お姉さんの言葉
あけおめことよろ
俺が高校生の時の話。
毎日部活があるうえ、学校が家から遠いのもあって、最寄り駅に着くのはいつも終電間際だった。
街頭の明かりだけの帰り道のなか、ひそかな楽しみだったのが近所のボロアパートに住む大学生くらいのお姉さんだった。
遠目にしか見たことなかったが、お姉さんは美人系で、俺が帰る時間くらいにいつも窓を開けてたばこを吸うのが日課だったらしい。
真っ暗な住宅街の中で、唯一光のともった窓から顔を出すお姉さんはお世辞抜きに見ほれるほど美しかった。
しかも、たまにだが見とれている俺に気付いてにこっと微笑みかけてくれるのがたまらなくうれしくて、時間がある時なんかはわざわざ窓の近くを歩いて気付いてもらえるのを待ってたりした。
ある日、遅くまで部活があって終電で最寄り駅に着いた。その日はたしか見たいテレビがあったとかで俺は相当急いで帰っていた。
家の近くまで着いたときに、上から窓の開く音がした。建付けの悪い窓を無理やり開けたような音で、俺はすぐにそれがお姉さんの住んでいるアパートの音だと分かった。
歩きながら上を見上げると、お姉さんが手を振ってるのが分かった。ただ、部屋の明かりが逆光になって、しかも間近だったこともあり、お姉さんの表情までは見えなかった。
俺は軽く会釈だけしてさっさと家に向かった。その時何かお姉さんが言ったような気がしたけど、急いでいたのと恥ずかしさで無視してしまった。
しばらくして振り返ると窓は締まっており、カーテン越しにお姉さんのシルエットがゆらゆらと揺れているのが見えた。
次の日は土曜日で昼頃まで寝ていたと思う。買い物から帰ってきた母さんと昼ご飯を食べていたら、母さんが興奮気味にこんな話をした。
「今朝、ここらへんで死体が見つかったんだって、あんた知ってた?」
俺は「ふーん」と色のない返事をしつつ、昼飯のチャーハンをかきこんでいた。
「すぐ近くにアパートあるでしょ、あのぼろ臭いとこ。あそこから死体が出てきたらしいわよ。若い女性だって。可哀想にね。今朝はパトカーやら救急車がたくさん来て大変だったんだから。」
「え?あの○○ハイツ?」
「あら、あなた知ってたのね。」
そんなわけないと思いつつも、俺はチャーハンを食べ終わってすぐに外に出た。もうパトカーも救急車もいなくなっていたが、お姉さんが住んでいた二階の部屋だけテープで塞がれていた。
たまたま隣の部屋に帰ってきたおっさんに「ここに住んでいた人は?どうなりました?」と聞くと、おっさんは迷惑そうな顔をして答えてくれた。
「そこの住人ね。一、二週間前くらいからありえないほどの異臭がするもんで通報したら死んでたんだとよ。迷惑な話だよ。他殺の疑いがあるとかで、これから俺は事情聴取だってよ。首つってたんだから自殺でいいじゃねえかよ。」
おっさんは舌打ちをしながら部屋に戻っていった。
じゃあ昨日見たお姉さんはなんだったんだ。死後二週間以上って、俺は昨日以外もお姉さんを見ていた。俺がここを通る時に異臭なんかしていたか?
何より、今思い出すと、お姉さんに手を振られた夜、後ろにもう一人人影がいた気がする。
その時になってお姉さんが言った言葉が、モザイクが晴れていくように鮮明になっていった。
「ニゲテ」
この話はジャンルで言うとヒトコワと怪談の間くらいだと思います。死んでたはずの人との接触と、若干の物件ものの要素をはらんだ話って感じ。
お姉さんのシルエットが揺れていたところは怖い話らしくていいと思うんですけど、最後にお姉さんの言葉がはっきりするのは展開としては臭いかもですね。でもまあ、こういうオチも書いてみたかったので。
似た話というか、参考にした話として「ゾッとする話」にて国沢一誠が話した「英会話教師」があります。こっちのほうが死んだはずの人間との交流、そのころには死んでいたはずという要素への説得力が強く面白怖いです。
死んだはずの人間との交流は怖い話にも感動する話にもすることができます。死んでいることが発覚するタイミングが早いと感動系に、遅いと怖い話になります。面白いね。
最後まで読んでくれてありがとう。最近感想無いのクソ寂しいです。ぜひ感想ください。
Twitterでは報告しましたが、何回かランキング載ってるみたいです。ありがとうございます。文面では伝えれないけど満面の笑みでこれ書いてます。これからも頑張るのでよろしくお願いします。




