表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/3

2話 看護師と星屑の光

神により3つの能力を与えられた涼宮玲奈は異世界に転生する。

転生して直ぐに犬人により、自信が供物だと知らされる。

村への帰還中にメタルボアーによって帰還を難なくされるが、犬人と自身の能力解析鑑定と想像創作により難を脱したその矢先に首を跳ねられてしまった。

「長老!!!!」


ケインの声が響く。


「玲奈!!玲奈!!」


またケインの声が響く。

あぁー。

どうしたの??

そんなに泣かないでよ。

ケインは強い犬人さんでしょ??

どうして私の体を抱き締めるの??

どうして私を大事にするの??

私は貴方を少しだけ救っただけなのにーー。


「ダメだよ……ケイン。そんなに泣いちゃ。」


「ッ!?」


「ほう。これは驚いた。」


その事象に長老とケインは少なからず驚愕をした。

吹き飛ばされた筈の玲奈の首が傷痕も残さず元に戻り、声まで発していたからだ。


「思えば人間。私が首を飛ばしても血を一滴も垂らさなかったな。あの忌々しい神をも思い出す。まさか……。」


長老は少し思考をし、ギリっと歯を鳴らした。


「はい。私はあなたの憎む神によりこの地に来た看護師です。」


玲奈はそんな様子の長老に静かに冷静にそう言った。


「ほう……。看護師……か。聞いたこともない。」


長老はさらに顔を顰めて自身の親指の爪を噛む。


「長老、聞いて下さい。私は2週間前にこの者に救われました。だからーーこの村の病もーー。」


「話すな。」


長老はケインの言葉を一瞬にして打ち消す。


「玲奈とか言ったな?」


「はい。」


「お主、私と共に居ろ。供物の儀式まで少なくとも1週間はある。そもそも不思議なのだ。主の衣類も、身に纏う装飾品もどれもこれも見たことも聞いたこともないものだらけ、それが故、すこし興が湧く。」


長老はニヤりと笑い玲奈の側まで歩を進めた。

そして玲奈の顎先に自身の人差し指を添えそう口にした。


「わ、、分かりました。でも長老さんその前にーー。」


ーースキル《解析鑑定》実行しますーー

個体種犬人シャル・メルラ。

齢96歳。

身長123cm。

体重35kg

身体年齢12歳。

強度の呪い。

#社会的孤立

#不安

#気分転換活動不足

#孤独

#悲嘆


「なに……これ。」


玲奈は驚きのあまり、声が出なかった。

自分の前に居る長老は本当に長老であった。

この見た目で96歳というのも驚きだが、それよりも年齢と相違した身体年齢。

つまるところ、この長老は強度の呪いにより身体成長を止められ、社会から隔離された存在なのであろう。

重々しい現実を受け止められる自信が無い。

それにーー。

この解析鑑定、看護診断も出るのかよ!!

おまけに、ある疑念さえ抱く。

なぜケインの解析鑑定と結果が違うのだろう。

ケインの解析鑑定の際は看護診断は愚か、名前や身長、体重が診れなかった。

解析鑑定の際に対象の知り得たい情報を無意識に分別しているからだろうか、この解析鑑定は時として最っも調べる価値がありそうだ。


「どうした?玲奈。私と一緒は嫌か?」


思考を張り巡らせている玲奈に対し、余裕そうに微笑む長老、基、シャルの声色は余裕とは対照的に悲しそうであった。


「いいえ。シャル。貴方と少しお話がしたいです。その痣も、呪いの事も。」


玲奈のその言葉にケインもシャルも目を見開いた。


「シャ……ル??長老は確かーーユウラという名では??それにーーシャルは忌みのーー。」


「ふふ、あははははは!!幾年ぶりだろうか、その名で呼ばれたのは!!ケインよ、この事は他言無用だぞ。お主にも伝えておく、私の名はシャル・メルラ。かつて神に欺いた愚かな犬人よ。」


シャルはそう言葉を投げ、くるっと後ろを振り向いた。


「玲奈。お主やはり私と居ろ。ケイン、お主は1度帰宅し、そのメタルボアーを供物として儀式の準備に取り掛かれ。」


「はっ!!!」


ケインはシャルの言葉を聞き、瞬時にその場を去った。


「え。」


「うむ。」


「え。」


瞬時に作り出されてしまった2人の空間に玲奈は戸惑いを隠せなかった。

なにより、この長老この状況を少し楽しんでいる様な気さえする。


「まぁ、よい。とりあえずちと部屋に入れ。」


シャルの言われるがまま玲奈は居間への足を運んだ。


「ところでーー。だ。何故お主は私の名を知っていた?」


疑問。

確かにそうだ。

初めて会った人物から名を言われるのは有り得ることのない事象。

そこにシャルが疑問を持つ事は無理もない。


「はい。私は元は地球という星に居ました。こことは違う世界からー。」


玲奈はこれまでの経緯を偽りなく話した。

自分のこれまでの人生。

自分が異世界へ転生したこと。

そして神から3つの能力を貰ったこと、そして自分の指名を。


「ほう。地球か。玲奈、驚かず聞いて欲しい。ここはーー。地球だ。」


「え?」


「ただ、お主が居た地球とは少し、いや大分異なった世界だな。まぁ、お主が話す言語はこちらの世界と同じらしい。その証拠として、お主の右胸にある名札、それは涼宮玲奈と読むのだろう?」


長老は玲奈の右胸にぶら下がった名札を手に取りそう言った。


「まぁ、そう硬くなるな。」


少し緊張気味になっている玲奈の肩を少し撫で、シャルは微笑を零した。


「それより、長老さん、貴方はーー。」


「ううん、シャルでいい。私も玲奈には堅苦しく無く話したい。」


玲奈の発言にシャルは被せてそう話した。


「玲奈は不思議と安心感がある。何を話しても拒絶することなく、全てを受け入れてくれるかのような、そんな安心感がある。」


シャルは玲奈の目をじっと見つめそう言った。


「分かった。シャル。どうして神を憎むの??」


玲奈は肩の緊張を解く。

そして投げかけた1つの疑問、これが分かれば全てが分かる気がした。


「私はね元々4人の冒険家だった。もうーー。村民は皆産まれる前の出来事。ちょうど私が12の頃だね。

この村にね、深刻な食料問題が陥った。

作物は一切育たず枯れ果て、家畜も原因不明の流行病で死んで行ったよ。外に狩りに出ても異常に増幅した魔獣のせいで若く強い冒険者達は骸と化した。

故、私達は祈りで村を救うべく、神洞に行った。

するとそこには蛇を模した強大な『存在』が居たんだ。そいつが神だって分かったのはそいつを殺そうと剣を振るった幾分か経った頃だったよ。」


「え、蛇!?」


「あぁー。蛇だ。しかもとてつもなくデカい蛇だ。鱗は鋼のように硬く、デカく鋭い牙は岩をも軽々と砕いた。そいつは幾度と首を切っても先刻の玲奈の様に血を一滴も零さず、まるで何事も無かったのように繋がる。そして私の仲間達は徐々に喰われていった。アルナ、メラル、ユシロ。私の最高の仲間達。

仲間を失った絶望と悲しみに悲嘆した。でも、それ以上に次は自分が喰われる番だ。という恐怖が更に私の心をどす黒く塗りたくった。睨みつけられただけで、涙が止まらず、体は硬直した。その時にその蛇に言われたのさ。『月に1度満月の夜の日、この地に神託に沿った供物を置く。それを浄化し1週間後に神託への供物として捧げよ。さもなくば貴様らの村に厄災を。』と、その後そいつは何事も無かったように姿を消した。藻屑のような足取りで家に着いた私はそれはもう、泣き叫んだ。様々な感情が入り乱れ、混ざりあって自分ではどうしようもなかった。気付いたら私の全身はこの烙印に似た痣が覆っていたよ。その後だが、私とその仲間達は忌みの犬人とし、神に歯向かう同族が出ぬよう注意喚起された。落胆こそしていたが、更なる被害を増やさない為、シャル・メルラは自殺を装い、当時の村長を殺した。隔たりの布を掛け、此度に渡り村人を騙し続けて長老の名を語ったよ。ユウラの名を使ってね。酷いものだろ?」


そう淡々と話すシャルに玲奈は何も声を掛けることが出来なかった。


「言葉ーー。無しか。それはそうだよね無理もーーッ!?」


「ッ!!」


咄嗟に抱きしめた。

12の幼子が抱えるものにしては余りも重すぎる。

自分の仲間を殺した者に対して非常に、残虐ながらも心を鬼にし、自尊心を捨ててまで村人を守り続けたこの少女を誰が咎めようか。

少なくても玲奈にはそれが出来ない。

故に抱きしめた。


「玲奈!?何をしてーー。」


「よく、よく頑張ったね、シャル、よく頑張ったよ!」


玲奈は無意識にも涙を流していた。

溢れ出る大粒の涙を彼女自身止めることが出来なかった。

看護師として対象への同情は時として冒涜になる。

しかし、彼女の苦しみや痛みが玲奈には痛いほど分かってしまった。

それは共感とは程遠いかもしれない。

しかし、しかし、溢れる感情を玲奈には止めることが出来ない。


「……私は……沢山の村人を……犠牲に……そして……沢山の……者たちを……。」


「ううん、シャルは頑張ったよ!!」


「う、く、、うわぁぁぁぁぁあ!!」


静まり返った部屋に、2人の少女の鳴き声が響く。

齢96であろうが、身も心もまだ幼子。

シャルの止まった刻はゆっくりと今動き出したのかもしれない。


「ケイン!!どうしたの?その傷??」


「またケインが喧嘩をしてきた。」


一方ケインは自宅へ戻り、ルナとルカと相手をしていた。


「ったくお前らな。夕刻には色々準備をしなきゃならないんだ。遊んでる暇はないんだぞ。」


じゃれ込む2人にケインは大きく溜息を零す。


「準備ー?なんの??」


「それはダメだよルカ。きっと儀式。」


ルカと発言をルナが訂正する。

ルカはそれを聞いてあぁ!と合図地を叩いた。


「そうだ。儀式がある。その為には準備が必要で、それには多くの時間を使うのだ!」


ケインは2人にそう言い放った。


「おーー!」


「おぉー。」


それに合わせルナとルカは掛け声をする。


「ところでケイン、今回の儀式は私達3人に任されているけど、何するのー?」


「私も気になってた。何か作るの??」


2人の疑問に対してケインは鼻で笑った。


「儀式の準備とは、供物を浄化すること。即ち!!洗うぞ!イノシシを!!」


そう言ってケインは直径3m程度の桶を部屋から持ってきて水を入れた。


「洗うの?じゃあアワアワにしなきゃ!」


そう言うとルカは慣れた手つきで指を鳴らした。


「やっぱりルカの無詠唱魔法はいつ見ても凄い。」


ルナは一瞬にしてメタルボアーの身体を泡で包んだルカに感心を示した。


「お前らな……。」


そんな様子をケインは呆れた顔で見る。


「洗うって言っても俺らが考えている洗うとは少し異なるんだ。泡で落とせる汚れにも限界はあるだろ?」


「確かに!!」


「じゃあどうやって??」


呆れながら言うケインに対し、2人は更に疑問をぶつける。


「確かに、アワアワにするのは間違っていない。

でもな、そのアワアワにする洗剤は専用の洗剤がある。そして、その後に使う『トリートメント』、『パフューム』なるものを使い、全てを綺麗にし匂いまで整える必要がある。」


そうドヤ顔で話すケインに2人は目を輝かせた。


「トリートメント!!」


「パフューム!!」


いつもは冷静なルナも乙女心を擽りそうな単語に好奇心旺盛な様子。

ルカは言うまでも無い。


「とりあえず…今のアワアワと水を取り除くぞ。」


ケインのその言葉にルカは再度指を鳴らす。

泡は指鳴らしと共に瞬時に消えていった。


「我、永劫タル祀リビト。森ノ精霊ヨ。微風ノ加護ヲ我ニ与エン。風ヨ風ヨ大イニ吹キ我ノ力ニナレ。現在せよ!!天使の微笑(ウインドブロウ)!!」


ルナが瞳を閉じそう呟く。

詠唱であろうか、そのつらつらと並べられた単語をルナが口にする度、ルナの周囲に風が吹き始めた。

そして、ルナが発した天使の微笑。その単語と共に周囲に散在した風はその全てがメタルボアーを優しく包んだ。


「天使クラスの魔法をこうも繊細に……。」


その様子をケインは固唾を飲んで見ていた。

それも無理は無い。

ルナが今回使用した天使魔法は、五大魔法の内最上位クラスの魔法だからだ。

天使クラスの魔法を使いたくば、生涯に渡り魔道を鍛錬せよ。との言葉があるほど、この魔法を使えるのは才の原石とも言える。


「はい!ケイン!終わったよ!!」


「早く見せて。トリートメントとパフューム。」


そう笑顔を向ける2人。

ケインはまた大きくため息をついた。



ーー長老の家ーー


「お腹が空いた。」


シャルはそう言って自身の腹部を撫でた。


「え、じゃあ何か作ろうか??」


「え、いいの!?」


玲奈の言葉にシャルは目をキラッと輝かせた。


「犬人の主食とかはよく分からないけど、お肉とお野菜は食べれるのよね?」


玲奈のその言葉には根拠性があった。

以前ケインを2週間看護をした際に、ケインが食べていたものがそれらであったからだ。

ケインは負傷していながらも、自身で食材を取り、調理をし食べていた。

まぁ、ほとんどが茹でたもののみであったが。


「うん!シャルはお肉がすごく好き!」


そう言って天真爛漫に笑うその様はまさしく幼子である。


「この前、ケインに色々食べさせてもらったけど、全部茹で料理だったのよね、塩とか砂糖は食べないの??」


玲奈はシャルに疑問をぶつけた。

理由としては3つ。

1つ目はこの世界に調味料という概念が存在するのか否かの確認。

2つ目は犬人という存在が調味料に適応するのか否かの確認。

3つ目。これが恐らく玲奈にとって最も重要性が高いであろう事柄。それはーー。


「あぁ、食べるぞ。しかし、砂糖や塩、特に塩や香辛料は恐ろしく希少度が高く、簡単に食せるものではない。私も最後に食したのは幾年前か……。」


「ちょっと待って、じゃあ保存はどうやって??」


「食糧危機に陥ったと話したね。備蓄する余裕も無く、食せば無くなり、食せば無くなりの繰り返しだよ。」


「食料問題は今日に至るまで続いているの??」


玲奈のその言葉にシャルは口を閉じた。

玲奈がそれを聞いたのには理由がある。

それは、高齢者の数だ。

異様に少ない高齢者に玲奈は食料問題が関連していないか詮索を入れたかった。


「今はそうでも無い。穀物を初め、野菜は育つようになった。魚や肉は保存を出来ていないから安定はしていないけど、。」


「犬人さん達は強靭な肉体があります。人間である私と比べるのは烏滸がましいですが、私達人間よりも筋肉量が天と地の差があります。筋肉量が多いということはその分アミノ酸……タンパク質が絶対的に必要です。シャル、あなたの言葉には矛盾がある。それに、ケインがさっき言っていた『この村の病』も気になるし。」


シャルがつらつらと並べる言葉に玲奈はそう切り込みを入れた。

理由はひとつ。

不自然だからだ。

シャル・メルラ。彼女が瞬時に敵意を消し自分に心を開いたのは何故だろう。

#不安によるものか?それとも#社会的孤立が産むものなのだろうか?いずれにせよ、両者が招く人に対する依存とはまた違う何かを感じる。

根拠として両者とも依存の前に信頼から人間関係を構築するからである。

信頼も無く人は誰かに依存しない。

シャルの発言が全て本当であれば、呪いとは何が何に対しての呪いなのであろうか、また、シャルは何故種族も全て違う人間の私に全てを話したのであろうか。

玲奈がシャルに対する疑念は頭を回っていた。


「疑念だろ?玲奈が私に抱いているものは。」


シャルは依然真剣な眼差しをこちらに向けてくる。


「うん。」


玲奈はそれに一言で答える。

彼女もまた、真剣な眼差しをしている。


「虚偽は通じないか。勇者の話も、私が行ってきたのも全て本当だよ。ただーー。くっ!!うぁぁぁぁあああ!!!」


シャルが口を開こうとした瞬間、シャルの痣は漆黒に染まりあがり紋様を大きくする。

シャルはそれに対して苦痛の声を上げる。


「はぁ……。はぁ……。」


「シャル!?」


悶え苦しむシャルに玲奈は瞬時に駆け寄った。


「これだよ……。私が全てを話そうとするとこの呪いが邪魔をする。」


シャルは苦痛の表情で玲奈にそう告げた。


「そう……だったの……。ごめんなさい。」


申し訳無さそうな顔をする玲奈にシャルは「大丈夫。」とだけ伝えた。


「シャル少し外に行ってきても良いかな?」


玲奈はシャルが一通り落ち着いた後、そう尋ねた。


「ダメ。」


その言葉をシャルはひと言で描き消す。


「人間である玲奈が今外に出ると、玲奈の存在を知らない村民達は少なからず警戒をする。最悪の場合捕らえられ、処される場合も無きにも在らず。だからーー。」


「じゃあ、一緒に散歩をしよ?」


玲奈のその言葉にシャルは顔をムッとした。


「私の状況分かってるの??村長殺して、カーテンの隔たりを作って身を隠してるんだよ!!シャル・メルラは死んでるの!!」


余りにも考え無しに自分が話した言葉にシャルの今までを否定してしまったことに玲奈はニヤッと笑った。


「だからだよ、シャル。」


そう言って玲奈はシャルの両肩の上に自身の両手をポンっと置いた。


「え?」


ーースキル《想像創作》実行しますーー


玲奈は想像創作で化粧品と衣装を創作した。

元々、犬のようにクリっとした大きな瞳にバザバサと生えた睫毛は化粧をする必要が無いほど可愛いが、裏を返せは適切な化粧で更に化ける原石とも言える。

それに、麻布で造られた衣類も玲奈が知る洋服へ色型どると、どれほど愛くるしくなるだろうか。

玲奈は想像しただけで更に可愛くなるシャルに悶えた。


「な、なんじゃこれはー!!」


一瞬にして目の前に創り出された物に思わずシャルも驚愕せざるを得なかった。


「先刻に能力のことを聞いておいてなお、ここまでとは……恐ろしいの、異世界転生とやらは。」


シャルはそう言ってスクッと立ち上がった。


「にしてもだ。玲奈。私は外に出る気は無いからな。ずっとこのままで良い。」


「仕方ないなぁ。」


そう言うシャルに玲奈は少しため息を零す。


ーースキル《想像創作》実行しますーー


次に玲奈が創作したものはカセットコンロにガスボンベ、フライパン、土鍋、包丁、食材に一式揃った調味料、それに食器類達だった。


「いい?シャル見ててね!」


そう言って玲奈は慣れた手つきで淡々と料理を作っていった。

米を研ぎ、土鍋で炊く。

その間に玉ねぎ、鶏肉を切る。

そして、フライパンに油を引き、それらをきつね色になるまで塩コショウで炒める。


「な、なんじゃ、、この香ばしい香りは!?」


ご飯が炊き上がった頃合に玲奈は土鍋からご飯をフライパンへ移し、ケチャップで赤く彩りながら炒めていく。

そう、玲奈はチキンライスを作っていたのだ。

米にある程度火が通り、若干の焦げ目が付いた頃、玲奈はチキンライスを皿に盛る。

シャルを置いてけぼりにして進められている工程だが、シャルは玲奈の返答が無い事にも気づかず玲奈の料理をする姿に興味深々な様子で目を目開いた。


「本番はここから!」


玲奈はそう言ってフライパンに再度油を引き、卵を割る。

卵が固まらない内に、箸で掻き混ぜながら表面に焼き色が着く前に手首を返す。

そして、卵の薄膜にトロトロの部分を包む

それは、ふわとろオムレツと言ったところだろうか。

それを玲奈は先程のチキンライスの上にゆっくりと丁寧に置き、上膜を包丁で切る。

切られたオムレツはチキンライスを包むように割れ、中のトロトロを表に現した。

そして、その上から玲奈は再度ケチャップを掛ける。


「これはね、私達の世界で言うオムライスです!シャルちゃんどうぞ食べてみて!」


そう言ってシャルの目の前に置かれたオムライス。

シャルは自身から出る唾液を零さずには居られなかった。


「食べて…良いのか??」


シャルの言葉に玲奈はニコッと笑った。

そしてシャルはオムライスにがっついた。


「美味しい、美味しい、本当に美味しい!!」


美味しそうに食べるシャルに玲奈はニコッと笑った。


「どう?シャルちゃん。美味しいでしょ?」


ドヤる玲奈に目もくれずシャルはひたすらにオムライスを頬張った。


「正しく、神の御膳。玲奈、お主はやはり、本当に、神の使いなのね。」


シャルは完食した皿を置き、口元をスカーフで拭う。


「私はシャル、あなたに生きるならもっと楽しく幸せに過ごして欲しいと願ってるの。だから世界を見に行きませんか?」


玲奈の言葉にシャルは微笑を零す。

そして、不思議そうな顔をする。


「どうして、会って間もない私の幸せを願うの?」


シャルのその言葉に玲奈は目を見開く。

そして、笑う。


「ふふっ。私はね、看護師なの。看護師の看護の対象はヒト。でもこれは私達の世界での話。私は知り行く全ての者に幸せになって貰えるよう努力すること。それが、看護師だからだよ。」


玲奈のその言葉にシャルは口を閉じ、歯を喰いしばる。


「だが、だが!私は神に背いた!あろう事か神を血で塗り、殺そうとした!!」


「シャル、それはそれ。あなたが不幸になっていい理由ではないよ。」


玲奈は優しく微笑んだ。

その様子にシャルは鋭い視線を向ける。


「お前に何が分かる!!神に背くということは、不幸を呪縛されるのと同等!!私の体を見よ!!こんなにも呪いが、神の怒りが刻み込まれているんだ!!」


シャルはそう言って腕に刻まれた紋様を玲奈に見せる。


「全てを話そうとするとその全てを拒絶され、呪いは成立し苦しみを増大させる。だから!!だから!!」


膝から崩れ落ちるシャル。

玲奈はその頭を優しく撫でた。


「でも、シャル。あなたが私の作ったご飯を食べてくれた時、美味しいと言ってご飯を食べてくれたね。あの時シャルは幸せじゃなかったの??」


玲奈の言葉にシャルは目を見開いた。

そして、瞬時に涙で潤す。


「し…しあ…幸せ…幸せ…だっ……た。」


震える声の中その言葉を優しく紡ぎ、玲奈に伝える。


「その時呪いは強くならなかった。だから、貴方は不幸を虐げられる存在では無いんだよ?」


玲奈の言葉をきっかけにシャルの涙は量を増す。

玲奈はポツリポツリと流れるその涙に先刻の涙とは大きく違う気がした。


「ありがとう。シャル。私の作ったご飯を食べてくれて。」


玲奈の言葉にシャルは声を上げて涙を流した。

ずっとーー。


「玲奈、ありがとう。」


シャルは仰向けになって玲奈にそう告げた。


「急にどうしたの?私は何もしてないよ?」


玲奈は優しくそう言った。

シャルの頭は玲奈の上にあり、その様子は膝枕と言った方が正しいのかもしれない。


「ううん。玲奈は私を救ってくれたよ。何回も。」


シャルは玲奈の顔を見上げてそう言った。

砕けた言葉を使おうとしているシャルも長年の癖からか幾度と長老の時である口調が癖となり、混ざっている。

でも今はそんなことどうでもいい。

今ようやくシャルが心を開いてくれた気がした。


「窓からなら外を見れるんじゃない?」


玲奈の言葉にシャルはクスッと笑う。


「本当にお主は私を外に出したがるなぁ。この家の裏口近くの窓なら解放してもいいかもしれないね。」


玲奈も一緒にクスッと笑った。

そしてシャルはムクっと起き上がる。


「玲奈。こっちだ。」


そう言ってシャルは玲奈の手を引いた。

先述した犬人の家である竪穴式住居。

シャルの家はそれとは少し違う。

犬人が建設する竪穴式住居が3つほど連なり、大きな家となっている。

その連なった家々の廊下に近しい物を玲奈はシャルに手を引かれ歩いた。


「ここだ。」


そう言ってシャルが指を指した場所は、小さな子窓だった。


「あはは、小さいね。」


そう言ってクスッと笑う玲奈にシャルはムッとする。


「違うもん!ここは村長しか知ることが出来ない秘密の隠し通路なの!」


そう言って部屋の奥からハシゴを持ってきて、小窓に掛ける。


「玲奈!着いてきて!」


シャルはそのハシゴを登り、窓を開けた。

そして、窓の中にヌルッと入っていった。


「ちょっと待ってよ!」


玲奈はシャルの後ろを追いかけた。

そこは、小さな洞窟のような場所だった。

大柄では無い玲奈がほふく前進で進んでやっと通れる道。

幾分かその状態で進んだ後、玲奈の目に光が指した。


「き、綺麗…。」


そこには広大な地に大きな湖があった。

湖の周りには木が生え揃い、透き通る湖は夜空の星達を優しく反射している。


「私も初めてここに来たーー。世界はこんなにも美しいのだな。」


シャルもまたその情景に見惚れていた。

無理にでも外に出らず、ずっと閉ざされた部屋に居た。

シャルは不意にも涙を流していた。


「シャル。ありがとう。本当に綺麗だよ。」


玲奈は目に映る星屑達に想いを乗せた。

私がこの村の病もシャルも救うとーー。


「にしても、玲奈達大丈夫かな。」


時は少し遡り、夕刻前。

ケインは長老の家に居る玲奈達を心配していた。

シャルが少し気に入ったとはいえ、一瞬にして玲奈の首を飛ばしたことも相まって、不安は強くなる。


「ケイン、そんなにもあの人間が気になるの?」


ルナはそんな様子のケインにそう言った。


「あぁ。それなりにな。」


少し俯くケインの後頭部にルカは思いっきりドロップキックをかます。


「あっ!!痛ってええ!!」


「ケイン!そんなめそめそしてたら男らしくないぞ!」


ルカのその言葉にケインは少し呆れた目線を送る。


「いいか?お子ちゃまには分からない問題が沢山あるんだよ!」


「お子ちゃまはどっち?」


少し気を荒くするケインにルナはそう言葉を向けた。

おっとりとした目は少し釣り上がり、若干の怒りをも感じさせる。


「え、。」


普段温厚で冷静なルナがこうなったのは初めての事だった。

その事にケインは少なからず驚愕する。


「ケイン。あの人間が好きなの?」


ルナは再度ケインに言葉を向ける。


「んな訳あるか!」


「じゃあなんでそんなに焦ってるの?」


「そうだそうだ!なんでそんな焦ってるんだ!」


的確とまではいかないが、ルカとルナの言葉に間違いは無い。

好きとは違った感情にしても、ケインが玲奈を特別視しているのは変わり無かった。

メタルボアーの1件で救われた命。

感謝はしてもしきれない。

だがー。

自分は救えなかった。

玲奈は死こそしなかったが、自分の前であぁも呆気なく首を飛ばされたのだから。


「別に、好きとかじゃない。ただ、あの人間にはーー。玲奈には命を救われたんだ。心配するのも無理は無いだろ?」


ケインはボソッとそう呟いた。

ルカとルナは呆れたようにケインを見る。


「これじゃどっちが大人か分かんないな。」


ケインのその言葉が綺麗に毛並みを揃えたメタルボアーのいる部屋に響いた。

今回は異世界看護師第2話を手に取って読んで下さりありがとうございます。

1週間以内に第3話を投稿する予定なので、是非ご評価ブックマーク登録の方よろしくお願い致します!!

作者の励みになります!!!!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ