8話 脱出の結末
キャロが汚れてしまう前になんとかしなくては。
ボクは上着の内ポケットに手を入れると薬の入った小箱を取り出した。
中から注射器を取り出すと腕に刺し、ゆっくりと中の液体を体に流し込む。
「おぉ……きくぅ……」
次に燻煙用の丸薬を壁に擦り付ける。
熱を加えられたことで丸薬に反応が起こり、勢いよく煙を吐き出した。
「おい、誰か! 火事だぞ!!」
オレはあらん限りの力を出して叫ぶ。
すでに周りは煙が充満しだしている。
この煙は虫用だが人間にも多少の害はある……だからオレは床に伏せて牢番が来るのを待つ。
「な、なんだこれは!? お、おいお前っ!」
牢番の兵士は焦りながらオレの牢を開ける。
そっちは帯剣していてこっちは丸腰だから?
それともオレが床で倒れたふりをしているから?
ともかく油断しすぎだ、お前は。
オレは跳ね上がるようにして体を起こすと油断している牢番の腹に渾身の右拳をお見舞いした。
「ぐぁっ!」
さらに痛みで体が折れ曲がった牢番の首筋に手刀を叩き込んで意識を刈り取ると、腰に下がっていた剣を引き抜く。
「キャロ……待っていろよ!」
こうしてオレは牢から出ることが出来た。
せめてこの一連の事態に動きがあるまで、とのんびりしていたツケがこれだ。
最初から覚悟を決めていればキャロが自分を見失うことはなかったのに!
オレは後悔をしながら地上へ向かう階段を上る。
登りきったところは牢番の詰所だ。
正面にはこの建物の出入り口があり、左手側には短い廊下が伸びていて、左右にはいくつかの部屋があった。
さすがに囚人を外に連れ出すとも思えないからきっとこの中のどこかにキャロが……。
手前の部屋から順番に扉を開け放っていく。
いない、いない、いない……。
そして最後の部屋の扉に手をかけたところで中から人が動く音が聞こえた。
間に合わなかったか!?そう思いながら乱暴に扉を開くと……そこには兵士から奪ったのであろう鍵束を持ったキャロがいた。
「パパ、何考えてるの? キャロが変な兵士にいたずらされるわけないでしょ」
「いや、心を削られて自暴自棄になったのかと」
「牢屋に入れられた日にキャロを変な目で見てる人がいたからこれは使えるってなって、『みんなには内緒で二人っきりで会いたいな』って言っておいたの。で、今日がその人の当直の日だったみたい!」
「それならそう言っておいてくれればいいのに……」
「そしたらまたパパがそんなことしちゃダメっていうでしょ? キャロだってパパのためになんかしてあげたいのに……いっつもそう言うんだもん」
キャロの気持ちは分かった。
本当はそんな無茶をして欲しくない。
欲しくはないけど……今だけは頭を撫でよう。
「ありがとな」
へへっと笑うキャロはボクが思っていたよりも少し大人びて見えた。
「そういえばキャロを探していた時にボクらの荷物が置いてある部屋を見つけたからそれを持って早いところここを出よう」
そういってボク達は没収された自分達の荷物を回収して建物の出入り口に向かった。
そこでふと机に置かれた水差しが目に入ったのでポケットから薬を取り出すとぽとりと入れた。
「それじゃあ、行こうか」
扉を薄く開けると、辺りに人がいないことを確認してから外へ出た。
「ねぇパパ、そういえばさっき何を入れてたの?」
「あぁ、あれは下剤だよ。それも三日三晩は続く強烈な、ね」
「うわぁ……パパを怒らせると怖いね!」
そんな軽口を叩きながら僕たちは街を歩いていた。
今は深夜という時間帯なので辺りには人の気配はなく、見つからないよう慎重に隠れながら家へ向かう。
これからどうするにしてもやはり調合のための道具は持っていきたい。それに店の蓄えも少しはあるしね。
しばらくほとぼりが冷めるまでは街の外から無実を訴えよう、そんなことを考えていると我が家に着いた。
入ろうとすると違和感に気付いた。
入り口に固い鉄の板が打ち付けられていたのだ。窓も、裏口も塞がれている。
「……ここまでやるか?」
ボクとキャロが過ごした家が、ボクとキャロが作り上げた店が……無くなってしまっていたんだ。
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