解印される
今から30年前の西暦1988年、最強の吸血鬼と呼ばれる青年リーフブラック・ウィンウッドは、ドイツから日本へ渡来し高層ビルの屋上から街を眺めていた。
「都会とはいえ、こんな極東の地で暮らしてるなんて。ロベリオの奴どういう神経してんだか?」
ロベリオというのはリーフブラックの友にして喰屍鬼の青年。
東都というこの場所を拠点に活動しているらしく、彼に逢うために遠路遥々訪れた訳だ。
「待ち合わせ場所は合ってるな。そろそろ来るハズだが…………」
屋上でロベリオを待ち続けていると、上にジャージを着て下はジーパンを穿いた格好の金髪男性が、彼の目の前に現れる。
「遅かったな。ロベリオ」
「悪ィ悪ィ、遅くなって」
「随分とラフな格好だな」
「この方が動きやすいんだよ。そう言うお前は動きにくいんじゃね?」
そう言いながら彼の服を指差すロベリオ。
確かに上下黒のスーツという格好なので、慣れていないと動きにくそうである。
「ま、いいか。それより、リーフに紹介したい吸血鬼がいんだよ。着いてきて」
「は?聞いてねぇぞ、そんな話……って、オイッ!!」
彼の声を無視して勝手に案内を始めるロベリオ。
歩き続けること数時間後、人目の無い町外れにある廃教会に辿り着く。
「なんだ、こんなボロい教会なんかに連れてきて」
「まあまあ。ディルッ!!いるかッ!?ダチ連れてきたぜッ!!」
教会に向かって大声を出し名前を呼ぶロベリオ。
すると中から、銀髪を三つ編みにしたカソック姿の男性が現れる。
「こんばんは、そして初めまして。ロベリオ、友達を連れてきたんだね。ようこそ、『改心草食教』へ」
「オイ、ロベリオ。『改心草食教』って……オレに何させる気だ?」
「ーー、フッ。頑張れ」
「あ”ッ!?テメェッ!!」
ロベリオの言動にキレた彼は殴りかかろうとするが、その手をディルフィニウムに押さえ付けられてしまう。
「いくら君が最強とはいえ、相手に乱暴はよくない。あ、そうだ。君さえよければ、『改心草食教』に入信しない?」
「はぁッ!?何言ってんのオマエッ!?頭大丈夫?」
「僕は真面目に君を勧誘してるんだよ」
「悪いけど、オレは興味ねぇよ」
そう言うと廃教会から出ていこうとするリーフブラック。
するとディルフィニウムは彼に近付き、口の中へ飴玉を放り込む。
突然の出来事に彼は、愕然とするも既に飴玉を飲み込んでしまう。
すると突然彼の様子が急変し、ぼんやりした表情でディルフィニウムの方を見る。
「あれ?私はいったい?何して…………あ、先生。こんばんは」
「こんばんは、黒葉。それよりもまず着替えようか。教会に黒いセーラー服があるんだけど、着てくれるかい?」
「勿論です。私は先生の信者ですから」
そう言うと自から廃教会の中へと入っていくリーフブラック。
その様子を見たロベリオは、ディルフィニウムに対して口元をニヤつかせる。
「アンタ、おもしれー能力だな」
「僕の能力は『精神操作』で、主に記憶捏造と依存中毒を使うからね」
「成る程。リーフが物理最強の吸血鬼なら、アンタは精神最強の吸血鬼か」
「安心しなさい。彼を僕に依存させることはしないよ。『可愛さあまって憎さ百倍』タイプな気がするしね」
ディルフィニウムの説明を聞いて納得するロベリオ。
すると彼は赤いラインが入った上下黒のセーラー服に白いスカーフを付けながら、二人の元へ現れる。
「あの、先生。いかがでしょうか?」
「素晴らしいッ!!よく似合ってますよ。流石、僕の黒葉ですね」
「ありがとうございます。でも、なんだか違和感が……股下がスースーする」
「すぐ馴れるから大丈夫ですよ。それと黒葉、人間の血は僕が許可するまで禁止ですよ」
「承知しました」
こうしてディルフィニウムの手により、リーフブラックは黒葉へと変わったのである。
「ようやっと許可したとはいえ、これは危険だね。ミワ」
「いや、そんな昔話聞かされても。てかそれ、洗脳じゃね?」
「そうとも言うね」
「そうしか言わねぇッ!!」
ディルフィニウムの回想が終わり、色々とおかしいため彼にツッコミを入れる武兵。
黒葉はというと完全にリーフブラックの頃に戻っており、ディルフィニウムを睨み付ける。
「久しいな、ディルッ!!よくもオレを洗脳しやがったなッ!!おまけにセーラー女装までさせやがってッ!!」
「ありゃありゃ、完全に全盛期のリーフブラックだね。でも君、ミワのこと好きなんでしょう?」
「あ”ッ!?それがどうした?」
「好きなら彼に、ちゃんと告白しないとね」
ディルフィニウムに言われ、一理あると思ったのか急に静かになる黒葉。
武兵はというと黒葉の方を見て覚悟を決める。
「黒葉さん。俺は、どんな黒葉さんでも受け入れるよ。だってどっちも黒葉さんだから」
「ーー、フッ。オマエ、おもしれーヤツだな。気に入ったから、オレと同族にならねぇか?」
彼から発せられる予想外の言葉に唖然とし、武兵は開いた口が塞がらなかった。