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第5話 『姫騎士』ではない男子たち

「ハァ……ハァ……! 嫌ッ、いやぁ……ンッ‼」


 夕暮れ差し込む教室。

 嬌声が響く。

 そして、俺が駆けこんだ時には、全てが遅かった。


「あ、いらっしゃ~い」


 机に座った立花が笑いながら手を振る。

 その足元には、


「いや……いやぁ……ンッ、琉人君……見ない、でェ……!」


 乱暴に制服がはだけた七海が横たわっていた。乳房は露出し、下着も破かれている。


「あ、あれ? 上代クン……? 何でここに?」


 男が、七海の秘部に指を差し込んでいた。 

 校則違反のピアスと金髪に髪を染めているチャラ男の九鬼くき義孝よしたかだ。奴の取り巻きもいる。

 一人は自らの竿を七海に握らせ、一人は七海の顔を持ち、股間を近づけている。

 どいつもこいつも、俺がいるのが理解できないとポカンとした顔を向けていた。

 九鬼がポリポリと気まずそうに頬を掻く。


「あ~、上代クンも立花チャンに召集かけられた口? そっか、幼馴染だったっけ二人。上代クンもやらせてあげるなんてマジ立花チャンやさし、ブッエェッッッッッ‼」


 最後まで聞いてられなかった。

 思いっきり九鬼を殴り飛ばし、取り巻きの二人も同様に暴力で七海から遠ざけた。


「大丈夫か、しら、ゆ……」


 七海を抱きかかえようとしたが、彼女はぎゅっと自分の体を抱えて震えていた。

 丸くなり、何も外からの情報を受け付けず、ただ、ただ恐怖が消え去ってくれるのを黙って待とうと、眼をぎゅっと瞑って震えていた。

 制服がボロボロになっていて、背中がそのまま見えている。

 俺は、どう彼女に触れていいのかわからず、手を引っ込めた。


「……ッ! 立花ァッ! テメェッ‼」


 この悲劇の首謀者を振り返り、胸倉を掴み持ち上げる。

 グイっと、つま先立ちになっている立花。首元が締め付けられて苦しいはずなのに、ニヤニヤとした笑みを崩していない。


「どうしてこんなことをした⁉ どうして⁉」

「どうしてこんなことをした? どういうこと? 私はただ見ていただけよ。やったのはあの馬鹿たちでしょ?」

「誤魔化してんじゃねぇ‼」


 怒りに任せてそのまま押し倒す。

 床に立花の背中を叩きつけ、彼女は「グゥ」と一瞬だけうめいたが、それでも笑みを俺に向け続ける。


「白百合が、白百合が何かやったのかよ⁉ 何もやってねぇだろ! あんなにいい子なのに! どうしてこんなひどいことするんだよ……どうして……」


 顔がくしゃっとなった……と思う。

 悲しさが滝のように瞬時に押し寄せて、顔の中心に力がこもった。だけど、涙を流すのは何とかこらえた。


「何も」

「あ?」

「何もやってないから、いじめられんのよ」


 そう答えた立花の顔は、能面のような無表情だった。


               ×      ×      ×


 日向立花は、変わってしまった。

 ある日突然、というわけではない。

 父親が浮気をし、母親が仕事に没頭して家に帰らなくなり、立花自身も家に帰らず、友達の家を泊まり歩いていた。

 そうやっている彼女を、黙って見ていた。

 外見や表向きの態度は全く問題ない。優等生だった。髪も染めないし、制服も改造しない。だから、何も言えなかった。

 ただ、不良の友達は増えていった。

 金髪は当たり前、赤い髪やピンク色の髪の女の子。長身でガタイのいい、明らかに喧嘩慣れしている他校の上級生。そんな人間とばかりいるのを街でよく見かけた。

 それから、立花に関する悪い噂が増えていっていたが、学内での素行が良く、教師には不良たちを更生させるために話しかけていると言いくるめ、彼女の黒い部分は表には出なかった。

 内心、その嘘が本当であってほしいと思っていた。昔の純粋な立花のままだと。

 だが、その期待は最悪の形で裏切られた。


「やってらんねぇよな……ったく」


 ダンッと壁を殴る音で、意識が過去から現在へと呼び戻された。

 詰草つめくさ犬子いぬこが苛立ちを壁にぶつけたのだ。


「犬子ちゃん……そんなイライラしてたら、さっきのバチバチがまた出ちゃうよ」


 獅子田ししだ姫乃ひめの。タレ目が特徴的な、「獅子」という名字に反してのんびりとした性格の犬子の親友が宥める。


「うるっせぇ。結局、あたしらは帰れない。だけど、他の連中は現実に帰ってんじゃねぇか!」


 俺たちは、『世界樹せかいじゅ』の下でクラスメイトの約半分と別れた。

 『姫騎士』に選ばれた女子。そして『神器』の俺と四人の男子がラヴリア王城の応接間に通されている。

 荘厳な飾り付けがされている広い部屋。そこに現在十九人の高校生がいるが、スペースはまだ余っている。

 犬子は苛立たし気にぐるぐるとその場を歩き回った後、男子たちを睨みつけた。


「そんで、テメェらは何で残ってんだよ!」

「お、俺たちは……」


 残っている男子の一人、九鬼くき義孝よしたかが後頭部に手を当てながら答える。


「いや、もったいないな~って思って」

「はぁ?」

「だってそうジャン? 詰草魔法使ったジャン。ていうことはこの世界だと魔法使えるってことジャン? まるでゲームの中の世界ジャン! 憧れるジャン! 早く帰んのもったいないジャン! なぁ!」


 九鬼は親友の狐坂こさか鉄平てっぺいに同意を求める。漢字通りの狐目の細面、狐坂は激しく何度も頷いて全力で九鬼に同意の意を示す。


「それに……ズルいジャン? 上代クンがさ。俺たちが帰っちゃったら上代クン一人だけになるジャン? そんなのハーレムジャン? 上代クンに皆抱かれちゃうんでしょ?」

「は?」


 急に矛先が向けられたと思ったら、ゲスな勘繰りをされ、ぶん殴ってやろうかと思った。


「いやいやチョ、待ってよ! 怖いなぁ~、上代クン。睨まないでよ。上代クンが残った女の子たちを抱くのに反対ってわけじゃないんだから、ただ……その、混ぜてもらえねぇかなぁ~って……ブヘッッッ!」


 バキッッ‼


 犬子が九鬼をぶん殴り、壁際まで飛んでいく。


「最低だなテメェ、チンポでしか物考えてねぇのか?」

「犬子ちゃん……そんな下品な言葉を使わないの」


 顔を赤くしながら姫乃が犬子を窘める。

 犬子はゴミでも見るかのように弧坂に介抱されている九鬼を見下ろした後、視線を残りの二人へ向ける。


「そんで、お前らも異世界生活ってやつを楽しみたいって口か?」

「んなわけないだろ。俺はただ単純に男が琉人一人だけになるんだったら不安だろうと思って残っただけだ」


 残った二人は、俺の親友—つるぎ彼方かなたと、


「フッ……」


 片目を隠した不良の槍ヶやりがたけしんだ。鼻で笑っただけで返答も面倒だと腕を組んで壁にもたれかかっている。

 槍ヶ岳進は九鬼のようなチャラいファッションヤンキーとは違って、親がヤクザと噂されている根っからのワルだ。毎日喧嘩に明け暮れて学校にも滅多に来ない。警察のお世話にも何度かなっている。そんな気合の入った不良なのだが、誰ともつるもうとしない孤高のヤンキーでもあり、陰で槍ヶ岳に憧れている生徒は多い。聞こえ良く言えば古き良き昭和のヤンキーだった。

 そんな昭和の不良が、異世界に残るのは意外だったし、何もしゃべらないから不気味でもあった。

 犬子も槍ヶ岳には強くは出れないようで、「チッ」と舌打ちをするだけで深くは追及せずにソファにドカッと腰を落とした。


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