迷い込む
「ここは【裏】だよ、お兄さん」
後ろからの突然の人の声に吃驚して、身体が跳ねる。振り向くと、少女が1人、出を向いて立っていた。
「お兄さん、ちょっと」
そう言うと、少女は出の左手を掴んだ。しかしそのまま、右手へ目をやる。
「お兄さん、左利きか」
左手を離し、右手を凝視し始める。そして、少女の華奢な掌を重ね、
「解除」
その瞬間、ぶわっと出の周りを煙が包んだ。発現元は勿論出である。
「!?」
出は慌てて手で口を覆おうとする。しかし、少女がそれを制す。少女は出の両手を掴んだまま、共に煙に包まれた。
しばらくして出は閉じていた目を開ける。両手には温もり、煙は辺りへ散って、視界は戻っていた。
否、戻ってはいなかった。
「なんじゃこりゃああっ!!?」
「五月蝿いよ、お兄さん」
ベシンッと少女は出の頭をを叩く。出は興奮気味に少女を睨みつける。
「いや、こんな非人間が溢れかえってる現場見て驚かねぇやついるかよ!?」
「ふむふむ?」
はぁぁ、と大きくため息をつき、出は改めて倒れ込んだ。少女も合わせて屈む。
「説明してくれ、そもそもあんた誰なんだ、ここは何処だ、裏ってなんだ…」
質問する出の声に生気は無い。
「んー、答えたいところなんだけど」
「あ?」
出は少女の顔を見る。少女は辺りをキョロキョロしていた。
そこで、出はとても重要なことに気づく。
(え?めっちゃ可愛くない?この子……)
「お兄さんっ!!!伏せ!!!!!!!」
突如の大声に驚きつつ、指示に従う。地面に伏せた瞬間、爆音が鳴り響いた。
「よおぉ、新人かい?いいねぇ、若いもんは大好きだ」
「急に攻撃してくんじゃねぇ、ぶっ殺すぞ」
少女の荒い言葉と、もう1人、ハスキーな低音の声が聞こえる。どちらも穏やかでない会話をしている。出はただ、伏せている他無かった。
「ぶっ殺すだぁ、オンナノコが使っていい言葉じゃねぇな。花火ちゃん?」
「出会い頭に爆破してくんのが紳士の振る舞いかよ。山風のおじき?」
「あ、あのぅ」
「お兄さん、説明は後で。死にたいなら今話しますけど」
「あ、あとでお願いします」
承知、
そう言ったのも束の間、少女“花火“は2メートル近い巨漢の男性へ突っ込んだ。
少女の両手にはそれぞれ刀が握られていた。