6話 捕縛
「キャロ……どうした?」
ボクはキャロの肩を揺すった。
すると顔を上げたがその顔は、いやその目は……まるで狼だった。
そして遠吠えをするように天を仰ぎ……
「がおー」
何か締まらない声を上げて吠えた。
これわざとやっているんじゃないかな、ボクはそんな風に考えてしまった。
その時、キャロが不意に牙をむいて襲いかかってきた。
「キャロッ!」
そう叫ぶとボクは後ろに押し倒された。
このままボクはキャロに……ってキャロ?
ボクを押し倒したキャロはもうそこにはいなかった。
体を起こすと丁度フォレストウルフを倒した所だったようだ。
まだ隠れて潜んでいたのか……それに気付いてボクを助けようとしてくれたんだな。
「キャロ、ありがとう。ボクも丁度クスリが切れた所だったから正直助かったよ」
「フー……フー……」
どうやらキャロはまだ落ち着つかないようだ。
こんな時はこれだな。
「キャロ、ちょっとこれを飲んでみて」
「フー……ごくっ」
鎮静効果のある丸薬だからきっと効果があるはずなんだけど。
しばらくするとキャロの呼吸が落ち着いてきた。
「パパ、キャロどうだった? 偉い?」
「え、偉いよ。覚えているの?」
正直ボクから見たら理性を失っているようにしか見えなかったけど。
「もっちろん。なんか血を見たらなれるって思ったからやってみたの! あれって……」
「うん、獣化だね。キャロ、君の……お父さんが得意だったんだよ」
「お父さんが……」
キャロは一瞬悲しそうな顔をする。
そうだよなぁ、小さい頃に一族がみんな居なくなってしまったんだもんな。
「でもキャロのパパはここにいるから大丈夫だよっ」
そういってキャロはボクに抱きついてくる。
無理しているんじゃないかと思ったけどキャロの顔からはそんな気配が見当たらなかった。
落ち着いてからフォレストウルフの毛皮を剥いで、肝を取り出す。
あとは牙を回収したら死体はそのまま置いておく。
魔物は死ぬといずれ消えていくらしいけどどんな仕組みなんだろうか。
まぁそんなこんなでちょっとドタバタしたフォレストウルフの討伐を終えてボクとキャロは街に戻った。
ついでに帰り道で色々と使えそうな草や実を摘んで帰るのも忘れなかった。
まぁこれはいつもの癖みたいなものだけどね。
「はい、討伐を確認しました。素材はあちらのカウンターで売却してください」
そういって協会のお姉さんから金貨3枚と銀貨5枚を受け取った。
毛皮と牙が銀貨2枚、肝が1枚だ。
フォレストウルフ一体分の素材は銀貨5枚だったってことだな。
オークの肉だったら銀貨3枚だったからキャロの助言に従って正解だった。
「じゃあ帰ってミルさんに鳥を捌いてもらおーよ」
そういいながらボクとキャロは家に帰った。
今日の夕食は豪勢なものになるぞ、なんて楽しく話しながら。
家に着いた時にはそんな楽しい気持ちは全て吹き飛んでしまったけど。
ドアを開けると家の中には兵隊がいて、ボクの研究資料や調薬に使う道具をグチャグチャに荒らしていた。
中には魔道具で、もう手に入らないかもしれないものもあったのに。
それよりも……それよりもお前が踏んでいる"それ"は。
キャロがウチにきてから2年後のボクの誕生日にくれた手紙だ。
ーーいつもありがとう、恥ずかしいけどこれからはパパって呼ぶね
そう書いてあった思い出の手紙だ。
ボクは無言でその兵士に近づくと背中を思い切り突き飛ばした。
よろけてうつ伏せに倒れていたけど知ったことか。
ボクはその手紙を拾うと手で汚れを払ってポケットにしまった。
それから部屋の真ん中で偉そうにニヤニヤしている"隊長"に近づいて言った。
「で、なんのつもりですか?」
「なに、森の中でお前が危なそうなクスリを注射していた所をみていた冒険者がいてな」
「は……なんだって? いや、それは……」
キャロが見られているといっていたのはまさかその事だったのか?
てっきりフォレストウルフだと思って続きを遮ってしまったのが悔やまれる。
「それは事実か?」
「…………はい。でもそれは!」
「違法薬物を売り、違法薬物を使う……罪人と話す口などないわ! 連れて行け!」
こうしてボクとキャロは街の外れにある牢獄に閉じ込められたのだった。
キャロは関係ないと叫んだけど、それすらも聞き入れて貰えなかった。
そりゃそうだ……はじめから仕組まれていたんだから。
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