによって幻夢って世界に行ってたってこと?」


「あぁ。幻夢っていうのは同夢と似ているが、そうではない。私のスピリチュアルに玲奈のスピリチュアルが共鳴を起こして世界を作る。

ジャルはずっと私のスピリチュアルに身を宿し私と共同していた。

ジャルに干渉するには幻夢が必要だと言う訳だ。」


「でも私何も覚えてないよ?」


ポカンとそう言う玲奈にシャルはクスッと笑った。


「覚えてないなら何も気にしなくていい。ただ、私の呪いを解いたのは紛れもなく玲奈、お主だ。本当に礼を言う。」


シャルのその一言で玲奈はどっと緊張が取れた気がした。

そして疲れた時に押し寄せた思考で全てを把握出来た。

シャルが風邪を拗らせていたのは供物と儀式が近付いていた影響だったということ。

シャルが儀式を行っていたのは村のためだったということ。

しかし、玲奈には1つ懸念が残った。

それは、

何故ジャルは自身の儀式に自身が作り出した生命を用いていたのか。

そして、何故今回私が供物として扱われたのか。

もしかして私はジャルが作り出した存在なのか?


「それは違うぞ人間。」


どこからもなく声が聞こえた。

その刹那玲奈の右足にひんやりとしたものが絡みつく。


「ひゃっ!」


思わず奇声を上げる。

同時に視線を右足へ移す。


「きゃー!!」


奇声が

叫び声に変わった瞬間であった。


「へ、へ、蛇!!!」


玲奈の右足に絡みついたそれ。

それは美しく煌めく黒色の鱗を見にビッシリと纏わらせ、儚くも神々しい蛇であった。


「はぁ、先刻の我の感心を返さぬか?」


蛇は続けてそう口にした。


「ま、ま、まさか、、」


その情景にシャルの大きな瞳はきらりと潤う。


「思念として漂うならまだしも、''あやつ''我を畜生へと堕とすとは、、」


「ジャル!!!」


シャルはそう言ってその蛇に勢いよく抱きついた。

身丈に合わぬ抱擁でも良かった。

ただ、自分の崇める神にただ、ただ寵愛を欲した故の行動であった。


「はぁ、お主何も分かっておらぬの。シャル。」


「え?」


泣きつくシャルに蛇はそう言った。


「我はもうジャルという神ではない。ただの蛇だ。

ただーー。」


そう蛇が言うとふわふわと小さな光の粒が周囲から湧き出る。


「なに、、これ、、」


玲奈はその様子を固唾を飲み見守る。


「はぁ!!!」


蛇のその声と共に小さな光の粒は瞬時に視力を奪うほど光り輝いた。


「……く!」


視界がまだ回復しない。

ぼーっと黒いモヤがふわふわと目の隅で踊る。

影が分からない。

色が分からない。

意識がーーー。


「こ、これは!!」


シャルのその声に玲奈はハッと我に返った。

奪われた視力も徐々に回復していき、周囲をなんとなくであるが感じ取れるようになった。


「しかし、まぁここまでよくも。

怪奇とういのは確かに存在するみたいだ。」


シャルの声が聞こえる。

しかしそれがシャルのものではないということは等に分かりきっていた。

この声の主はーー。


「おかえりジャル。はじめまして。」


そこにはシャルの姿をしたジャルが居た。


「あぁ。」


そう言ったジャルの顔は満遍なく笑顔で満ちていたであろう。


「それでーー。だ。

先程貴様は我がお主を作ったと考えたであろう?」


ジャルの一言に玲奈は目を見開く。

思考が…バレてる!?


「元々は神だ。完璧とは言わずとも大抵のことは分かる。その答えを欲すか?」


ジャルのその一言に玲奈はこくりと頷く。


「今までの供物は私が作り出した生命。それに間違いは無い。しかし、お主は全く違う。」


「え、、?」


「お主は我の作り出した供物を、虚無の存在とし、祭殿に居座った異界人だ。」


玲奈にはジャルの言ってることが理解出来なかった。


「え、、どうゆう?」


「まぁ、良い。いずれわかる。お主も。我も。」


そう言ってくるっと振り返ったジャルはすこし微笑を噛んでいるような気がした。


「それにしてもーーだ。玲奈、これからどうするの?」


先刻とは違い砕けた言葉と声色で話すシャルに玲奈はニコッと笑顔を向けた。


「これからーか。何もすることないし、とりあえずケインとシロくんとクロくんに会いに行こうかな。」


その言葉を聞いたシャルは目を大きく見開いた。


「玲奈…。クロとシロはもしかしてクロウとシロウのことを言っているのか???」


シャルの様子がガラリと変わる。

先程の笑顔とは対照的な表情に声色を変え、少し震えてる気がする。


「え、うん。どうしたの…?」


シャルの変貌に危機感を感じる。


「何故、何故だ…何故…。玲奈、何故お主はクロウとシロウを知っておる?」


シャルのその言葉に玲奈はきょとんとする。


「え、だって、シャルが儀式前に彼らを呼んだじゃない…。」


その言葉を聞いてシャルは先刻よりも大きく目を見開いた。


「私が…私が?そんなことを言ったのか?」


シャルはその事象に信じられない様子だった。

そしてその視線はジャルへと向く。


「何か…したの?クロウとシロウの事を玲奈に言ったの…?」


シャルのその言葉にジャルは、はぁ…と大きくため息をついた。


「阿呆。我が干渉したのはあくまでもお主らと目があったあの瞬間からだ。つまるところ、それ以前の話は知らぬ。」


その言葉にシャルは力が抜けたかのようにぺたんと座り込んだ。


「え!?シャル!!大丈夫?」


「玲奈、良いか。今から来る最悪を、何としてでも受けとめろ。」


心配そうに近付く玲奈にシャルはそう言葉を残した。


玲奈はまだ知る由もなかった。

これから起こる最悪を。

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