第7話 闇の中
遠方からの爆発音に、みんなは悲鳴を上げた。
「きゃあ————‼」
「今の、何ッ⁉」
部屋の灯がない、暗い状態。窓から差し込む月明かりで辛うじて人影はわかる。
「灯が消えたけど、どうしてだ? 電気じゃないよな」
客間には灯篭のようなものが部屋の壁に備え付けられていた。そこに火を灯していたのだと思っていたのだが、一斉に消えるとなるとおかしい。
灯篭に駆けよる人影が見える。
その影は手で表面をなぞり、首を振った後、
「燃えてない、だけど、温かい……電気じゃないけど、何か特別な力で明かりがついていたみたいだ」
彼方の声だ。
先陣を切って部屋の照明の仕組みを調べてくれていた。
「電気はないだろうし? 魔法でついてたってことか?」
「さぁ? だけど、衝撃で一斉に消えたってことは電線みたいな線を使ってエネルギーを供給してたんだろう。それがこちらの世界では魔力ってやつなのかもな」
「何のんきに分析してんのよ! 完全に異常事態でしょうが!」
混乱した岬に袖を引かれる。
「慌てたってしょうがないだろ? 実際何が起きてるのかわからないし」
「さっきの爆発でしょ? 事故?」
「『邪神』……かもな」
ぼそりと、不良男子槍ヶ岳進が呟いた。先ほどまで黙っていたくせに、楽し気に「くくく」と笑っている。
「『邪神』? そんなわけないじゃない。王様は『邪神』が来る時期は決まっているって言ってたわ。来るのは三日後だって、私たちの前で言ってたじゃない」
他のクラスメイト達が現実世界に帰ったのを見送った後、ハンマ国王ははっきりと「『邪神』が来るのは三日後である。それまで絆を深め、戦いに備えよ!」と宣言した。
「もう来たってことさ。王様の言葉が間違っている可能性だってあるだろ?」
「そんな……」
無駄に混乱させる槍ヶ岳。
状況もわからない、部屋にはその状況を更に引っ掻き回そうとするやつがいる。苛立ちが募り外に出ようとする。
「りゅーと。どこ行くの?」
よりにもよって、立花が呼び止めた。
「何があったのか、見に行くんだよ。ここは異世界なんだから……何が起きるかわからないだろ。槍ヶ岳のいう通り、『邪神』が来たのかもしれないし」
「危なくない?」
「危ないかもしれない。だけど、ここの安全が確保されていない以上、何もわからずにここに居続けるのも危険だと俺は思う。何が起きたのかわかったらすぐに戻ってくる」
「私も行くわ」
「何?」
露骨に顔をしかめたが、立花は涼しい顔をしている。
「単独行動はこういう時には危険。でしょ?」
普通の、過去に何事もなかったかのように笑顔で、頼れる女を演出する立花。
言葉は正論だ。だが、立花と二人っきりで行動したくはなかった。立花が何かを仕掛けてくるかも、とかではない。ただ、生理的嫌悪感がこみ上げてくるのだ。
「なな……岬!」
「え?」
突然、俺に名前を呼ばれて岬が裏返った声を上げる。
「一緒に来てくれ。いざという時、俺を『神器』として扱える人間がいい。多分、付き合いの長い岬だったらできるだろう」
「え、でも……」
「頼む」
「…………」
岬からの返事は鈍い。
馬鹿でもわかる。彼女である七海に遠慮しているのだ。だが、今の俺に七海との間に絆があると断言はできない。もしも、七海が俺を『神器』化できなかった時が———怖い。
「しゃあねぇ、とりあえず俺が行ってやるよ」
犬子に肩をポンと叩かれる。
「いや、お前とは『神器』に……」
「なれなくても、あたしは『姫騎士』ってやつなんだろ? ビリビリの魔法が使えるし、腕っぷしにも自信がある。あたしに任せろって」
自信満々に自らを親指で指す。
正直、すごく頼もしかった。
岬へ視線を送ると、彼女はどうしたらいいかわからないようで俯いている。
「……わかった。頼む」
「おう、まかしとけ!」
小さく、岬の「あ……」という声が聞こえたが、俺は犬子と共に客間を出た。