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やせいの まおうが あらわれた!

皆さんのご意見ご感想、出来れば評価されるための秘訣などあれば幸いです





 一般人が冒険者の力を一目で判断する基準に、冒険者の階級とランキングが存在する。

 全ての冒険者は下からE・D・C・B・A・Sとランク付けされ、皆初めはEランクから始まり、これまでの功績や依頼達成数などを鑑みた昇級審査によってランクを上げていく。

 簡単に言えば上のランク程凄い冒険者であるという極めてシンプルな基準。

 

 もう一つの判断基準であるランキングは、全冒険者を対象とした功績や依頼達成数を数値化したものだ。

 必然的にランクの高い冒険者が上位になる傾向があるが、中にはAランクの冒険者がSランクの冒険者よりランキングが上のパターンも存在する。


 これら2つの判断基準はどこに行っても通用する冒険者に対する信頼度とも言える。故に、Sランク冒険者にしてランキング13位の《閃迅》の異名を取る冒険者、カイトの言葉には絶大な信憑性が宿るのだ。


「多分ね……戦いの中で覚醒しちゃったんだろうね。正直僕もどう戦ったのかは覚えてないんだけど、気が付いたら僕は地面に倒れてて、悪魔総長(アークデーモン)は原型が無くなるほど切り刻まれていたんだ」


 そう自慢げに話すカイトの武勇伝を周りの冒険者は羨望と畏怖を込めた視線を向け、喝采を上げる。

 誰一人として彼の言葉を疑う者はいない。常人を超えた超人の力は、誰もが認めるところだからだ。


「…………」


 ただ一人、無言で戦斧を振り上げる、実際に悪魔総長を一撃で倒したジークを除いて。


「ちょっとちょっと!? ジークさん何する気ですか!?」

「放してくださいミシェナさん! あの勘違い野郎の頭をかち割らないと気が済まないんだ!!」


 そんな超人を超えた人外の腕に果敢にしがみ付いて止めるのは山吹色の髪を一房三つ編みにした女性。冒険者ギルドの看板娘である受付嬢の一人、ミシェナだった。

 スタイル良し、顔良し、疲れ果てた冒険者を労わる優しい笑顔で人気の彼女は、ジークの腕に振り回されながらも暴れ馬を御すように最強の冒険者を宥める。


「大体何が覚醒(笑)だ!! お前蠅みたいに叩き落されてた癖に何人の手柄を横取りしてやがるんだ!!」

「うんうん、そうですね。アルバトロスを救ってくれたのがジークさんだって、私はちゃーんと分かってますからね」

「魔核さえ……魔核さえ無事だったら俺の手柄だったんだ……! なのにあいつ、Sランクだからってさも自分の手柄のように……!」

「ほら、愚痴なら幾らでも付き合いますから元気を出してください! 新しい茶葉が入ったからお茶を飲んでいきません? 今ならお菓子もありますよ」

「うぅ……食べる」


 本気で悔し涙を流しながらミシェナに手を引かれ、奥の客間に誘導されるジーク。

 その後ろ姿を多くの男性冒険者が殺意混じりの視線を向けていたことに気付かず、ジークはミシェナが淹れた紅茶と甘い茶菓子に舌鼓をうち、ようやく落ち着きを取り戻した。


「すいません、ミシェナさん。何時もご馳走になっちゃって」

「いえいえ、本当ならもっと多くの報奨を受け取るはずだったんですから、せめてこれくらいは」


《無冠》のスキルによって功績や強さが伝わりにくいジークにとって、ミシェナは自分の実力を正しく評価してくれる数少ない人物の一人だ。

 依頼の達成を証明できずに何時も愚痴を溢すジークに紅茶を奢るのは最早2人の習慣のようになっている。


「そういや、あのカイトとかいうSランク冒険者、明日のランキング更新で一つ繰り上がるって聞いたんですけどマジっすか?」

「あー…………そういう話があるのは確かですね。魔核が粉々になった事で、形式上依頼は誰も成功できずに消失という形になりますけど、ギルドの上役はカイトさんが悪魔総長を倒したものと判断したみたいで」


 悪魔総長討伐の功績が蠅みたいに叩き落されて戦闘不能になったカイトのものとなったのは、あの戦場に居て悪魔総長を倒せる可能性を持った者がカイトしかいないという、肩書がものを言った結果だった。


「すみません。私も上に抗議してみたんですけど、Sランク相当の魔物をEランク冒険者が倒せるはずがないって一蹴されてしまって」

「まぁ、当然と言えば当然ですよねぇ……。討伐を証明できなかったのは俺ですから、ミシェナさんもあんまり気にしなくていいっすよ」


 そう言いながら重い溜息を吐く2人。


「話に聞くだけですけど、《無冠》のスキルってすごい強力ですね。この1年で多くの依頼を引き受けてくれましたけど、ちゃんと功績として認められたのって数えるくらいしかありませんし。それも簡単な依頼ばかり」

「まぁスキルに関してはスキルを消す方法でも見つからない限り諦めてます。でもここまで変化がないのは、もう他の要因があるんじゃないかと前向きに考えてますね」

「他の要因ですか?」


 ジークは頷き返して、戦斧の柄を握る。


「俺は基本的に斧で戦ってますけど、ぶっちゃけ斧って人気ないじゃないっすか。そして剣士は大人気」

「まぁ、否定しきれませんね」


 御伽噺や英雄譚では、斧は山賊や盗賊といった小悪党が使う武器としてのイメージが強く、英雄や勇者は大抵剣士だ。

 それに関係しているのかどうかは分からないが、どういう訳か冒険者も剣士が多い。


「じゃあこの際武器を剣に変えてみては?」

「人気を取るためにそれも考えたんですよ。でも仮にも仕事なのに本気出さないって舐めてんのかって感じじゃないっすか」


 ミシェナは「変なところで真面目な人だなぁ」と苦笑を浮かべながら内心で呟く。

 階級やランキングが高ければ固定のファンが付き、おのずと功績がギルドにも伝わるのだが、富と名誉が目的でもあくまで仕事でもあるから支障が出ないことを優先するという。

 職員としては非常にありがたいが、個人としては複雑だ。


「それならどうして最初から剣の修行をしなかったんです?」

「俺が使い慣れた武器になるものっていえば斧しかなかったんですよ。実家の薪割りは俺か親父の仕事でしたし、剣なんて触ったことも無いっす」


 帰ってきたのは単純明快な答え。鍛えるなら使い慣れた武器を重点的に鍛えるのは当然だろう。


「まぁそれのおかげで変わらず人気出ないんですけど。この1年でヤバい魔物倒してんのは大抵俺っすよ? なのに他の冒険者ときたら俺の功績を掠め取って金貰ってるとか。あいつら全員、糞尿に浸かった槍で貫かれればいいのに」


 どんよりとしたオーラを出しながら恐ろしいことを口にするジーク。目尻に浮かぶ水滴は、間違いなく悔しさの涙だ。


「えーと……ふ、雰囲気が暗くなってきましたね! もうちょっと明るい話題にしましょう! 朝のギルドニュースで勇者パーティが魔王の眷属を打ち破り、魔王と引き分けて帰ってきたらしいですね!」

「あぁ、それなら俺も聞きました」


 勇者パーティ。それは冒険者ランキング頂点に君臨する5人であり、各国の王から敵対者である魔物の王、魔王の討伐を依頼された世界的英雄だ。

 魔王を倒せば暗黒の地の開拓が大幅に進むとされ、その依頼に殉じる彼らには絶大な権限が与えられている。

 魔王が倒されたわけではないが、それでも未だ誰も成し遂げたことのない歴史に残る偉業と言えるだろう。


「凄いですよね。勇者はまだ19歳、盗賊のシノさんなんて15歳ですよ? こんなに若いのに世界の未来を背負っているなんて」

「本当にそうっすよね。19歳って言ったら俺と同い年なのにランキング1位。皆……主に女からチヤホヤされてますし。ホント、憎い色男ですよ! ホント、憎い……憎い……憎い。憎い、憎い憎い憎いにくいニクイィeぃィぃEぃっ!!」

「あぁっ!? ジークさんの嫉妬心が限界をっ!?」


 嫉妬のあまり血涙を流しながらハンカチを噛む最強冒険者。

 下に向かってグイグイ引っ張られた安物のハンカチはビリィッと引き裂かれるのではなく、ブチッと音を立てて引き千切られた。

 ミシェナは自分の失態を自覚する。ジークにとって他の冒険者の好評など地雷以外何物でもない。

 こうなっては何を言っても嫉妬しそうだが、覚悟を決めてこの嫉妬に狂う面倒極まりない状態のジークを宥めにかかるのだった。






 その後、何とか落ち着きを取り戻し、街のはずれに建つボロアパートの2階の自宅に帰ってきたジークは、こじんまりとした台所に立ち、買い物袋から取り出した野菜屑と屑肉を取り出す。

 どちらも肉屋と八百屋で安く買える、貧乏人の味方だ。

 熱したフライパンで炒め、味付けは塩胡椒のみ。出来上がった野菜炒めを皿に盛り付け、炊いた古米とコップに満たされた水。それが今日の夕飯だった。


「……虚しい」


 ジークは静かに泣いた。 

 全てが上手くいくとは初めから思っていなかった。しかし冒険者を始めて一年、後から来た新人にランキングを追い越される日々に貧乏暮らし。思い描いていた未来図とはかけ離れた現状には流石に泣けてくる。


「いや、まだ一年しか経ってないって考えよう。ここから俺はのし上がるんだ」


 しかしこの程度で志を曲げるなら冒険者に等なってはいない。実力は十分どころか十二分、後はスキルに打ち勝つ運と機会があればいい。

 頭を振って嫌な気持ちを振り払い、明日への活力を得るために野菜炒めにフォークを伸ばした瞬間――――


「くはははは! 貴様が人類最強の男か!」


 何者かが天井を突き破り、料理を持った皿ごと机を粉々にした。豪速の矢も止まって見える視力で飛び散る米や野菜炒めを呆然と眺めるジーク。

 不思議と怒りがわかず、戸惑いが全身を支配するジークは文字通り降って湧いた来襲者を座ったまま見上げる。

 その者は人間ではなかった。エルフやドワーフのような友好的な種族でもなかった。

 骸骨のような悍ましい顔を持つ人類の不倶戴天。暗黒の地を統べる黒い双角。迸る圧倒的魔力はそれだけで攻撃となり、床や壁、ベッドを焼き焦がす。


「我こそは、魔族の王にして暗黒の地の覇者! 世界頂点に君臨する魔王である! 人類最強の男、ジークよ! 世界を制するために、貴様を屈服させに来たぞ!」


 もし、物語のように劇的な出会いがあるとすれば、まさにこれの事だろう。

 たとえ其処がボロアパートだろうと、相手が美少女ではなく骸骨顔のおっさんだろうと、結果的に世界を変えてしまうのなら運命の邂逅と呼ぶに相応しい。


「さぁ、今こそ我の新たな眷属となれぃ!!」


 ぐちゃぐちゃになった料理や砕けた机の上に立ち、ドヤ顔で迫る魔王。徐々に冷静さを取り戻したジークの返答は……拳だった。


「天井とか机とか、色々弁償しろ!」

「どぶらばぁああああああああああああああああっ!?!?」

 

 名目上最強の冒険者パーティと互角に戦う魔王が反応も出来ずに、アッパーカット一発で天高く打ち上げられる。

 事実上最強冒険者の自宅で魔王がエンカウントした、十数秒後の出来事である。

 

人気作家になるためにはどうすればいいのかが、気になります。しばらくこの作品に集中したいと思います。

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