空想擬似体験缶詰※コーヒー味
小説家になろうラジオ大賞4 参加作品
テーマは「缶コーヒー」
職場近くの雑居ビル、その3階にある自販機。噂ではそこで買った飲料缶を飲むと、それにちなんだ模擬体験が出来るらしい。
そして今日ついに、同僚の2人に誘われ、俺達は昼休みに向かうことになった。
「でさ、ミルクティー飲んだ奴は、牧場で牛の乳搾りする擬似体験をしたってよ」
「お茶を飲んだ奴なんか、寺で正座させられて坊主の立てたお茶を飲まされたってさ」
「なんだそれ、最悪じゃねーか」
俺はそんな噂は信じなかったが、この2人に連れられて、仕方なくついて来た。
そんなことは起こるはずもない。仮に本当だったとしても、そんな擬似体験をして何の得になるのだ?
「俺は甘酸っぱい青春を体験したいから、炭酸レモンを飲むぜ」
「俺はスポーツ飲料! 高校の水泳部で水着姿の彼女とイチャつく体験を!」
こいつらは、そんな妄想を恥ずかしげもなく語る。
「俺は……コーヒーでいいや」
「なるほど、ビターでスイートな青春時代を思い返したいのか」
別にそんな深い理由はない。
どうせ金を出して飲むなら、普通の砂糖ミルク入りコーヒーを飲みたいだけだ。
そして問題の、いたって普通の自販機の前に辿り着く。俺達はそれぞれ決めた物を購入する。
「準備はいいか? 」
全員同時にタブを折り、缶を開けた。
と、その瞬間、
俺は実家のダイニングにいた。
キッチンでは料理をする女性が。
その後ろ姿には見覚えがあった。
少し大人になった幼馴染みの夏美だった。
就職のために地元を離れた時に、置き去りにしてしまった彼女……
「あっ、おはようー」
「あ……ぁ、おはよぅ……」
「朝ご飯できたよ」
そう言って持ってきた皿の上には、目玉焼きと、ハムとウィンナー。
どれもすっかり焦げて黒くなっている。
「苦っ、相変わらず料理は下手くそだな」
「えー これでも少しは上手くなったんだよ」
拗ねたように口を尖らしながら、今度はコーヒーを持ってきてくれる。
「はい、どうぞ」
「……甘い、相変わらず甘党だよな」
「だって、コーヒーって苦いじゃん」
そう言って子どものように笑う。
あぁ
なんだか
懐かしい
香りと
味がする……
「おい!」
同僚の声で我に返る。
「大丈夫か? だいぶのめり込んでたみたいだぞ?」
そうか、今のは現実ではなかったのか……
「どうだった? 俺はさー 甘酸っぱい青春を期待したのに……」
「わるい、ちょっと電話してくる」
「あ? どこ行くんだよ?」
俺は急いで1人になると、電話をかけた。
「もしもし、夏美? 久しぶり。今、電話大丈夫? あのさ……」