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♯17 色々解決するために


 ラズから話を聞いた夜。

 マルタとダグは、マルタの自室で、今後の事を話し合うために向かい合って座っていた。


「陛下に協力して貰えないか、話をしてみようと思う。ちょうど夜会で会う機会もあるしさ」


 するとダグがそんな事を言い出した。

 突然、カルム王の名前が出てマルタはぎょっと目を剥く。


「ええと、ダグ。理由を聞いても?」

「うん。ほら、ギブソン・ローレルの話が出て来たじゃないか」

「確か隣の、メイナード領の貴族でしたよね」


 先ほどの話を思い出しながらマルタはそう返す。

 ギブソン・ローレルという人物については知らないが、あまり良い評判の貴族ではないらしい。

 何でもカイを始めとした一部の貴族に、怪しげな投資を持ちかけている男なのだそうだ。

 メイナード領やリブロ辺境伯領だけではなく、他の領地でも同様の事をしている噂があるとダグは教えてくれた。


 ちなみにギブソンがやっている事は、表向きは違法ではない。

 頭に怪しいと不穏な言葉はつくが、本人曰く「真っ当な投資ですよ」との事だ。

 確かにギブソンの言う通り、一応は普通の投資内容である。

 そしてその内容を聞いて、利益が出る事を見込んで投資をすると決めたのは、カイを始めとした投資した者達だ。

 投資自体に違法性はないし、小さく利益を出している人間は確かにいる。

 ギブソンはその投資金額の一部を仲介料として貰っているそうだが、それも契約書に組み込まれている内容だ。

 だからそれ自体は罪ではない。


 だが、彼の口車に乗って投資をしたと言われている者達の多くは、お金をつぎ込み過ぎて破産している。

 小さな成功体験を積み重ねて自信をつけさせ、リスクの大きい投資をさせるという手口らしい。

 ギブソン本人は紹介しただけ。投資をした者は自分で選択して、その結果失敗しただけ。

 そういう流れだ。お金を騙し取ってやろうという明確な悪意が証拠として残っていれば別だが、ただ紹介しただけでは罪に問いにくい。

 まぁ、証拠は残っていなくても、そういう意図自体はあるだろうというのはマルタにも容易に想像が出来た。


「いくら領主殺害未遂と関係している可能性が浮上しても、それだけじゃ、メイナード領の貴族を尋問出来ないじゃない?」

「それこそ、はっきりとした証拠がないですもんねぇ」

「そうそう。だけど、あまりに貴族が騙されるから、国もギブソンの事を注視しているんだよ」

「貴族ってそんなに抜けていましたっけ」

「人間だからねぇ。……あとは、まぁ、狙う対象がカイ叔父さんみたいな奴ばっかりでさ」

「あー……」


 マルタは納得した。

 つまり、あまり人間関係が上手く行っていなくて、お金に執着心の強い貴族、という事だ。

 性格や言動で人から距離を置かれるタイプの人間は、他人からあまり心配をされない。されても聞かない、聞く気が無い。

 だから騙す相手としては都合が良かったのだろう。


「陛下も気にされていたし、上手く行けば今回の件で尻尾を掴めると思ったんだ。それに……」

「それに?」

「困った事があったら、いつでも相談してくれって言われている」


 おや、とマルタは目を瞬く。


「そう言えばダグとの結婚の打診も、陛下からでしたね」

「そうそう。陛下が考えて行動して下さったんだ。……陛下と俺の親父が親友でさ」


 ダグはそう教えてくれた。そうなのかとマルタは少し驚いて、それから納得した。

 辺境という大事な領地を守るために必要だったという面以外にも、親友の子供の力になってやりたいと思っての事だったのだろう。

 仲が良くて素敵だなぁなんて思いながら、マルタは改めてダグの顔を見た。

 彼の姿は未だガイコツだ。

 これがラズの天恵(ギフト)によるものだというのは分かったが、それでも事件が解決するまではこの姿でいた方が良い、という判断によるものだ。

 全部が解決したらラズと、それからミゲルにも天恵(ギフト)を解いて貰う事になっている。

 それまでは現状維持である。そんなわけでミゲルも牢で捕らえたままだ。一応は話せる範囲の情報を伝えてはあるとダグは言っていたが。


「だから今回は頼ってみようと思う。……ラズ兄に言っておいて、自分はどうなんだろうとも思ったしさ」

「そっかぁ……。うん、そうですね、私も良いと思いますよ」

「良かった。それにさ、陛下を巻き込んでその前で何かやらかせば、言い逃れは出来ないでしょ?」

「あら、悪い顔」

「こういう顔の俺もどう?」

「格好良いと思いますよ。私は好きです」


 話しながら、ちょっと意地の悪い表情を浮かべて見せたダグに、マルタはそう笑って返す。

 色んな表情を見られるのは、新鮮で良いなぁなんてマルタは思う。

 そうしているとダグが、何かを言いたそうに視線を彷徨わせた。


「……あのさ、マルタ」

「はいはい、何でしょう?」

「その……俺、さぁ」

「はい」

「その……えっと……ガッカリさせたらごめんな」

「え?」


 言い辛そうなダグに、マルタは目を瞬いた。

 何をガッカリするのだろうかとマルタが首を傾げると、


「……元の姿」


 とダグは呟くように言った。

 ますます分からなくて、マルタはより深く首を傾げる。


「ダグの元の姿は見た事がありますし、骨に肉がつくだけなのでガッカリとかは特にしないと思いますよ」

「言い方ぁ……」

「あ、でも、髭とか髪は伸びていそうですねぇ。それはそれで新鮮かもしれません」

「……マルタは本当に、俺がガイコツでも気にしなかったんだなぁ」


 ごくごく普通に答えていると、ダグはしみじみと言った。それから脱力したように背もたれに寄り掛かる。


「ダグもそういう事、気にするんですねぇ」

「そりゃあするさ。だって、好きな子に嫌われたくないし」

「すっ」


 目を見て好きな子と言われてマルタは一瞬で顔が真っ赤になった。

 するとダグが噴き出すように笑った。


「なのに何でこっちは反応するんだろうなぁ」


 あっはっは、と笑うダグに、口を尖らせる。


「だって! 私だって、好きな人から好きな子なんて言われたら照れますよ」

「すっ」


 すると今度はダグが固まった。白い骨の顔が赤く染まる。

 彼はそのまま指で頬をかくと「そ、そっか……」と呟いた。

 そのまま二人揃ってもじもじと、お互いを見つめ合う。


「……色々解決して、外に出られるようになったらさ。俺、マルタに見せてあげたい場所がたくさんあるんだ」


 だから、とダグは手を伸ばす。

 その手をマルタは握る。テーブルの上でお互いの手が繋がる。

 ぎゅ、と少し力を込められて、そこからダグの熱がより伝わって来た。


「マルタ、一緒に行ってくれる?」


 真っ直ぐに向けられた視線に、言葉に、マルタの答えは一つだけだ。


「もちろんです、ダグ。楽しみで眠れなさそうです、どうしましょう」

「そこは寝よう」

「頑張ります」


 満面の笑顔で頷いた後、マルタはちょっとだけおどけた調子でそう返す。

 するとダグも破顔した。くすくすと揃って笑っていると、部屋の時計がボーン、と「本当にそういう時間だよ」と告げるように、音を鳴らした。


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