みじかい話#2
とある島国の街の外れに研究所があり、そこでは一人の植物学者とアシスタントロボットが日夜、研究に暮れていた。学者は先立った妻が口癖のように語っていた、この世に一輪しか咲かない花が見てみたいと夢を叶えるべく連夜研究室に籠っては新種の発明に勤しんでいた。しかし、五年、十年経っても彼の研究室から歓声が歓声が上がることはなく、また十年、また十年と時が過ぎ、三十年程経った頃、彼はいつのまにか変わらぬ研究の日々に自分の死が近づいてきていることを感じ取った。
遂に彼が床から起き上がれなくなると、彼は枕元のロボットに、
「結局俺は花を咲かせることができなかったんだろうか」
と自嘲気味に言うとロボットは、
「貴方は一生をかけて夢を追いかけた。ご夫人もきっと満足なさるぐらいに、貴方の人生には貴方の人生にしか咲かない綺麗な華が咲いていますよ」
と、滅多に開かない口を開いて言った。
彼はそれが可笑しかったのか、気恥ずかしかったのか、ふっと頬を緩めると、お前に洒落たこと言われるとはなぁ、と最期と力でロボットを小突いた。fin.