1話 違法ポーション
「はぁ……今日もお客さん来ないねぇ」
店番をしてくれているキャロが暇そうにカウンターの椅子を揺らしている。
「うん、でもまぁウチは薬屋だからお客さんが来ない方がいいんだよ。みんな健康って事さ」
ボクは薬の調合をしながらキャロのぼやきに応える。
「店長……いや、パパ。それは考え方が間違ってるよっ!」
「どう間違っているんだい?」
ボクは薬の調合をしていた手を止めてキャロに聞いてみる。
「お客さんが来ない理由は1つ! 大通りにできた"どらっぐすとあ"とかいうヤツのせいだよ!」
キャロがビシィっという音を立てながら指を立てて力説する。
確かに今までは怪我をした街の人が薬を貰いに来たり、これから戦いにいくという冒険者が薬を買いに来たりで毎日ごった返していた。
けれど"どらっぐすとあ"が出来てからの客入りは最悪で、日に日にお客さんが減っていて今日はついにゼロ。
このままでは生活もままならないので、キャロには内緒で街の外の魔物を退治してお金を稼いでいたりするほどだ。
「とはいっても必要な人に必要なだけ薬が行き渡ってるならそれでいいんだよ」
「甘いっ! パパの良い所は薬の調合が天才的なところと、サラサラの金髪と、クリクリのお目々、それと料理が上手で綺麗好き、あとキャロを甘やかしてくれる所だけ!」
「け、結構あるんだね……」
「つまり! パパのダメなところは優しすぎる所だよ。商売は戦いなんだよ! ってことで、向こうの偵察に行ってくるねー」
気付けばキャロはお店の制服を脱ぎ捨てて、フードの付いた私服に着替えていた。
いつの間に……。
「これで変装はバッチリ! リーフのくすりやさん関係者だとはバレないはず……」
「はぁ……キャロ、桃色の髪と可愛いお耳が丸見えだよ。それじゃバレバレだ。せめてフードを被ったらどうだい?」
ボクのその言葉を聞いたキャロはなるほどね!といってフードを目深に被った。
キャロはこの辺じゃ珍しい狼系の獣人だし、獣耳が出てたらやっぱりちょっと目立つからね。
「なんだ、パパも乗り気だったんだね」
ニヤニヤとした顔をしながらボクを肘で突っついてくる。
「いや、キャロは一度言い出したら聞かないじゃないか……はい、ボクが調合の時に使う口当て」
「お、これがあればキャロの美貌も隠せるね。じゃあ行ってくる!」
騒々しく飛び出していったキャロは、ボクが調合に使う珍しい草を求めて旅をしていた時に拾った、というか預かった子だ。
あの時は4歳くらいだったキャロがもう17歳……ボクも歳をとるわけだな。
さて、キャロが帰ってくるまでは調合の続きをしておこうか。
お客さんが来ないからってボクはボクの為の調合があるんだからね。
「ただいまぁ」
「おかえり、キャロ。大丈夫だったかい?」
「うん、もっちろん。これが"どらっぐすとあ"で買ってきた一番高いポーションだよ」
「ポーションというとウチでいう傷薬だね? じゃあウチには何が足りないのかちょっと調べてみようか」
そういってボクはキャロからポーションを受け取ると、調合用の小皿に少量を入れた。
見た目はやや青みがかった透明でこれといった特徴はないみたいだ。
それを確認したら次はぺろりと舐めてみる。
「うっ。こ、これは……」
「パパ、どうしたの?」
キャロが心配そうに覗き込んでいる。
まぁ毒が入っていてもボクには効かないから平気なんだけどね。
「これは……スピッドという依存性のある違法な薬を混ぜ込んでいるな」
僕は自然と顔をしかめながら舌を手近な布で拭き取る。
「ちなみに一番安いポーションはいくらだったんだい?」
「えっとねー、ウチの傷薬の半分くらいだったかな?」
「ふむ……安いポーションで客を釣って、依存してきたとみれば高いポーションを買わせている、とか?」
「あぁだからウチのお得意様だった冒険者さん達が全然来なくなっちゃったのかも!」
キャロは納得した、という顔で手を一つ叩いた。
「それに肝心の薬効を水でかなり薄めているし、これじゃ擦り傷くらいしか治らないよ」
「え、これがあのお店で一番高いポーションだったんだよ?」
これは許せない……許してはいけない!
ボクは立ち上がり、椅子にかけておいた白衣を羽織ると"どらっぐすとあ"ことノーズィードラッグへ向かった。
「キ、キャロも行くっ」
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