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♯14 ベルタの所業


 プライドというものがある。

 大きいとか、小さいとか、他人はそれ(・・)を勝手に評価するけれど、どう違うのかマルタにはよく分からない。

 それ(・・)がどう大事なのかは、その人にしか理解出来ないからだ。


 マルタにだってプライドはある。

 家族を大切に想う気持ちと、大好きな本を大好きだと感じる気持ちだ。

 どちらもマルタを形作ってくれた大事なものだ。


 その二つを馬鹿にされたら。蔑ろにされたら。傷つけられたら。

 マルタはきっと怒るだろう。

 だから。

 たぶん。

 家族を大事に想う人が他人から「何でそんな馬鹿な事を」と言われるような事をやる時は、そういう時なんじゃないかとマルタは思うのだ。




◇ ◇ ◇




 ラズとエトナ、それからエリーザがリブロ辺境伯邸へやって来て三日経った。

 毎日、ペトラが診察をしてくれている事もあって、エトナは体調こそまだ優れないものの、顔色の悪さは多少マシになっていた。


「マルタ様、マルタ様! エトナ様、料理長お手製の薬膳スープを全部飲んでくれました!」

「マルタ様、マルタ様! 料理長が味見をさせてくれました! 美味しいけど、不思議な風味がしたんです!」


 なんて双子のメイド達がその都度報告をしてくれる。

 彼女達を始めとした屋敷の使用人達もエトナを心配しているようで、何か出来ないかと考えてくれているようだ。

 付き合いの長さが感じられるなぁなんて、マルタはほのぼのとした気持ちで思っていた。


 そんな中、ダグからベルタを捕らえたとの連絡が来た。

 ダグの執務室へ行くと、そこにはダグ以外に執事のロベルトとラズの姿がある。

 ロベルトはいつも通りだが、ラズはあまり元気が無い。と言うより、ペトラの話を聞いてから彼はずっとこうだ。何かを考えているように、口数が減っている。

 ただショックを受けた――だけではこうはいかないだろう。


(ダグの件、やっぱり関係しているのかしら)


 そう考えながらマルタは部屋へ入る。ダグが軽く手を挙げてマルタを迎え入れた。


「ダグ、ベルタ医師を捕まえたと聞きました。どうでした?」

「ああ、真っ黒だったよ。彼女、自分の患者に妖精薬(フェアリー・ドーン)を飲ませていた。魔水晶を作るためだそうだ」

「最低ですね……。魔水晶は売るためですか?」

「そうらしい。魔力濃度……が高いと値が張るからね」


 魔力濃度、というところでダグは一瞬言い淀んだ。ラズを気遣っての事だろう。

 人の身体で魔水晶を作るという話は、ペトラから聞いて初めて知った。

 だが魔水晶についてはそれなりに知っている。

 魔力の不純物として生まれる魔水晶には濃い魔力が籠っているが、その魔力の濃度は一つ一つ違うのだ。値段はその濃度によって変化する。

 単純な話だが、濃ければ濃いほど魔水晶の価値は上がる。

 つまり妖精薬(フェアリー・ドーン)で苦痛を減らし、限界まで魔力を増加させより濃度の高い魔水晶を作る、という言うのがあの薬の目的のようだ。


 ただ、魔水晶が成長すると、薬では押えられないくらいの痛みが起こる。そこで怪しまれてしまえば終わりだ。

 だからこそベルタは自分の患者を利用した。

 そこまで魔水晶が成長すれば、その人物はもう助かる見込みはない。

 苦しみ始めた時に手術が必要だと伝え、こっそりと魔水晶を取り出せば、あとは患者は死ぬだけだ。

 死人に口無し、とはよく言ったものである。


「ロベルトが調査してくれたんだけど、今までは身寄りのない子供や、助かる見込みのない病人を狙ってやっていたらしい。治療費も格安でな」

「はい。そして出来るだけ人と関りが少ない人間を狙ってもいましたね。だから話が広がりにくかったのでしょう」


 ダグとロベルトが神妙な顔でそう教えてくれた。

 本当に最低だとマルタは思った。


「元々主治医だったアレックス先生と言う方は」

「……ベルタによって薬を盛られていた。訪ねた時は寝たきりで意識も朦朧としていたけれど、ペトラ先生が処置してくれて何とか無事だったよ」

「なるほど……高齢で引退したというのは、そういう理由だったのですね」


 何から何まで非道である。マルタの中にふつふつと、怒りがこみ上げて来た。

 横っ面を一発二発ぶん殴ってやるくらい良いのではないか。そんな物騒な事をマルタが考えていると、


「だけど疑問がある。ベルタが何故、エトナを選んだかだ」


 とダグは言った。


「貴族相手に行うのは、さすがにリスキーですよね」

「うん。今までと同じようにはいかないだろう。そんな事を思いつかない程、馬鹿ではないだろうし……」


 そう言いながらダグはラズの方へ視線を向けた。自然とマルタとロベルトもつられるようにそちらを見る。

 ラズの顔色は悪かったが、ダグの視線を受けて軽く頷いた。


「イェルクを通して、父から話が行った――のだと思う。身体の弱い娘がいると」


 とても暗い声でラズはそう話す。


「理由はお金……ですか?」

「昔から、あいつはそういう人間だから。何割かキックバックを貰う予定ったのだと思う。それに……多分、目的はそれだけじゃない」


 ラズは目を伏せる。それから少しの間を開けて、彼は顔を上げた。


「――――あいつは俺を、ここの領主にしようとしているんだ」


 そしてそう続けた。


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