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第9話 絆

 ドオオオオオオンッ‼


 最悪なことに、再び爆発の音が響いた。

 窓から差し込む、まばゆい光を閉じた瞼の上から感じる。

 強制的に目を覚まさせられる。


「な、何だ⁉」


 王様に用意された荘厳な装飾がいたるところに施された個室。その天涯付きのベッドで気持ちよく寝ていた俺は体を起こして窓の外を見る。

 煙が上がっていた。

 だが、地面からもくもくと上がっているものではない。空中に気球のような形を作って制止している、雲のような煙だった。

 花火大会に行ったときに、一番派手で大きな花火が上がった後、あんな煙が浮かんでいた。

 窓を開けると焦げ臭いにおいが一気に部屋に入ってくる。


「また敵が来たのか⁉」

「お~い、りゅーとぉ!」


 下から声が聞こえて視線を落とす。

 この世界で俺をそんな呼称で呼ぶのは一人しかいない。

 日向立花だ。彼女の手は薄く光り、満面の笑みを浮かべてこちらに手を振っている。


「……今のは、お前がやったのか?」

「そう、凄いでしょ⁉ 花火よ花火! 何にもないところで爆発を起こしたの」


 キャッキャッと飛び上がりながら、褒めて褒めてと言わんばかりに頭を突き出す立

花。

 こちらは三階の一室。手なんか届くわけがない。だが、彼女は無邪気に早く撫でろと言わんばかりに目を閉じて頭を突き出している。

 子供の頃、よく見た姿だ。


「魔法を試してみたの! 私も使えるの! 漢字(・・)が違うけど……多分炎の魔法よ! ゲームでいうベギラマ的な!」


 はしゃいでいる。

 のんきなことを言っているが、あいつなりに自分にできることを試した結果のようで、責め立てる勇気はなかった。この状況で、何もわからないまま「無暗に魔法を使うな」とか「周りの迷惑も考えずに炎なんて使うな」なんて言って無駄に立花の機嫌を損ねるのは、生き残るためという面から考えれば、圧倒的下策……。


「そうか……とりあえず、下に降りるから」

「うん! 待ってる!」


 こみ上げる嫌悪感に蓋をして、立花の話を聞くことにした。


         ×         ×          ×


 庭園に降りるとまだ立花ははしゃいだ様子だった。ぴょんぴょんと芝生の上を跳ねて、両こぶしを胸の前に、そしてニコニコと笑っている。


「随分と嬉しそうだなぁ」

「それはそうよ! だって魔法が使えたんだもの! あぁ……早く『邪神』が来ないかなぁ」

「『邪神』が来るのを待っているのか?」


 王様の情報が正しければ、あと二日で来る予定になっている。


「りゅーと。昔一緒にゲームやったよね。それで覚えてない? ボスを倒していく勇者はボスを倒していくにつれてみんなから称賛されるの。ちやほやされるの。私はそれが楽しみでたまらない」

「お前、自分一人の力で勝てるつもりなのか?」

「どういう意味よ。それ」

「初めて魔法が使えてはしゃいでいるみたいだけど……『神器』の力がなければ『邪神』の相手は務まらない……って話だろ? そして、お前は『神器』を使えることは決して、ない」


 睨みつける。語気に怒りを込めた。つもりだった。


「ふ~ん……」


 だが、立花は平然と、笑みを浮かべている。


「じゃあ、どうするの?」

「どうするの……って?」

「最初の『邪神』と戦う時、誰と組んで、誰の『神器』として戦うつもりなの?」

「それは……」


 つい、視線を足元に落として、しまった。

 その隙を見逃す立花ではなかった。


白百合しらゆりさんは……無理だと思うな」

「どうして、そこで七海の名前が出てくる?」

「付き合ってる……付き合ってたんでしょう? でも、もう別れちゃった。決まづくなってるんだよね?」

「誰のせいだと……思っている!」


 拳を握り、かざす。

 このままぶん殴ってしまおうか……別にこいつ相手ならいいような気がする。


「感謝を、してほしいな。りゅーとには」

「は?」

「私のおかげで、白百合さんも、りゅーとも解放されたんだから、バカバカしいれんあいごっこに」

「この!」


 頭に血が上り、拳を立花めがけて振り下ろす。


「…………ッ!」

「……殴らないの、かな?」


 俺の拳は、立花の頬の寸前で止まっていた。

 ぎりぎりの理性で立花と言えども女の子を殴ることなく済んだ。


「殴りたいさ。だけど……お前を殴ったって……過去は変えられないし、あいつが傷つけられた事実は取り返しようがない! それだけのことを……!」

「だからぁ、それをしてあげたことに感謝して欲しいなって言ってるの。傷つき傷つかれは、恋愛にはつきものじゃない?」

「それを赤の他人のお前が与えていいものじゃあない!」


 ピクリと立花の眉が動いた。

 余裕ではない、怒りだ。こちらをからかう仮面が、始めて外れた。


「何よ、私が証明してあげたんじゃない。傷つけられてすぐに別れるようなカップルなんて、間に本当の愛なんてない! 本当の愛があれば、あなたたちは別れなかった!」


 怒りを込めた瞳で、俺を睨みつけながら、立花は一歩踏み出す。

 十センチにも満たない距離に、燃えるような怒りを宿した立花の瞳がある。


「本当の愛、なんて似合わない言葉を出すじゃないか。お前だって知らないくせに」

「知らないわ。だから、探しているの。本当の愛がこの世界にあるのか」


 立花は目を、逸らさなかった。


「本気で言っているのか?」

「本気よ」

「じゃあ、あの……お前が命令して、九鬼たちがやったことも、そうだっていうのか? 本当の愛があるのかどうか確かめるための」

「そうよ」

「ふざけるな!」


 立花の体を付き飛ばそうと、彼女の肩に触れた。

 その時だった。


「————なっ!」


 俺の体が突然発光し始めた。

 そして、右腕が鋭く鋭利な銀色の何かに変質しつつあった。

 立花も流石に予想外だったようで、眼を見開いている。


「もしかして、これって……」

「神器化……⁉」


 『神証』がある男は、『姫騎士』と真の絆を紡がなければ、なれないはずなんじゃ……それこそ、あの水晶に映った男女のように……。


「———ッ!」


 飛びのくように立花から距離を取る。

 手が立花の体から離れると、体の発光も消え、金属に変質しようとしていた右腕が元に戻る。

 くるくると手を回転させ、腕を念入りに触って確かめる。どこにも異常はない……今は。だが、さっきは燃えるように熱かったし、手の感覚がじわじわと失われていっていた。


「ねぇ……今のって……」

「違う!」


 焦点の合っていない目で、立花は茫然と呟く。

「そんなわけないだろう!」


 そして、俺は逃げるようにその場を去った。


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