おばあちゃんとの電話
もう7年も前の話。
当時、上司のミスをかぶせられて会社をクビになり、再就職先が見つからないうちに失業保険も切れて、すべてがどうでもよくなった時があった。
どうやって生きていこうとは考えられなかった。あとでわかったことだが、この時には俺はもう鬱になっていた。だから、考えることはどんな方法で死のうかなってことばかりだった。
最終的には首吊りが一番楽そうだなって結論に至って、ホームセンターで縄まで買ってきた。
いよいよ死のうと縄の先に輪っかを作ったところで電話がかかってきた。
無視してさっさと死にたかったが、なんとなく電話に出た。多分最後に誰かと話したかったのかもしれない。
電話の相手はおばあちゃんだった。
「…もしもし?ゆうすけ?」
田舎からの電話だからか、やけに音質が悪かった。ザーッという音の中からおばあちゃんの声がした。
なんとなくお互い近況報告してたと思う。何の話をしていたのか、もう思い出せないんだ。
気付けば30分くらい電話してて、もう電話切って死のうって決心した時に思い出した。
俺のおばあちゃんは、もう3年前に亡くなっているんだ。
最初はぞっとした。でも、ここまで話のつじつまが合う間違い電話だとは考えられない。
ぼろぼろと涙がこぼれていた。今までの辛かったこととか、悲しかったこと。おばあちゃんに伝えられなかった感謝の気持ちとか、楽しかった思い出とか、話の流れも考えずに一気に話した。
おばあちゃんはその間ずっと黙って聞いててくれた。俺がひとしきり話して涙を拭いているときに、おばあちゃんが言った。
「辛かったんだなあ。悲しかったなあ。でもなゆうすけ、あんたはまだこっちに来るべきでねえ。これからもっと苦しいことがあっても、いやなことがあっても、自分で自分を殺すことはやっちゃいけねえことだ。」
おばあちゃんは熱心な仏教徒で、小さいときからそんなことを言っていたのを思い出して、号泣してしまった。泣きながらもなんとかわかったとだけ言った。
「ゆうすけは根っこが綺麗な子だ。いつか報われる。じゃあの。」
待って。そう叫びながら耳を澄ませると、さっきまで聞こえていたザーッという音が聞こえなくなっていた。無音だった。
慌てて通話履歴を見たが、ここ数か月の履歴がない。当たり前だった。金がなくて、数か月前から電話の契約を解除していたんだから。
夢だと思ったし、今思えば限界の精神状態だった俺の妄想だったかもしれない。
でもその電話からちょっとだけ元気が出て、数年かけて社会復帰ができた。
今年10回忌。おばあちゃんに感謝の気持ちを込めて、墓参りしてきた、記念カキコ。
これは怪談じゃなくて感動ですね。
ジャンルとしては死者との電話です。
電話は携帯、スマホが普及してからたくさんの怖い話が作られましたね。
「メリーさん」、映画では「着信アリ」なんて名作も出ました。
意味不明の間違い電話系怖い話もありますが、それは有名どころが強すぎて新しく創作ができる気がしませんでした。いつか挑戦はしたいですね。
電話系の怖い話が見たかったら、『・・・からの電話』「洒落怖 間違い電話」を調べてください。
最後まで読んでくれてありがとうございます。ぜひ感想、アドバイス、日ごろのうっ憤、誤字脱字の指摘、何でもください。