19話 事情
低い声で呟いた皇帝陛下はそれ以降、何かを考えこむようにして押し黙ってしまった。
「陛下……この者たちは」
ブロウンさんが堪りかねたように口を開く。
「あ、あぁ下がってもらえ。薬師リーフ、薬師フォルト……娘を……エウリアを頼む」
娘の事が心配だからあんな渋い顔をしているんだろうな。
娘がいるボクにはちゃんと分かる。
だからボクは任せて下さい!と陛下を安心させられるように、なるべく明るい声を出して部屋を辞した。
「リーフくん……」
皇帝陛下の私室を出た途端にフォルトさんが口を開く。
「これはもしかしたらかなり大きな闇が待っている気がするよ」
「そう、かもしれません。でもボクらは薬師ですから、人を助ける事以上の事はなかなか出来ないですよね。だから目の前の事にまずは集中しようかと……甘いですかね?」
「甘い……でもその一途さが少し羨ましいよ。夕食まで時間がありそうだから私はちょっとお城の中を散策してくるよ。一応許可は貰ったからね」
いつの間に……と思ったけど、ボクが部屋を出る前かな。
ボクも正直言うと見て回りたい所だけど、キャロが待っているだろうから我慢しておこう。
「キャロ、ただいまー……ってお菓子、全部食べたのかい?」
「おはえひー……っくん。今まさに最後の一個がキャロちゃんのお腹の中に!」
「あー! ボクも食べたかったのにー」
「また言えばいつでも出してくれるって言ってたよ。それにもう少ししたら夕食だって言われたし」
キャロはちょっと悪い顔をしてそんな事を言う。
ああ、あれか。
ボクとフォルトさんが行ってしまって寂しくてすねたんだな。
「ねぇ、パパ。皇帝陛下はなんだって?」
「ん、ああ。何の病気か、とかそういう感じだったよ。アヴグァルドがどこから持ち込まれたかもしれないっていったら凄い苦しそうな顔をしていたね……ってこれ話していいのかな?」
ボクは全て話してしまってからまずい事をしたかと気付いた。
が、もう遅かった。
「親子なんだから大丈夫だよ! でもそういうことならやっぱり犯人は兄弟の誰か、とかなのかなぁ?」
「な、なんでそうなるんだい?」
「だってお城の中なんてなかなか入れないじゃない。あとはけんりょくとーそーとか? そんな話を近所のおばちゃん達がしてた気がする!」
我が娘はどこまで世の中の事を知っているんだ。
温室の中で育てていたと思っていたけど温室は穴だらけだったってことなのかな。
「おっと、誰か来たみたいだね……あ、夕食の時間だって」
夕食は小さな(といっても充分広かったけど)食堂で行われた。
参加者はボク、キャロ、フォルトさん、それにブロウンさんの4人だけだ。
「うわぁ、こんなところで食べる料理なんて初めてだから緊張するなぁ」
「キャロ、それはパパだって初めてだよ」
「いや、キャロちゃんおじさんも初めてだよ」
フォルトさんまで乗っかって来てくれた。
「まぁまぁ皆さん、この場はいつもの4人だけですから旅の時のように大いに食べ、飲みましょうぞ。これは姫様の無事な帰還の祝いも兼ねておりますから。完全復活の暁には盛大な宴を開きたいなどと考えておりましてなぁ……ははは」
ブロウンさんが饒舌に話し続ける。
これは自分の安心する城に帰ってこれたから?いや違うな。
何か無理をしているような気がする。
「ブロウンさん、何か不安なんですか?」
「……っ!」
「さっきフォルトさんと話していて、自分達は薬師だから人を助けることに集中しましょうという話をしたんですけど……でもだからこそ出来る事もあるのかな、なんて」
「姉様方ですか?」
フォルトさんのそんな突然の問い掛けにブロウンさんはビクッと肩を震わせた。
「な、何の……ことですかな?」
「さっき城を散策しながらなんとなくメイドさん方にこの城の状況を聞いたんですよ」
その言葉は芯を突いていたようで、ブロウンさんはその重い口を開いたのだった。
「なるほど……第一皇女殿下は既に成婚されて国外にいる。第二、第三皇女殿下は未婚で城内にいて、そして第四皇女はエウリア様、と」
「ええ、直系といえるのはその皇女様方になりますな」
「あれ、男性はおられないんですか?」
ボクはふと気になったことを聞く。
「実は皇子が一人おったのですが、2ヶ月ほど前に御亡くなりになられ……」
「理由はなんですか?」
「…………石化です」
「なんですって!?」
ボクらは食事をとることも忘れ、夢中になって話を続けた。
キャロだけはのんびり食べていたけど誰も責められまい。
「この国では毎年何人かが石になって死んでゆくのですが、それは"引き継がれる血"が引き起こす病気だと考えていたのです。この国の薬師の考えも長年そうでした」
ボクはどうして薬師までそう考えたのかが分からない。
もしかしたらこの国の薬師のレベルは……。
「でも、もしそう考えたのなら他の皇女殿下に起こらないのが不思議ではないですか?」
「いえ、皇帝陛下とエウリア様のお母様であるローリュエル様との間の子は御亡くなりになった皇子と、エウリア様だけなのです。そしてローリュエル様は……側室だったのです」
「でも皇帝陛下はローリュエル様との子、エウリア様の事が可愛くて仕方がないんですよね? 国を継がせたいと考えるほどに」
そうフォルトさんが補足してくれた。
この人はどこまでの情報を仕入れてきたんだ。
「はい、それは……おそらくそうであろう、と」
「なるほど、それで……と考えるのは危険ですね。全く罪のない人に罪を着せる事になりかねません。証拠がなければ人は罰せられないように。この話はとりあえずここだけの話としましょう」
ボクがそういうと皆は了解してくれた。
証拠がないボクはでっち上げられて捕まったけどそれはそれ、これはこれだ。
少し覚めてしまった料理はなんとなく味がしなかった。
それはこれから起こりうる事への不安なんだろうか。
それでもボクらはエウリア様を救わなければならない。
その為にはなるべく早く素材を入手しにいかないと行けないから明日はその準備をしよう。
ダンジョンとも呼ばれるあの洞窟に潜る準備を。
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