やけに勧められる商品
俺は中古屋めぐりが趣味で、いろんな中古屋に顔を出す。
ジャンク品や人気のない昔のプラモ、ゲームなんかを見て、その商品たちがここに来るまでにたどったであろう経緯を考えるのが好きなんだ。
行くたびに何かしらは買うようにしているから、なじみの店も、なじみの店員もできる。これはそんななじみの店員にされた話。
その日は雨で客も少なかったので、店員とレジ前でだべっていた。レジから見える商品指さしながら、値段を当ててみたり、その商品の発売年を推測したりして遊んでいた。そしたらふと、布のかけられた古臭い化粧台を見つけた。
見る限り中古屋じゃなくて骨董品屋にでも置くようなものだったので「随分と良いもの仕入れたね、高いんじゃない?あれ。」って言ったんだ。
そしたら店員さん、顔一気に強張らせて「兄さん、あれはダメです」っていうんだよ。
何でか聞いたら最初は渋った。けど10分ほど粘った俺に諦めて話し出した。
「何度も戻ってくる商品、うちではお下がりさんって呼ぶんですけどね。大体は店で見る分にはいいけど家には置き場がない家具とか、修理できそうだと思ったもののどうにもならなかったジャンク品とかがそれにあたるんですよ。でもあの化粧台だけは違います、ツイてるんですわ。」
「ツイてるって何w幽霊?」
「そんな優しいもんだったらよかったんですけどね。」
店員は深刻そうな顔で話をつづけた。
曰く、最初ここに来た時からおかしかったと。
だいぶ年のいった爺さんがトラックで持ってきた化粧台、店で行った査定では相当値が付くと判断して、ここでは買い取れないと伝えたそうだ。
そしたら値段付かなくてもいいから引き取ってくれと言われたと。
店長が知り合いにこういうの買い取ってくれる店を知っていたから二つ返事で引き取った。
で、さっそく売りの電話をして、最初は乗り気だった知り合いの店長、現物見た瞬間もらえないの一言。
てっきり買い取ってもらえると思ってたうちの店長は焦って理由を聞いたところ、憑いてるとのこと。
店に悪さをする類ではないが何度も戻ってくるから店の評判にかかわる、俺では引き取れない。
そう言って知り合いの店長は帰って行った。
うちの店長は取り合えず化粧台を店に置いたんだが、売れるには売れる。ただ、言われた通りすぐ戻ってくる。
みんな返す理由は語らない。ただ引き取ってくれとだけ言って逃げるように帰っていくらしい。
そんなこともあるんだなあとあまり信じずに聞いていた俺に、店員は言った。
「あまり信じてないでしょ。僕もそうでした。ただ、僕の元カノが一度それを引き取ったんです。」
1年ほど前に付き合っていた店員さんの彼女が店に遊びに来た時、化粧台に一目ぼれをして持って帰ったそうだ。
彼女の実家へ運ぶためにわざわざ店員さんが軽トラをレンタカーで借りたそうだ。
やっとこさ搬入してわずか一週間で帰ってきた。
その時の彼女の様子は酷かったそうだ。
「化粧台に絶対に触らないように、特に鏡の部分は視線も送らないように持ってきてました。義父母にはなんてもの寄こしやがったって怒鳴られましたよ。」
何があったのか彼女に問いただすと、「鏡に映る」と一言だけ言ったそうだ。
その彼女とはそれから音信不通になって自然消滅したそうだ。
「初めて行くところやちょっと仲良くなったくらいの店でやけに勧められる掘り出し物、そういういわくつきのものもあるので注意した方がいいっすよ」
最後にそう締めくくった。
ただ俺、その店に初めて行ったとき、彼女持ちかしつこく聞かれたんだよな。そういうことだったのかな。
これは呪物系のなかの、その品は今も市場に出回っているという…みたいなタイプの話です。
呪物系の話の傑作は「リョウメンスクナ」と「コトリバコ」かなと個人的には思っています。ただ、あそこまで凝った設定の呪物、考えられる自信がなかったので中古のいわく品にとどめました。
中古のいわく品系の話で怖いのは「ゾッとする話」でポテト少年団中谷さんの語った話ですね。気になる方は「ゾッとする話 ポテト少年団 中谷 鏡」で調べると出てくると思います。
これらの話は怖い部分がジャンルによって違います。最初に挙げた「リョウメンスクナ」のような話では、いかにその呪物が生まれ、現代まで伝わってきたかが怖い部分になります。二つ目に挙げた、今も市場に出回っている系では、そんな怖いものが身近に存在するかもしれませんっていう怖さです。
前者はそんな怖いものが世界のどこかにはあるんだねえで済みますが、後者は近所のあのお店で買ったあれも実は…なんて想像ができてしまうので、そっちの方が怖いかなと個人的には思います。
日本に限らず長い期間使われ続けた物には魂が宿るという話は昔からよく言われる話なので、そこから発展して怪談化したんだろうなって思います。逆に美しい過程を経たものは福をもたらすものとしてあがめられる美談になってたりしますしね。
最後まで読んでくれてありがとう。感想、アドバイス、誤字脱字の指摘、そのほかなんでもほしいです。