騙されやすい女の子の話
「先輩! 私先輩の事が好きです! 付き合ってください!」
「……何?」
男の眼鏡がキラリと光る。
告白してきた女のゆるくウェーブのかかった髪を、さらりと掬い上げた。
「それは俺の女になりたいという事か?」
「ぴっ!?」
吐息がかかる程顔を近づけられ、女は慌てて二歩下がる。
「あ、あの、ち、違くて、その……、そう! エイプリル・フールです! 引っかかりましたね先輩!」
「嘘だったのか?」
「そうですよー! どうですかー? いつもポンコツだのお間抜けだの言ってくれちゃってる女の子に騙された気分は!」
勝ち誇る女に、男は大きな溜息を吐いた。
「……ここまで間抜けだったとは……」
「な! どこが間抜けですかー! あ! わかっちゃいました! 負け惜しみってやつですねー!?」
「エイプリル・フールに恋愛に関する嘘をついてはいけないという法律を知らないとは……」
「えっ!? ほ、法律……!?」
男の言葉に青ざめる女。
眉をしかめた男は、さらに言葉を続ける。
「知らなかったのか。全くお前という奴は……。エイプリル・フールだからといって告白して取り消し放題となったら、結婚詐欺が横行する日になってしまう」
「た、確かに!」
「故に二年前の国会で法案が通り、今日から施行されている。この事がバレたら一年以下の禁錮または十万円以下の罰金だ」
「ど、どうしましょう先輩! 私前科持ちに……!?」
真っ青な顔をした女の頭に、男が優しく手を乗せた。
優しさを感じた女の目に、男の張り付けたような笑みが映る。
「簡単だ。俺と付き合え」
「えー!? な、何でですか!?」
「俺とお前が付き合えば、告白は嘘ではなくなる。簡単な事だろう」
「あ、そ、そうですね……。で、でも……」
「前科持ちと彼氏持ち、どっちになりたいんだ?」
「か、彼氏持ちで!」
「よし。じゃあ次の日曜日にデートに行くぞ」
「は、はい……」
「時間と場所は後で連絡する」
「は、はーい! よろしくお願いします!」
何やら楽しそうに手を振る女の声を背中で感じながら、男は溜息をついた。
(下手な嘘だからカウンターでからかうつもりが、あそこまで真に受けるとは……。いい機会だ。付き合うふりして色々教えてやらないとな……)