第1話 異なる世界へ
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よくある話。本当によくある話だ……。
「ここは……?」
ガンガン痛む頭を押さえながら、起き上がる。
上代琉人、16歳、高校二年生の秋。修学旅行のバスに乗っていた。
そのバスが事故にあった。
そして気が付けば全く知らない空間にいた。
暗い。松明がぽつぽつと灯っている神殿のような空間。
足元にはアニメや漫画で見たような円形の魔法陣が描かれている。
「うぅ……」
うめき声が近くで聞こえる。いくつも。「ここはどこだ?」「暗い」「痛い……何があったんだ」と、教室で聞きなれた声。
「よく我が召喚に応じてくれた!『救世主』たちよ!」
祭壇の上に白いローブに身を包んだ、杖を持った中年の男が立っていた。
キノコのような坊ちゃん刈りにちょび髭。首には黄金のネックレスがかかっており、明らかに身分が高い男だ。
「我が名は聖ラヴリア王国―国王ハンマ・ラヴリアである! 『救世主』たちよ! 我らの世界—ミストラルを支える『世界樹』が危機に瀕しておる。お主らにそれを救
ってほしい!」
ハンマ国王が声高に叫ぶ。
俺は、ちらりと横目で真面目そうな眼鏡の少年に視線を送った。
クラス委員長の島田だ。
期待通り、島田は手を挙げて「少しよろしいでしょうか!」と腹からでる良く響く声を発する。
「私たちは修学旅行のバスに乗っておりました! そして足元が突然光ったと思ったらバスは激しく揺れ、気が付いたらこの場所に連れてこられています! それにあなたは召喚とおっしゃいました! 確認ですがここは日本ではないのですか⁉」
「そうである」
「何らかのトリックで我々は誘拐され、あなた方がたちの悪いカルト集団ではないと言う保証は?」
「ここがまだお主らの世界である。そう疑いを持っているのだな?」
ジロリと、ハンマ国王は島田を睨む。
「そ、そうです……」
若干その瞳に圧を感じ、島田は思わずたじろぐ。
「おい……本当だと思うか?」
バスで隣の席に座っていた剣彼方が耳打ちする。
男でありながら長髪の不良少年。切れ長の鋭い目で周りを常に威嚇しているような名前の通り剣のような奴だが不思議と俺とは馬が合い、クラスで一番長くつるんでいる。
ふと周りを見渡し、状況を確認する。
光ノ森第二高校2―A組。全28名の生徒はざっと見た限り全員いる。そして教師の山川の姿、バスの運転手のおじさんの姿も探したが、大人の姿はなかった。祭壇の上のハンマ国王を除いて。
どうやら、俺たち少年少女だけがこの場所に呼び出されたらしい。
「まぁ、いきなり言われて受け入れるのには時間がかかるよな」
「夢じゃないよな? めっちゃ頭痛いし。手が擦り剝けている」
彼方はこっちに来た衝撃で擦りむいたのか、血だらけの掌をこちらに向ける。
俺はハンカチを彼方の掌に巻きつけながら、再び意識をハンマ国王と島田へと向ける。
「……ぁ、ありがとう」
「あのハンマとかいうおっさんの話をよく聞いといたほうがいいぞ、彼方。異世界に来たって言っても。なんか裏がありそうだ」
ハンマ国王は、島田に異世界に来た証拠を見せろと言われてから、ずっと黙っていた。
「……ハンマ、さん? あの、そろそろ何か話してくれませんか?」
しびれを切らした島田が恐る恐るハンマ国王に催促する。
ハンマ国王は手に持っていた杖を地面に叩きつけた。
「もう、目覚めたのではないか?」
「は?」
首をかしげる島田。
「イタッ!」
声が上がった。
突然、クラスの女子の何人かが一斉に掌を抑えて痛みを訴え始めた。
全員ではない。女子十六名のうちの何人かはぽかんとした顔で手を抑えて苦しむクラスメイト達を見ていた。
「何が……ッテェ!」
そして、それは俺も……だった。
右手の甲が焼けるように痛み始めた。
光を帯び、記号のようなものが彫り込まれていく。
やがて光が消え、右手の甲にははっきりと勾玉のようなものが散らばっている模様が刻まれた。中心から放射状に円形に並んでおり、魔法陣のようにも見える。
「何だ、これ……?」
疑問を口にしたのは俺だけではない。先ほど痛みに手を抑えていた女子たちからも声が上がった。
「たった今、お主たちに刻まれたのは『聖痕』である。『聖痕』は女子にしか刻まれず! その者こそが真の『救世主』———『姫騎士』となって『神器』を振るい、『世界樹』を滅ぼさんとする『邪神』を打倒する聖なる勇者である!」
ハンマ国王がまた、高らかに声を張る。
だが、引っ掛かる。
「お前、女だったのか?」
彼方が息を飲んでいる。
違う、断じて違う。だが、はっきりとあのおっさんは『聖痕』は女子にしか刻まれず、真の『救世主』は『姫騎士』だと宣言した。
恥ずかしいが、おずおずと手を挙げる。
「あの~……俺もなんか、その、『聖痕』ってやつが出ちゃったみたいなんだけど。俺も『姫騎士』ってやつなんですかね?」
ギャグを言ったつもりはなかったのだが、爆笑が起きた。
最初はお調子者の九鬼が「プッ」と噴き出したのがきっかけで、それから男子共が「お前男なのに「姫」だったのかよぉ~!」と俺を指さし笑い始めた。
笑われるのは嫌だが、その笑い声にどこか安堵の要素も含まれているように感じた。見知らぬ土地に、突飛なことを言いだす男。不安しかなかったところで、なんだかおかしなことを言いだす奴が出てきて、ああ笑っていいんだと安心感を得ることができた。若干の現実逃避。
気を抜いている爆笑の中、ハンマ国王は俺の『聖痕』を異常とも思っていない様子で、満足気に頷いた。
「うむ。それは『聖痕』ではない、『聖痕』の上、『神証』である」
「『神証』?」
「男子一人には『神証』が刻まれる。その男子は『姫騎士』が扱う『神器』となり、十三体の邪神を滅ぼすために、彼女たちと絆を紡ぎ、共に戦うのだ」
「『神器』? 俺が? ってどういうこと?」
「つまり、お主は救世のために選ばれた神の武器へとその身を変えるのだ! そして、そのためには『姫騎士』たちと絆を、確かな絆を作り上げなければならない。絆がなければ、魔法の力は十全には発揮されない!」
「えっ」
俺を見ているクラスメイトの女子たちと目が合う。
優等生の桜木、スポーツ少女の海藤が不安そうに手を抑えながら俺を見つけめている。彼女たちも『聖痕』が刻まれ、『姫騎士』とやらに選ばれてしまったのだろうか。
「救世の『神器』よ! お主はこの世界を救うため、十四名の『姫騎士』たちと愛をはぐくんでくれ! それがお主の使命である!」
つまりそれって、世界を救うために、あんまり話したことのない女子も含めて、十四人の女子たちを攻略しろってこと?
何だか気が滅入る。
こちらを見て顔を赤くしてくれる、まんざらじゃなさそうな反応をしてくれる女子もいるが、まるで汚物を見るように嫌悪感を隠そうともしない目で見てくる子もいる。
それに何より……、
「あっ」
彼女と、眼が合ってしまった。
互いに逸らす。
彼女も『姫騎士』に選ばれていた。選ばれてしまっていた。ただ眼が合っただけだと思いたかったが、遠目からでも彼女の右手に刻まれた黒い模様が確認できてしまった。
彼女———いや、元カノの白百合七海も……。