5話 ドーピング
冒険者協会を出たボクとキャロは街を出て南にある森に来ていた。
「んー……このお肉堅いなぁ」
「あぁ、それは保存食だからね……って何食べてるんだ。これは後でパンに挟んで食べようと思ってたのに」
「だってお腹空いたよぉ……」
「目的地の近くまで行ってから食べようと思ってたの! もうキャロのパンはお肉なしだよ?」
そういいつつも後で自分の分を半分こしようと考えていたんだけど。
「パパ、お肉……」
「もう、分かってるよ。後でボクの分を分けるから」
「ありがと。じゃなくて、アレ」
そういってキャロが指差す先を見ると、あれは……鳥か?
よくこんな距離で見つけられたな、と思っているとキャロは突然走り出した。
あまりにも唐突で、あまりにも行動が早かったので制止する言葉すら出せなかった。
「まっ……」
言葉を出す頃には既にキャロは鳥のいる場所に到達していて……
「パパー倒したよー」
そんなのんびりとした声を出しながらキャロがこっちに戻ってくる。
その手には確かに鳥が握られている。
うん、これはあとでお説教だな。
「ごめんなさいぃ……なんか獲物を見たら我慢できなくて?」
「うーん、キャロの獣人の血が騒いだのかな? 狼系獣人は狩猟が得意らしいからなぁ。でももしキャロに何かあったら……まぁ次はしないようにね? せめてパパに一言欲しいな」
「分かった! でも本当にパパは甘いね!」
今まで怒られていた子とは思えない笑顔を見せるキャロ。
さてはしゅんとしていたのは演技だったか。
ペロっと声を舌を出すキャロを見なかった事にして先へ進む。
確かもう少し歩いた所がフォレストウルフの縄張りだったはずだ。
ちなみにウルフ、といってもキャロの狼系獣人族とはなんの関わりもない。
魔物と獣人族はその祖先すらも同じではないと言われているし、魔物は魔物、獣人は獣人といったところか。
「じゃあここらへんでお昼にしよう」
「わかったよ、パパ」
そういってボクとキャロは荷物を降ろした。
「ねぇパパ、さっきの鳥は?」
「うーん、ボクは正直捌き方が分からなくてね……帰ったら隣のミルさんに捌いてもらおうよ」
そういいながらボクは手早くパンを用意する。
旅をしていた時間も長かったボクだからこういった料理はお手の物だ。
ささっとパンにはナイフで切れ目を入れて、堅かった干し肉は細かく切ってから挟む。
さらに歩いている時に摘んでおいた香草を詰め込んで……完成だ。
「はい、キャロ」
「わぁありがとうパパ。……なんかピクニックみたいで楽しいね!」
遊びじゃないぞ、と言いたくなったけどこの街に来てからは出掛けた事も殆どなかったからな。
そう思うとボクは強く言えなかった。
軽い食事を摂ったボク達はフォレストウルフの縄張りに足を踏み入れた。
「んん。パパ、なんだか周りから見られてる気がする」
「そりゃもう縄張りに入っているからね」
「それはそうかもしれないけど……」
キャロがそう言ったところで正面の草がガサガサという音とともに揺れた。
「しっ……来るぞ!」
ボクのそんな言葉と同時に草から現れたのはやはりフォレストウルフだった。
まぁこれくらいだったらボクの腕でもなんとかなる。
かと思っていたらその後ろからもフォレストウルフが現れて、現れて、現れた。
その数なんと六匹。
「あらら、そういえばフォレストウルフって群れるんだっけか」
「パパー大丈夫なの?」
そんな事を言っている間にもフォレストウルフはじりじりと距離を詰めてきている。
「ま、こんな時の為にこれがあるのさ」
ボクはそういって胸の内ポケットに入れていた小箱を取りだした。
その中には……
「注射器……?」
「そ! でもちょっとボクがボクじゃなくなるかもしれないけど……ね」
そういうと注射器を取り出し腕にあてがい、狙った所に針を刺すと中の薬剤を注入する。
「キ……キクゥー」
その瞬間、自分の体の中が作り変えられているような感覚を味わう。
何度味わってもこりゃたまらないな。
ボクは自分で作ったこのクスリ達を使う戦闘スタイルを「ドーピング」と呼んでいる。
色々な種類があるけど今回は興奮剤と筋肉増強剤などを混ぜ合わせたものだ。
もちろん無害だぞ。
ただこの効果は3分しか保たないから早い所このフォレストウルフを討伐しなければ。
「キャロ、オレの後ろに隠れていろよ」
オレはキャロにそう言うとフォレストウルフに向かって駆け出した。
突然走りだしたオレの動きに驚いたのか一匹として反応しない。
まぁ多分見えていないだけなんだけどな。
そうしてフォレストウルフ達は自分達が切られた事にすら気付かないまま全てが地に沈んだ。
「フゥフゥ……おら、もういないのか?」
全くこの程度の魔物に使うようなもんじゃなかったぜ。
そう思いながらオレはキャロの元に向かう。
「終わったぞ。それじゃあアイツらの血を指輪に付けて記憶させるんだ。魔物の死体なんて食えないからそうする決まりだ」
「……パパ……だよね?」
ああ、キャロが怯えてしまっている。
でも自分じゃこの気持ちはどうにもならない。
「ああ、そうさ。怖かったら一人で泣きながら帰ってもいいんだぜ?」
いや、そんな事は思っていない……思っていないのに。
「カ……カッコイイ!!! パパ! いつもの優しいパパも好きだけどワイルドなパパも好きだなぁ」
「そ、そうか。なら良かったがな。じゃあ早くやれ。今回は練習も兼ねて全部お前の指輪に記録していいぞ」
オレがそう言うとキャロはフォレストウルフの死体に向かって歩き出した。
そして死体に近づくと指輪に魔物の特徴である青い血をつけようとして……
「あ……ち……血ィ……」
……なんだか知らないがキャロの様子もおかしくなっているみたいだ。
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