7話 キャロの決意
ボクとキャロは誰かの策略にハマって牢に入れられてしまった。
誰の、なんていうまでもなく分かっているんだけど。
「ここだ、入れ!」
そんな言葉と共にまるでゴミを捨てるかのような動作でボクは牢の中に放り込まれる。
キャロはどうやら隣の牢屋に入れられたらしい。
こうなってしまっては抗弁する機会すらない。
ちゃんと話を聞いてくれる人と話せれば誤解だって解けるだろうに。
ボクはそんな事を考えていた。
「パパ……」
隣の牢からキャロの声が聞こえてくる。
「キャロ、こんな事になってすまない」
「ううん、元々はキャロがあのお店を偵察に行った事が始まりだったんだよ」
どうやらキャロもこの一連の黒幕に思い当たっているらしい。
「どのみち気付かないうちにこの街はあの薬に支配されてただろうしね。まぁ結局ボク達もこんな所に入れられて何も出来はしなかったけど」
ボクはそう自嘲しながらいう。
「まぁ少しは話せる人と面会出来るのをしばらく待ってみるしかないかな」
ここまで強引にことを運んだのだからその辺りの根回しも済んでいるかもしれない、と半分諦め気味だったけどキャロには伝えなかった。
「少し、休もう」
初めての魔物退治から帰ってすぐこれだったので二人とも疲れ切っていた。特に精神的に、だが。
ボクは部屋の隅に備え付けられている粗末なベッドに近づき、体を横たえる。
とても清潔とは言い難く、硬いマットレスは体の疲れを取るという目的を果たしてはくれなさそうだったが、それでもなんとか体を沈めて目を閉じる。
明日には事態の進展があることを期待して。
そんな期待とは裏腹に次の日、その次の日と時間ばかりが過ぎた。
何度牢番に掛け合っても誰とも会わせてもらえず、沙汰も、予定も伝えられないままただ機械的に粗末な食事が届けられるのみ。
そもそも牢番は殆ど見回りにさえこない。
上の階で騒いでいる声が聞こえてくることもあるから、いるにはいるらしいけど恐らくサボっているのだろう。
ボクとキャロはこんな日がどれくらい続くのか、と精神的に参り始めていた。
「キャロ……大丈夫か?」
「うん……でも……。ううん、やっぱりなんでもない……」
心なしかキャロの元気がない。
何か思いつめたような声色だ。
やはりこんな生活じゃあ心が擦り切れても仕方がない。
もう限界が近そうだ。
なんとかしなければ……でもどうしたら?
ボクは手の平に置いた薬を眺めた。
これはここの牢に入ってすぐに作ったものだ。
討伐からの帰り道に摘んだ草の一部と牢内に生えていた苔、それにカビを材料にした。
捕まえられた時に持っていた荷物や武器は取り上げられたけど、身体チェックをろくにされる事もなく着の身着のまま牢に入れられたのが幸いして、上着の胸ポケットにあるものまではチェックされなかったのだ。
きっと相手もボク達が先手を打つ前になんとしてでも牢に入れてしまいたいと焦っていたのだろう。
ただ、これらの薬はある種の手慰みとして作ったものだったからこの状況を変えられるような一手にはなりそうもない。
下剤と、防臭剤、それに虫退治に使う燻煙用の丸薬のみだけではどうにもなるわけがない。
せめて鉄を溶かせる酸が手に入ればいいけどそれを得られそうな生物も植物もここにはなかった。
ボクは歯噛みしながら囚人生活四日目を終えた。
そしてそれはその日の深夜に起こった。
相変わらず硬いベッドでろくな睡眠が取れていなかったボクは誰かが階段を降りてくる音で目を覚ました。
誰かが来てくれた?と一瞬思ったけどこんな時間に来るなんて味方では有り得ない。
ボクは何が起こってもいいように、と寝たフリを続けながら身構えた。
ーーガチャン
牢の扉が開かれる。
おいおい、待てよ……そっちはキャロの牢じゃないか。
「……んっ……」
キャロが起きたような声が聞こえてきた。
……それにしては静かだ。
普通ならもっと騒ぎそうなものなのに。
口を塞がれてる?それとも顔見知りの誰か?
ボクは集中して状況の把握に努めた。
すると二人が小声で会話をしている声が聞こえてくる。
「あの野郎が気に入ったってのは本当か?」
「……はい」
「あの野郎、今日はお楽しみだなんていってノーズィードラッグの強壮薬まで飲んでやがったからな」
「……」
「まぁ、あいつで満足出来なきゃオレに言いな、可愛がってやるぜ」
二人は小声でそんな会話をしながら牢の出口にある階段を登っていった。
ボクはその会話の内容が信じられなかった。
頭が理解する事を拒否している。
そしてこれから上で起こるであろう事を想像して……
ちょっとでも続きに期待してもらえたらブクマ、評価、感想をお待ちしております。
そのクリック、タップがモチベーションになります!
↓よろしければ評価もいただけると喜びます(必死)↓