覚えてるよね
昔コンビニバイトをしていた時、毎日決まった買い物をするお客さんがいた。
毎日、というのは厳密には違うかもしれない。少なくとも私がシフトは言っている日は毎回だったので、週に三回は同じ買い物をしているお客さんだ。
40過ぎくらいのおじさんで、買うものはタバコと、飴と水を買って行っていた。私は結構やる気のないバイトだったので、おじさんに「いつものタバコ」って言われても「何番ですか?」っていつもとぼけていた。
バイトの交代際に先輩と特徴的なお客さんの話になって、私はそのお客さんを挙げた。すると、先輩は「ああ、レジまで来て○○さん(私)がいないと何も買わずに帰るおっさんね。」と言った。
私はそんな話聞いたことなかったので、どういうことか詳しく確認すると、いつものセットを買うのは私がシフトに入っていて、私がレジをしているときだけだったらしい。私が品出しなどでレジから離れていると、カゴを持ってうろうろしているそうだ。
その時点で相当気持ちが悪くて、私はそのお客さんにはほかの客よりも淡泊に反応するようにした。
夏になって、私は帰省で一週間ほど帰ることになった。帰省の間は特に何事もなく、静かに家族との時間を過ごした。
家に戻ってバイト先にお土産を持って行くと、店長が少し話があると言って引き止めてきた。
私が帰省でいない間に、例のおじさん客がクレームを入れてきたらしい。なんで○○がいないんだ、俺は○○の接客以外では買い物をしないんだ、○○を出せというクレームだったらしい。
店長にはお客さんと仲良くなるのは良いんだけど、距離感を間違えないようにと注意されたので、私はそのお客さんと私的な会話をしたことがないと訴えた。しかし、その店長が今でいうモラハラ体質な男で、女なんだから気付かないうちに色目でも使ってたんじゃないのと言われた。
その会話を聞いていた先輩が、「少なくとも僕が入っている間の○○さんはそのお客さんに限らず一般的な接客から逸脱するような会話を一切していません」と言ってくれたのだが、店長はたいして耳に入れてくれなかった。
それをきっかけにバイト先を変えることになって、シフトも入れなかった。しかし、退職月の一日だけシフトが埋まらないから出てくれないかというお願いを先輩からされたので私は渋々出た。
シフトカードを切ってレジに出た瞬間に今までどこにいたのか、例のおっさんがさっそくカゴを持ってやってきた。相方が気を使って自分のレジの方に誘導したが無視。仕方なく私がレジ打ちをすることになった。
合計金額を伝える私の声に被しておっさんが「僕のこと覚えてるよね。」と言ってきた。
「どこかでお会いしましたか?」と聞くと、おっさんは怒りだした。
「覚えてもらうために毎度同じ買い物を君のレジでやったんだ。」「この店にどれだけ金を落としたと思っている。」「店長を呼べ。」と大騒ぎ。すぐに店長を呼びますと言って警察に連絡をした。
駆けつけた警察におっさんは連れていかれて、私からも話が聞きたいと言われたが、私は男性恐怖を演じて逃げ続けた。代わりに店長や先輩に話してもらって私はそのまま退職。
ほとぼりが冷めたころに先輩が教えてくれたのだが、おっさんは近くのキャバクラを片っ端から出禁になっているような男で、私が入れこんでいたキャバ嬢に似ているからという理由で結構粘着していたらしい。
気付いていなかったがストーカー紛いのこともされていたらしく、私の家は把握されていた。まだストカー規制法なんかなかった時代だから、男は厳重注意で済んだらしい。
急いで引っ越しをしたが、普段使わない引き出しの中に赤い糸と汚い文字で覚えてるよねと書かれた紙を見つけた時が一番怖かった。
この話はよくいるキャバクラ通いのおっさんの話とストーカーの話を混ぜた話です。ジャンルとしては人怖になるんでしょうか。最後の引き出しに入っていたものを人形とかにして、それによって起こる霊障なんかも書くと呪いの話とかになっていくんではないでしょうか。
接客業をしていると、こういうお客さんマジでいたりしますよね。