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第8話 襲撃

 騒がしい城内を駆け、爆音の聞こえた方角へ記憶を辿りに犬子と共に向かった。


「何だこれ……?」


 城の西側の通路だった。

 壁に巨大な風穴が空き、そこから()がなだれ込んでいた。


「おいおいマジかよ。本物じゃねえか」


 化けモンスターだった。


「フゴッ、フゴッ、フゴッ……‼」


 興奮して鼻を鳴らしながら城内に侵入してくる緑色の小人———、


「ゴブリンってやつか……?」


 長い鼻に黄色く光る瞳。よだれを垂らしている牙の生えた凶悪な口元はとても意志の疎通が取れるようには見えない。

 ゴブリンはゆうに二十体以上はいた。

 皆武装しており、容赦なく衛兵たちにこん棒や矢を打ち込んでいる。


「ぎゃあああああ‼」


 場内の衛兵たちの悲鳴が上がる。

 必死に侵入してきた化けモンスターを迎撃しているが、全く勝負になっていない。数は人間の兵士たちの方が少ない。十名ほど。だが、全身を鎧で固め、リーチがこん棒よりも長いロングソードで武装しているのに、ゴブリン相手に全く歯が立っていない。

 それだけ、数の暴力というものは強烈だった。

 必死になって一体のゴブリンを倒しても、その後ろからわらわらと四、五体のゴブリンに向かってこられたら、単純に手が足りない。攻撃を受けきれない。

 鉄でできた兜をガンガンと木のこん棒で乱暴に滅多打ちにされ、凹んで、やがて、その兵士は動かなくなる。


「どうしてこんなことになってんだ……?」

「…………ッ!」


 困惑することしかできなかった俺をしり目に、犬子は行動していた。

 矢のように飛び、拳をゴブリンの一体に叩きこんだ。


「ウラァッッ‼」


 思わず「やめとけよ詰草!」と手遅れな声を上げてしまった。

 ゴブリンへ早速拳をぶち込んだ犬子だが、無謀すぎる。

 城の訓練した兵士でも敵わない相手に素手で立ち向かう。それも数が圧倒的に多い。

 最近のハードなファンタジーものでよく見る展開になりそうな予感しかしない。


「くそッ!」


 犬子を助けようと思って、俺も駆け出した。

 ちょっとでも考えると、普通の、最適な判断が頭をよぎりそうだったので、何も考えずに助けに走った。


「グヒヒヒ……!」

「あ⁉」


 案の定、犬子の拳はゴブリンに効いていない。

 殴られ、頬に突き刺さっている拳をそのままにゴブリンはにやりと笑い、長い舌でぺろりと、犬子の拳を舐めた。


「ヒィッ……!」

「詰草!」


 初めて犬子の悲鳴を聞いたかもしれない。


「ガアアアアアア!」


 犬子めがけて一斉に十体近くのゴブリンが飛び掛かった。

 体重任せに犬子の体を押し倒し、手足を拘束する。


「え」


 地面に大の字で拘束された犬子がポカンとした表情を浮かべている。殺されると思っていた。だが、違った。なぜ拘束されているのかわからない。そう表情が言っていた。


「グッヘッヘ……」


 長い爪の人差し指。

 まるで細いナイフのようなゴブリンの指が犬子の胸元へ伸び、ツーッと服を切裂いた。

 ボロン、と大きな乳房がこぼれた。


「キャ、キャアアアアアアアアア!」

「グヘ、グヘ、グヘへへへへへへ‼」


 ゴブリンの不愉快な高笑い。

 犬子を拘束しているゴブリンの集団まで、俺はあと一メートルほどの距離まで接近していた。


「やめ、」


 拳を握りしめ、犬子を助けようとした。

 その時だった————。


 バチィィィィィィィィッッッ———‼‼


 閃光。

 そして、天へと上る雷————、


「ふっざけんじゃあ、ねぇぞおおおおおおおお‼」


 犬子が、吠えた。


「ブヒィィィィィィィ‼」


 稲妻にゴブリンたちは貫かれ、吹き飛ぶ。黒焦げになったその体を壁に叩きつけられ、動かなくなる。


「てっめぇら……こっちがおとなしくしてたら好き勝手やりやがってッ……‼」


 全身から稲妻を迸らせた犬子が、乳を丸出しにして怒り狂う。


「てめえら全員! 丸焼きだぁぁぁーーーーーーー‼」


 拳を突き出す。


 ドォォォォン————‼


 落雷が、横に走った———。

 犬子の拳から放出された、地面と平行に走る落雷。それは、竜のようにうねり、ゴブリンたちを飲み込んだ。

 悲鳴も、上がらなかった———。

 犬子の放った雷は生き物ようにゴブリンたちを追尾し、城に侵入してきた者たちをすべて焼き殺した。

 一瞬で————、


「あ、終わり……?」


 ピンチかと思ったら、もう終わってしまった。

 犬子の操る雷属性魔法は、凄まじいとしか言いようがない威力だった。


「最強雷魔法【ゴッドライトニング】。無詠唱でそこまでの威力とは、流石は『姫騎士』」


 低い声が聞こえたと思ったら、通路の奥から拍手をしながら現れるハンマ国王。


「詠唱を加えれば、この城が一瞬で消滅する威力になったであろう。『姫騎士』———犬子殿はそこまで考えて下さった。皆の者、感謝を」


 生き残っていた衛兵に向かって言う。


「流石は『姫騎士』様です!」

「素晴らしい。我らの救世主!」

「感謝いたします! 『姫騎士』様ァ!」


 口々に衛兵たちが犬子を褒めたたえる。

 「『姫騎士』様!」「『姫騎士』様!」の掛け声とともに拳を天へ突き出し、犬子を称賛する。讃えられるという行為になれていない犬子は照れ、後頭部へ手をやり、手を振り返している。


「どうも~、どうも~」

「おい、詰草」


 その脇を小突くと不機嫌そうに睨みつけられた。


「何だよ! いいとこなのに」

「今のどうやった?」

「は? 今聞くことか?」

「魔法を使いたてホヤホヤの今。聞いておきたい。魔法を使うという感覚を共有して、他の『姫騎士』が魔法を使える状態にしておきたい」

「あ? 何だか細かいこと気にしてんなぁ。イメージだよ。イメージ。あと気合」

「雷が走るイメージをしたのか?」

「そこまではしてねぇけど……いや、したかな……あいつら全員ぶっ倒してやるって思ったとき、なんだか、あの……でっけえカミナリのイメージが頭に浮かんだかもしれない……まぁようは気合いだよ」


 パシッと、いきなり犬子が俺の手を取った。


「……なんのつもりだ?」

「………フン~~~~~~!」


 目をぎゅっとつむって気合を入れているような掛け声。


「……うんこでも我慢してんのか?」


 ボカッ!


 目にもとまらぬ速さで頭を殴られた。


「違うわアホ! 気合入れたらあんたを『神器』ってやつにできんじゃないかって思っただけだよ。気合入れて魔法使えたんだから、できっかなって。まぁ、あのモンスターを倒した感じ。あんたが『神器』になんなくても、あたし一人で『邪神』ってやつに勝てるかもしんないけどな」


 手を放して、お気楽な顔で衛兵たちに手を振り返す犬子の横顔を見つめる。

 こいつなりに、これからのことを考えてはいるんだ……多分みんなのことも。

 少し感心しかけたが、後頭部にジンジンと張り付いたような痛みが、そのポジティブな感情を打ち消した。

 ツッコミならもう少し手加減をして欲しかった。


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