2話 殴り込み
「すみません。ボクはこの街で薬師をやっている者なんですが、店長さんにお話があるので会わせて貰えませんか?」
はじめて訪れたノーズィードラッグは広く、綺麗で清潔感があった。
これで薬がまともなら何も文句はないのに……そう思いながら近くの店員に声を掛けた。
「店長に、ですか? アポイントメントは取られていますか?」
「いや、そういうのはないんですけど」
「ではちょっと難しいですね」
若い店員はにべもなくそう言うとボクらとの会話を終わらせようとする。
「そこをどうにか……」
ボクがなんとか食い下がっていると店の奥から恰幅のいい中年男性が顔を出した。
まるで狸のような体つきをしているな。
「おお、リーフのくすりやさんの店主であるリーフさんじゃないですか。先程可愛い店員さんがウチのポーションをお買い上げ頂いたのでね、そろそろ来るかと思っておりましたよ。さぁどうぞ奥へ」
そういってボク達を店の奥へと案内してくれる。
どうやらこの狸のような男性が店主のようだった。
「いやぁ、すみませんね……店を開いてから忙しくて挨拶にも行けませんで」
そういいながら店主はお茶を出してくれる。
この湯気は……そう感じたボクはキャロに飲まないように、と目で合図を送った。
「して、本日はどのようなご用件で?」
目の前の店主はさも自信ありげに椅子へ座り、足を組むとそう言った。
さっき「そろそろ来るかと思っていた」と言っていたわけで用件は分かっているのだろう。
それならばこちらは正々堂々と事実を突き付けるまでだ。
「先程こちらのポーションというものを買わせて頂いたのですが」
「ええ、それは存じておりますよ。リーフさんからの挨拶みたいなものか、と受け取りましたがね」
くっ、この狸親父はいけしゃあしゃあと……。
「ええ、そのつもりだったんですけどね。中身を確認させて頂いたら問題がありまして」
「おお、そうでしたか。それは申し訳ありませんな。ではすぐに新しいものと交換させてもらいましょう」
「いえ、もうそういう演技は結構です。単刀直入にいいますがあの商品には違法な薬剤が混じっていますね?」
ボクがそういうと狸はさも驚いたように目を見開く。
「おやおや。はぁ……確かにお客さんを奪ってしまって悪いなぁとは思っていたんですよ。だからってねぇ、こう難癖をつけるというのはどうなんでしょうか? ほれ、薬聖様がどこかで見ておりますよ?」
さも愉快そうにそういうと笑いを噛み殺している。
「その言葉はそっくりそのままお返ししますよ。薬聖様に恥じない行動を取って下さい」
「はははは、そうきましたか。まぁ私は商売人であって薬師ではありませんのでな、薬聖さまの世話にはなっておりませんで……用件はそれだけですかな? ではお帰りいただけますか? 私も忙しいものでね」
狸はそう言うと、ボクとキャロは引っ張り出されるように店から追い出された。
なんと、なんと悔しいことか。
自分だけでなく薬師にとって神様のような存在の薬聖様までが馬鹿にされたのだ。
ボクは思わず拳を握りしめると、手から血が滲んできた。
これほどの怒りを覚えたのは久しぶり……って、ん?
「な、何をしているんだい!?」
手元を見るとキャロが血の滲んだボクの手をペロペロ舐めていた。
「だってぇ……パパ、血が出てるからぁ」
しゃがみこんでボクの足を掴み、手を舐めるキャロの顔は上気している。
呼吸もなんだか荒くなってきているようだ。
「キャロ……さてはさっきのお茶を飲んだな!?」
「だってぇ、喉が乾いてたしぃ」
どうやらボクのアイコンタクトは失敗していたらしい。
キャロの症状からみて毒ではないだろう。おそらく……媚薬だ。
「……親子で楽しみなって事か? あのゲスめ!」
ボクは甘えて寄りかかってくるキャロを抱えると急いで店まで戻った。
「えぇっと、この辺に……あった!」
ボクはナルームの皮とジルコスの粉末を乳鉢に放り込むと急いで擦り合わせる。
しばらく混ぜるとナルームの皮から出た汁にジルコスの粉末が溶け込んだので、液体だけを匙で掬ってキャロに飲ませる。
「ほら、キャロ……これで大丈夫だよ」
「パパぁ……おくすり、口移しでちょうだい?」
そんな事をいうキャロの頭をぽんと叩いて匙を口に近づける。
血は繋がっていなくても君はボクの大事な家族なんだからそんな事は出来ないよ。
そしてそんな家族にクスリを盛るなんて……絶対に許さない。
キャロは薬を飲んだからじきに眠るだろう。
これは眠れば治る類のものだから無理に解毒するよりはこれでいい。
だけど僕の怒りはこれじゃ収まらないぞ。
明日になったらこの国の大臣へ訴えてやるからな。
ボクはそう心に誓って、眠りについたキャロの頭を撫で続けた。
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